入口 >トップメニュー >戦争と平和 >現ページ

2.自衛隊の諸問題と国際貢献
          (2002年1月13日記載)


 さて前回に引き続き今回も自衛隊を取り上げ、自衛隊を取り巻く問題&国際貢献について考える。私自身は、国際貢献には必ずしも自衛隊が必要だとは考えていないのだが、なぜかこの国の政府は国際貢献に必ずと言ってよいほど、自衛隊を出したがる。そこで、自衛隊問題は避けて通れそうもないので、まず自衛隊問題を取り上げている。
 で、その自衛隊なのだが、前回見たように憲法の"理念"と"実情"がかけ離れてしまい、憲法解釈の拡大を続け過ぎて矛盾が噴出している。そこで、まず問題点と改善すべき点を取り上げる。


・自衛隊と戦時立法

 どのような詭弁で隠しても、結局のところ自衛隊は軍隊である。主目的は他の国が攻めてきた場合に、軍備で日本を守ることである。戦争になれば、当然戦車は街中を走り、海岸線の建物はバリケード替りにされるかもしれない。もちろん、平常時に戦車を路上にとめて置いたら駐車違反、勝手に人様の家に上がり込んだら不法侵入である。いずれも、法で裁かれる行為である。しかし、戦争になればそんなことを言っていられない。敵国が侵入するのを防ぐため、海岸線の家屋や土地をすみやかに摂取しなければならないかもしれない。そういう非常事態時の法律は、平時の法律と置き換えられて適用される。これが戦時立法(現在日本では有事立法という言い方をしている)なのだが、日本にはこの法律がなかった。つまり、どこかの国が攻めてきて自衛隊が出動して使命を遂行すると、自衛隊隊員は訴えられたら道交法違反などで有罪になる可能性だってあるのだ。
 逆のことも言える。「戦争が起こったのだから、四の五の言ってられない。とにかく防衛が、すべてに優先する。戦時法がないので、超法規的にやりたいようにやらせてもらう」ということになったら、とんでもない話である。戦時立法がきちんと制定されていれば、それに違反するような過度な行為をとどめることができるが、戦時法がなければ、して良い行為とダメな行為の境界線がない。他の役所との権限の争いもはっきりさせておく必要があるし、個人の財産や権利も過度に制限させない必要もある。
 そもそも日本は、法治国家である。これらの戦時立法があってしかるべきなのだが、「有事立法法制化の議論そのものが戦争への道を開く準備だ」とかという議論になってしまう。もしくは今まで「戦争は起こらないものとする」→「だから有事立法も必要ない」という理屈で済んでしまった。しかし、国に限らずどんな組織も、いざという時の準備をしておくのは当然だと考える(それらの準備は無駄になるのに超したことはない)。自衛隊の位置付けをきちんとし、きちんと働けるものにしておかないと、多額の税金の無駄というものだろう。
 そして、その後戦後初の有事立法と言える"周辺事態法"が出来上がるのだが、しかしこれがまたとても胡散臭い法律なのだ。このことは、国際貢献で考えてみたい。


