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世界の右傾化傾向について
(2007月10日14日記載)
"マンガ嫌韓流"のスマッシュヒットは、記憶に新しい。韓国(及び朝鮮)に反感や嫌悪感を持つ根拠は人それぞれだが、最近の嫌韓の理論体系は、大雑把に言うと次のような事にだいたい集約できると思う。
「日本が韓国を併合した事により、後進国の韓国がここまで発展できた。日本国民の血税を注ぎ込んで、韓国の種々社会基盤を整備し、韓国の生活を押し上げたのである。韓国が言い立てる暴虐な植民地支配なんて、ほとんど無かった。"根も葉も無いデマ"でしかなく、そんな事を示すまともな資料はどこにも無い。
日本が清に勝った事により、長年中国の属国だった朝鮮は解放され、日本がロシアに勝った事によって、朝鮮半島はロシアの植民地化とその搾取から守られたのである。ロシアが朝鮮半島を支配していれば、当時の欧米の植民地支配を見ても分かるように、間違いなく過酷な搾取が待っていただろう。日本が多数の国民の血を流して戦いロシアに勝った事で、それが防げたのだ。
また韓国がここまでの経済発展できたのは、戦後、日本が韓国に残した"膨大な工場設備等の資産"のおかげなのに、感謝どころか反日政策をかかげている。補償問題も、国家間で解決している。また韓国は、なんでもかんでも自分達が一番でないと気がすまないらしく、実力と乖離した主張を展開し続け世界の失笑をかっている」。
まあ、だいたいこんな感じで間違いないと思う。これらを主張する人々は、色んなデータを集め理論武装している。確かに(僕も歴史を色々学ばんとする者として)、これらの主張には事実も多く含まれているのは理解できる。しかし、これらの主張に物凄い違和感を覚える。僕は共産主義者でもなく狭量な愛国主義者でも無いが(むしろその両方が嫌い)、すごく嫌悪感を覚える。何故だろうか?これを日米関係に置き換えると分かり易い。アメリカ人が、日本人に次のように言ったら(※と言うか、実際にこの手の発言が実際にあるのである)、日本人はどう思うだろうか?
「アメリカが原爆を落としたおかげで、それ以上、日米とも戦死者を出さずに戦争を早く終結できた。またアメリカが日本に進駐したおかげで、ロシアの支配を免れ、共産主義国家ではなく民主的な新しい国家が生まれた。
また、戦後の日本がここまで発展できたのは、アメリカの核の傘下で他国の脅威から守られて、経済発展にのみ集中する事ができたからで、感謝されこそすれ、反感を買う理由などない」。
まさにこの徹底的な上目線の理論である。幾許かの事実も含まれているが、この理論に日本人が違和感と嫌悪感を感じるように、嫌韓流の理論に違和感と嫌悪感を感ずる。
お互いの国民全員が反目しあっているわけではないが、韓国の一部では反日、日本の一部では嫌韓…。しかしこの他国人を排斥する風潮は、この日本に限った事ではない。フランスやスイスと言った民主的と思われている西欧の国々でも、ネオナチズム等の勢力が伸び始め、外国人排斥の声が日々高まりつつある。彼らも、ネオナチ独自の理論武装をし、自己を絶対正当化する。
その構成員の多くは、低所得層やDV等の問題のある家庭の子女だと言う事だ。彼らは、社会のどこにも居場所が無く、不満のぶつけ先が無い…。社会ないし自分自身に余裕があれば、「くだらない戯言は放っておけよ」と余裕を持っていられるが、格差が増大し不満が高まってくるとそんな余裕はなくなり、その怒りの矛先はかならず誰か他者へと向かう。世界の最近の右傾化傾向も、決してそれとは無縁ではないと思う。
自分の国の人間でさえ働く職場が無いのに、外国から(時には不正な入国によって)入ってきた他国の人間が、安い賃金で職を奪う。しかも、やりたい放題の犯罪を犯し、治安の悪化に拍車をかけている。にも関わらず、権利や不満だけは声高に主張する。事実と事実でない偏見の両方が入り混じって、次第に外国人排斥の声が高まっていく。極端な愛国主義や原理主義に傾いていく国家は、ほぼ例外なく経済停滞による貧困の増大や圧制(圧政)など、社会の不安や不満が増大している国家が多い。フラストレーションが最終的に爆発していく背景には、次のような思考が存在すると考えられる。
Ⅰ.政府の立場や考え。政府の失策による社会不安への国民の怒りの矛先を、政府にぶつけられるのは避けたい。矛先を他に向けたい。
Ⅱ.個人の立場や考え。自分の人生が八方塞になり、自分自身の状況や力(※家庭環境・友人関係・経済状況・学歴・職等様々な要因を含む)によってはもはや満足や優越感が得られない場合、最後に"その国家の一員"、"民族の一人"の一員であることに"誇り"を見出したい。
つまり政府と個人の"思い"は、理由は180度方向は違うのだが、国民が国家に誇りを持つ(※時に他国を蔑む事も抱合する)事で一致点を見出す。そして、その国家(や民族)の優位性を際立たせるには、次の2つの方法がある。