・自衛隊のシステムと装備の改善

 さて、憲法と法律の問題点だけでなく、自衛隊の組織(システム)と装備そのものにも問題がある。自衛隊の組織構造を細かく取り上げるつもりはないが、一口に言って未だに「冷戦構造下」の軍隊の体裁に近い。いったい今時どこの国が正面きって、北海道に戦車軍団を引き連れてゾロゾロと上陸してくるのか。どの国もイラクやユーゴスラビア二の舞にはなりたくないだろう。百歩譲って攻撃があるとしても、巧妙なサイバーテロや正体を隠した破壊活動のテロ・ゲリラ戦が主体だろう。
 であるのに、北海道には300両以上もの戦車が配置されている。そして日本の自衛隊は、世界最高級の戦闘機F-15イーグルを203機も所有しているのだ(やっぱり日本はアメリカの良いお客様なのね)。世界的な軍隊装備レベルからすると、専守防衛のためだけの軍隊にしては規模が大きすぎはしないか?これからの戦争は、情報戦、ゲリラ戦であり、テロとの戦いが主流になる(訓練も富士の裾野で砲弾を撃ちまくるだけでなく、市街戦・サイバー戦への訓練がより必要である)。自衛隊の組織と装備は、それらに対処できるように改編・改善していく必要がある。サイバーテロへ対する優秀なシステム・エンジニアリング達の人員と装備の拡充、ゲリラ・テロ活動に対処するための部隊と装備の増強、化学・細菌兵器に対処できる部隊の増強などである。また国際貢献を前提にするのであれば、大型輸送機や輸送艦をはじめ、難民援助用の各種装備などの増強は必須である。
 また自衛隊の個々の隊員の装備も、世界標準から言ってレベルが低いと言われる。化学兵器防護服や赤外線暗視ゴーグルなど、圧倒的に数が少ない。まず自衛隊の兵器調達費が、とても高いところから直す必要があるだろう。例えば、欧米での小銃の価格は一丁あたりだいたい5~10万円だが、日本だと20~30万円もする。対戦車ミサイルも欧米では、2000万円ほどだが、何故か日本では1億円である。戦車に至っては、欧米では1億円から高くても3億5千万円ほどである。ところが、日本の90式戦車では12億円もするのだ。いくら自衛隊の予算が世界の中でも多額であるとは言っても、これではそれらを税金で買わされる国民としては納得できない。「業者と癒着でもあるのか!」と、突っ込みたくなるのが人情であろう。
 自衛隊は徐々に改革されていく方向にあるが、あまりにスローモーである。組織も装備も、早急に実情にあったものに改善してほしいと心から願う。


・自衛隊による国際貢献・平和維持活動と人道援助国際救助活動


 さて、いよいよ本題である。自衛隊の国際貢献について考える。過去、マスコミで色々と取り上げられた自衛隊の海外派遣であるが、どのような所に派遣され、どのような活動をし、どのような問題があったかを分析し、将来どういう貢献が可能かを考えたい。
 湾岸戦争時に世界中から嘲笑を浴びた日本だったが、湾岸戦争終結後1991年4月に遅まきながらペルシャ湾へ海上自衛隊の掃海艇が派遣されて、6月以降に34個もの機雷を処分した(この時の苦労を経験に、その後イギリス海軍の装備する最新システムを採用した)。実はこの掃海艇、PKO協力法案によって出動したものではない(PKO協力法案成立は、その後9月に国会へ提出された)。掃海艇派遣は、通常の自衛隊の任務の延長として行われた。「武力行使が目的ではない遺棄機雷の除去である」「戦闘時ではない」「日本の船舶にも危険」という理由でである。
 1992年6月、ついにPKO協力法案が成立したのであるが、この法は5原則に基づいている。①当事者の停戦合意、②PKOの中立性、③当事者の受け入れ同意、④これら三つのうちどれかが崩れたら、直ちに引き揚げられる、⑤武器の使用は、隊員の生命などの防護のために必要な最小限度ととする。
 この法案、与党と野党の妥協の産物であり、実際の国際舞台ではこの法は成立し得ない。そもそもPKO部隊が派遣されるのは、PKO参加国が平和でないからであって、完全な平和状態ならPKO部隊などいらないのである。なので原則の④は、難しい。そして⑤は、論外である。対戦車ミサイルや重火器を持つゲリラ部隊が徘徊する戦場へ派遣されるのである。そこへ、小火器を持たされた隊員が派遣されて、「武器使用は正当防衛の考えで、個人で判断しなさい」ということなのだ。例えば隣のテントに外国の平和維持部隊がいて、ゲリラに攻撃を受けても日本は助けることはできない。「このままでは、全員殺されてしまう!日本も防護に協力してくれ!」と応援を要請されても、「いやぁ、うちは日本の法律で禁じられてますから、できません。」ということなのだ。これでは、湾岸戦争以上の嘲りの的となるのは間違いない。
 で、実際のPKO協力法によって、自衛隊が最初に派遣された地域はご存知カンボジアのタケオである。ここは、当時カンボジアで唯一安全地帯と言われたタケオ州であった。当初は、国連より北部の危険地帯を打診されていたが、頼み込んでタケオに変えてもらったという経緯がある。彼らの任務は、橋や道路の修理とされ、現地入り後UNTAC(※国連カンボジア暫定機構)の要請で、UNTACに対する給水、給油、医療、宿泊施設提供、物資輸送の任務も加わった。現地のゲリラ活動が活発になった時には、自衛隊はなんとフランスとブルガリアの歩兵大隊に"警護"を依頼したのである。軍隊が軍隊に警護を依頼…前代未聞の珍事である。国際貢献するための派遣であるのに、外国の平和維持軍の足を引っ張る迷惑軍隊となってしまった。
 ついで自衛隊の派遣は、1993年3月のモザンビーク。そして、1994年9月に初の人道援助国際救助活動としてアフリカ中部の当時のザイールの、ルワンダとの国境地帯に派遣された。ところが、ここはアフリカの最危険地帯であった。政府は「安全」であると言い張った(※安全ならこんな任務が発生すること事態があり得ないのだが…)のも非常識だが、野党側の論点も史上最低のものだった。「機関銃では、憲法の禁じる"武力行使"になるから、持っていくのは自動小銃だけ!」「いや、とても危険な地域で、機関銃を二挺だけでも…。」「それなら、一挺だけゆるしましょう。でも、二挺はダメ。」と、いうわけでアフリカで最も危険な地域に、機関銃一挺だけ持って派遣されることなったわけである。あまりにレベルの低い史上最低の論争である(ちなみに、このPKO活動時にはNGOから自衛隊への緊急救援出動要請は5回もあった。また車両を強奪された日本のNGOや難民の救出にも出動しなければならなかった)。
 次の自衛隊派遣は、1996年2月から常駐PKO参加した中東のシリア=イスラエル国境の「国連兵力引き離し監視軍」(UNDOF)である。これは、世界で絶対安全なPKOということで派遣が決定したもの。国家としての対面を保ち、しかも犠牲者が絶対でない所…といことで、このPKO派遣が決まったのである。
 1999年8月の暴動で大量難民が出た東チモールへ、自衛隊は救援物資輸送のための出動を考えていたが、「武力行使に巻き込まれる恐れがある」ので、西チモールへの派遣となった。そんな中オーストラリア軍などが、東チモールで非常に過酷かつ危険な中で任務を遂行していた(東チモール独立後、ようやく自衛隊も東チモールへ入った…)。
 そもそも自衛隊は国際舞台での活躍を想定していなかったので、部隊編成も装備も訓練も不十分であった。&拡大解釈を続ける憲法、矛盾の多いPKO協力法・・・等々、自衛隊が国際舞台の平和維持や人道支援で本格的に活躍するには、まだまだ問題が山積みである。


・周辺事態法と自衛隊

 さてここまでは色々と論争はあったものの、「争いの後の平和構築のための活動」「人道的見地からの救助活動」ということでそれなりの理解が得られた。しかし国内で、"周辺事態法案"(正式名称は"周辺事態に際して我が国の平和と安全を確保するための措置に関する法律")に関してまたまた大論争が巻き起こった。なぜなら、これが戦後初の有事立法だったからだ。この法案は、自民・自由・公明による連立政権の数と、北朝鮮工作船事件の追い風で、1999年5月に成立。実は、これも憲法の拡大解釈と同様に曖昧で、PKO法と同様に矛盾がある法として成立。目的は、主にアメリカ軍に具体的に軍事協力できるための法律として作られた。で、この法律の内容はどんなものであるのか。
 まずは、「周辺事態」とは何を意味するのか。これは本来"戦争"や"武力衝突"という内容を現したいはずなのだが、政府の答弁は「日本の安全に重要な影響を与える事態」である。なんだか、よく分からない…。
 第二に、「周辺」とは何を意味するのか。ここが、あやふやな重大点である。「朝鮮は、周辺だろう。台湾海峡も入るだろう。でもね、はっきり明言すると韓国や中国から文句言われるから、とりあえず周辺って言ってるの。それにね、将来中東まで行くことになるかもしれないから、拡大解釈できる余地を残しておくの。」という意味で、「周辺」が定義されていると考えてよいだろう。つまり、定義しているようで何も定義されていないのだ。従来の姑息なやり方を、ここでも踏襲している。
 第三に、この周辺事態法で「後方地域支援」を明記している。後方地域とは、「我が国領域並びに現に戦闘が行われておらず、かつ、そこで実施される活動の期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められる我が国周辺の公海及びその上空の領域」である。後方支援活動中の自衛隊を標的にして、中距離ミサイルを撃たれたり、特殊部隊のテロ破壊が行われたら、後方も前線もその範囲の定義自体に意味がない。
 細かい所をみるときりがないが、いかに妥協の産物の法律であるかがこの主要点だけを見ても分かると思う。