①自国の歴史(過去の文化、社会、経済etc.)の素晴らしさを強調する。
②他国ないし他民族とその歴史(や文化や社会など)の劣等性等を強調する。
①についてはどこの国でも行なっている。問題は、国家が②を行なう事である。他国や多民族を攻撃する事は、国民を一致させ、自国の不満の矛先とエネルギーをそこへ誘導する効果がある。第一次大戦後、社会の不満が高まったドイツにおいて、ナチスドイツは正にこの事を対ユダヤ人に対して行い、絶大な指示を集めて強大な権力を掌握した。
現代でもアメリカ等の国家はまさにこれを的確に行い、"ならず者国家"を定期的に創出してそれを国民に提示し、多民族国家を団結させている。とは言うものの、一般的にはやはり②を国家が行なう事は、国際間の軋轢を増大させるので難しいし、通常は避けられる行為である。一方、個人の責任で行なうのであれば、②は行いやすい。特にインターネットの発達したこの社会では、自由に意見を発信できる。
問題は、その"歴史の事実"をどう認識するかと言う点である。「歴史で何が起こったのか?」についての考察は、歴史の専門家でも意見が分かれる。歴史は、難しい学問の一つだ。実験による再現性が可能な物理学や化学などとは違い、経済や政治や歴史と言う社会科学系の学問は、国家の政策・方針、イデオロギーにも大きく左右されてしまう事があり、(史実が示すように)実際に多くの国家でそうされてきた。
特に歴史は、難しい。過去の文献や遺跡等によって類推するしかない。近世史で証人が生き残っている場合でも、自己保身等のため誇大な証言や歪曲化した虚偽の証言をする場合も起こりうる。歴史の事実を突き止めるために、どの資料や証言を用いるのか、基づいたデータに信頼性はあるのか等、専門的に科学的に歴史の事実を突き止めていく事は、的確な方法論と莫大な知識・経験を必要とするのだ。
記憶に新しいところで言えば、我々の世代が受験で慣れ親しんだフレーズの"良い国(1192年)作ろう鎌倉幕府"も、新たな資料を元に、その開幕の年号の間違いが修正されている。このように、僕らが確信していた事柄が、ある日コロッと変更される事もある。また一般に流布し信じられている史実が、実はまったく後代に作られた偽資料の記述を元にしていて、それが地方の観光の基盤になったりしていて訂正したくてもできない、と言う事もあったりする。それが過去を扱う"歴史"と言う学問と言う難しさなのである。一筋縄ではいかない。
しかし、多くの人は学者ではないので、"①自分の国家の歴史の優位性"と"②他国の劣等性"を証明するのに、自分の主張に都合の良いデータを集め理論武装する。自分の主張にあわないデータは、信憑性の無い"ガセネタ"と主張する傾向が強い(※そして対立する主張をする論陣も、ほぼ同様な事をしているのである)。イデオロギーに左右されず、客観的に歴史上の事実を突き止めると言う作業は、学問的にも対社会的にも、とてもたいへんな難しい事なのである。
最近の欧米のネオ・ナチの理論も、かなりの部分自分達に都合の良い理論で形作られているようだ。歴史認識と言うものは、そう言う難しい本質を常に併せ持っている。
どの国民にも、自分を国を愛する気持ちがあるだろう。しかし、極端な愛国主義や民族主義等の右傾化傾向は、概して貧しい国家に多い。かつて貧しい国家は、平等を求めて共産主義・社会主義に走った。しかしそれらが幻影であると判明した現在、貧しい国々は、宗教や民族主義、愛国主義等を抱合した複合的な右傾化の道を辿っている。貧しい国々でイスラム革命が起こりやすいのは、決して偶然ではない。彼らはかつてのイスラムの偉大な文化が現在の科学の基本を形作っている事を主張し、かつ現代の中東や南の国々が欧米諸国に搾取され差別されている事を訴える(※そしてその主張にも事実が含まれている)。
ところが貧しい国家だけでなく、西側諸国でも熱狂的な民族主義や愛国主義が湧き上がりつつあるのは、先ほど述べた通り。グローバル経済化によって、欧米でも格差が広がっているのである。金持ち国家と思われている大国アメリカですら、持つ者1割、持たざる者9割と言う超格差社会であり、ヒステリックな愛国主義傾向の強い国家であり、他国に爆弾を平気で落としさえする。
日本も、アメリカを見習う各種政策を続けたおかげで、立派な"格差社会国家"になりつつある。各国が余裕を失い、世界全体が右傾化傾向にある世の中、国家同士だけでなく、個々の人間同士すら反目しあうような生きづらい世の中になってしまうのだろうか?お互いに相手の欠点をあげつらい、批判しあい、憎しみあう世界になってしまうのだろうか?他国、他地域、他企業、他人…誰もがそれぞれ欠点を持っているのは当たり前であるのに。自分の子どもが生きるこれからの世界の事を思う時、とても不安で心配になってしまうのは僕だけでは無いと思う。どうしたら良いのだろう?
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