・テロ対策特別措置法と自衛隊

 2001年9月に起こったニューヨーク・テロ事件を受けて、日本政府は2年間限定の時限立法の"テロ対策法案"(正式名称は"平成13年9月11日のアメリカ合衆国において発生したテロリストによる攻撃等に対応して行われる国際連合憲章の目的達成のための諸外国の活動に対して我が国が実施する措置及び関連する国際連合決議等に基づく人道措置に関する特別措置法案"、ふう、長い…)が国会に提出された。アフガニスタンに、周辺事態法を適用するのはさすがに無理があり、この法案が必要となったわけである。この法案では、活動範囲を周辺事態法と同様に「現に戦闘行為が行われておらず、かつ、そこで実施される活動の期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められる」事という条件で、公海や上空、外国の領域と定めた(パキスタンでの「野戦病院での医療支援」や「アフガニスタン避難民支援」を想定したもの)。
 活動内容は、①補給、輸送、修理および整備、医療、通信、空港および港湾業務ならびに基地業務の協力支援、②捜索救助、③被災民救援…の実施である。武器・弾薬の提供、戦闘作戦に向け発進準備中の航空機への給油および整備補給は、協力支援内容には含まれないと規定している。武器の使用条件は、PKO協力法では正当防衛の場合に限られていたが、テロ対策特別措置法では「職務を行うに伴い自己の管理下に入った者」への防護も追加された。該当するのは、避難民やアメリカ軍等の傷病兵などである。この法にも色々と問題点はあるのだが、ここでは省略。
 大事な点は、テロ対策特別措置法に基づく活動は、PKO活動の平和維持や人道的援助とは異なり、戦争の後方支援活動が主目的であるという点である。武器や燃料の補給はダメであっても、アメリカ軍の武器弾薬の輸送がOKであれば、結果的に共に戦争を遂行しているのと同罪である。前線で戦っているか、後方で支援活動をしているかの違いでしかない。相手側にしてみれば、前線で戦う兵士と後方で輸送・整備・通信などの活動をしている兵士になんら違いはないのは明らかである。テロ対策特別法に基づく自衛隊の行動は明らかに憲法の枠外であるため、、例外的な対策であることを示すため2年限定の時限立法として成立した。ところが、この法律は期限延長も認められている。今回のニューヨーク・テロの異常性を考えての特別立法なのだが、戦争の開戦は、いつだって異常性がもたらすものである。過去の日本政府のやり方は、一つ前例を作っておいて、後はなし崩し的にどんどん押し進めていくというやり方が多いので、平和維持や人道支援を飛び超えて、戦争の後方支援を進める今回のテロ対策特別法案はとても危うく、かつ政府の思惑がとても怪しい。

 PKO協力法、周辺事態法、テロ対策特別措置法の成立で、国外で活動できるようになった自衛隊であり、実際に国際舞台で実績を作ってきた。しかし、ここまで見てきたように、法律も自衛隊のシステムや装備も問題点だらけである。自衛隊が国際舞台の場で本当の意味で尊敬と信頼を得て、国民の指示が得られるには、これらの問題を一つ一つ解決していく必要がある。問題を先送りし、なんでも曖昧にしておく日本のやり方では、本当に援助を必要としている人々を助けることはできないし、諸外国からの嘲笑は決してなくならないだろう。

 次回以降は、世界でどのような紛争が実際にあるのか見ていこう。


日本人は人を殺しに行くのか 戦場からの集団的自衛権入門 (朝日新書)

新品価格
¥842から
(2014/11/17 16:59時点)

 

新装版 裸の自衛隊 (宝島SUGOI文庫)

新品価格
¥555から
(2014/11/17 16:44時点)

 

知られざる自衛隊と軍事ビジネス (別冊宝島 2254)

新品価格
¥1,404から
(2014/11/17 16:48時点)

 

防衛大学校で、戦争と安全保障をどう学んだか(祥伝社新書)

新品価格
¥929から
(2014/11/17 16:50時点)