現代自然環境破壊学概論

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2.自然環境の破壊

Ⅴ.土壌の破壊(および汚染)
★1987年1月論文の内容

①.土壌の破壊の現状

 「西暦2000年の地球」によれば、土壌の状態は農業生産上重要であるが、今後土壌は破壊されていく傾向にある。土壌破壊の状態は、農業生産上重要でるあが、今後土壌は破壊されていく傾向にある。
 土壌破壊の基本的事項は、(1)土壌浸食による表層度の流亡、(2)有機物の流亡、(3)多孔質な土壌構造の消失、(4)有害な塩類と農薬の集積である。
 国連砂漠化防止会議(U.N.Conference on Desertification)の調査によれば、現在あるいは将来に砂漠化すると示された土地のすべてが実際に砂漠になると、その面積は1977年の799万2000k㎡の三倍以上の面積を占めることになる(森林破壊の章、図C参照)。砂漠化により消失する土地の大部分は、牧場と考えられるが、穀物畑の消失もやはり相当ある。土地の消失の大部分は、アフリカやアジアで起こる。現在も、急速度で砂漠化が進行している。
 また土地の湿地化、塩類集積、アルカリ化も進んでいる世界全体で、灌漑地のうち12万5,000ヘクタールと推定される土地が、湿地化、塩類集積、アルカリ化によって、年々生産力を消失している。西暦2000年には、約275万ヘクタール(注:1ヘクタール=10,000㎡)の土地が、農業生産力を消失する。
 森林の消滅は、森林破壊の章でも述べたが、相当の地域において消滅が進み、亜熱帯地域や急斜面上では、季節的な洪水の増加、流出水の停滞、土砂の堆積等により、土壌浸食が一層活発になる。
 また一般的な水分的不安定さは、土壌浸食の頻度と土壌有機物の消失を西暦2000年まで増加させていくと予想される。
 肥料(改良された品種、殺虫剤、灌漑を含む)の西暦2000年の単位当たりの使用量は、世界平均で1970年代初期に報告された、これまでの最高使用量の2.6倍に達するものと予想される。肥料使用における悪影響は、多少で見た通りである。
 さて、アメリカにおける土壌破壊の具体例を見る。
土壌保全局(Soil Conservation Service)は、1975年の一年間のアメリカの耕地からの土壌流亡量は、総計約3億トン、1エーカー(1エーカー=約4,047㎡)当たり約9トンに達したと報告している。連邦予算局(General Accounting Office)の最近の調査では、アメリカ中西部のグレートプレインと太平洋側の北西部にある283の農場において、その84%が、一年間で1エーカー当たり5トン以上の土壌を流亡していた事が発見された。またアイオワとイリノイの2州において調査された農場のうち半分が、一年間に1エーカー当たり10~20トン弱の土壌を流亡させていた。カリフォルニアのサンホアキン渓谷では、灌漑された農地のうち約40万エーカーが、土壌の塩類集積の被害を受けており、面積のほぼ13%に相当する約110万エーカーの農地は、その下層に排水施設が設けられない限り、生産不能に陥る。
 アメリカの例を見たが、土壌破壊はアフリカやアジアなどの開発途上国の森林破壊や砂漠化のみで起こる問題でなく、先進国を含めた全地球規模の問題となっている。

②.土壌の破壊の原因

 土壌破壊の原因は、次の5つである。(1)砂漠化、(2)湿地化、塩類集積、アルカリ化、(3)森林の伐採、(4)一般的な土壌浸食と有機物の流亡、(5)農地の転用である。これは直接の原因事項であるが、その背景となっている原因を探っている。
 (1)と(3)については、森林破壊の章を参照。(2)は、乾燥地の灌漑に際して、それが土壌排水とうまくかみ合わない場合に生じる。灌漑施設が、排水施設の能力以上に土壌に水を供給し、地下水位を地表面近くまで上昇させる。地表面での土壌水の蒸発は、土壌水の移動と共に土壌水中に溶解した塩類を地表面まで引き上げ、土と塩類で固結した皮膜を地表に形成する。こうした土地は、基幹土木工事、排水工事、土壌の化学性と構造の改良を必要とするが、これはすぐには進展しないし、投資額もかさむ事業である。砂漠が灌漑によっても不毛である原因は、管理の悪い灌漑であることが多い。今後、大きな啓発的努力と回復と防止のための投資がなされなければ、乾燥地域は、土壌の肥沃度の大幅な衰退を余儀無くされる。(4)については、慣行的に繰り返される農作業の結果、大部分の農業地域で生じている。土壌浸食の割合は、作物によって違う。トウモロコシ、綿等の栽培地は土壌流亡量が多い。小麦は、土壌を保持するのに比較的良好である。今のところ、不毛化しかけている土壌も、化学肥料が土壌に活力を与え、土壌流亡による不毛化は表面化するに至っていない(今後は化学肥料はより高価になる)。土壌中の有機物減少も、土壌浸食と同様に、根の張りを持たない作物の栽培地では激しい。作物の茎葉が、子実を病虫害から守るために焼かれたり、薪が欠乏して作物の茎葉や有機肥料が燃料として使用されたりすると、土壌中にすき込まれる有機物が減少し、やはり土壌中の有機物が減少することになる。また1973年以前は、化学肥料が高価でないこと、農産物が高価であったことが、休耕を抜きにした連作を促進し土地を疲弊させた。輪作、休耕期間の設置や緑肥の施行等によって、有機物の消失を食い止め蓄積することができるのだが、化学肥料の肥効の高さは、それらを今後も魅力のないものにするであろう。(5)であるが、農地等が都市化・工業化等の新たな強い土地利用需要にさらされると、地力の低下をもたらす。これらの土地は、沖積地と言う最も農業に適した土地であることが多く、農業生産の面からも損失である。現在、都市人口の増加と都市外延的拡大により、農地の転用速度が増大している。
 土壌破壊は、ほとんどの場合少なくとも、理論的には回復可能である。充分な時間、資本、エネルギー、技術的な知識に加えて、政治的努力がなされれば、土壌破壊の大部分には歯止めがかけられるばかりでなく、回復しさえするのである。しかし現実には、それらの必要とされる時間、知識あるいは経済的・資源的・政治的状況が実質的に地力回復を不可能にしているのである(世界中の土壌がさらに劣化するか、あるいは再生するかは、各国政府の能力と意志にもかかっている。土壌保全には、安定した社会とよく整備された制度が必要であり、戦争、飢餓、内乱あるいは汚職に脅かされた社会、農地の将来を無視するほど近代化に取り付かれた社会では、保全は困難である)。

③.土壌の破壊の影響

 土壌破壊の影響は、他の章で見た通りである。森林破壊は、砂漠化や土壌流出、保水能力の低下をもたらしてきた。砂漠は、大気汚染の一因となってきた。保水能力低下や土壌流出は、しばしば洪水や土砂崩れを起こす(また土砂の堆積はダムの耐用年数を短くし、ダムの埋没は水害の要因となる)。農業に使用された化学肥料等の有害物質は、大気汚染や海洋汚染の原因となり、重大な問題となっている(これらの問題はすべて他章で詳しく記したので、ここでは省略する)。

④.日本の土壌の破壊

 日本においては、傾斜の無い水平な階段状の農地で水稲栽培がなされ、土壌が洗い流されるよりも、灌漑水路の水が土壌を水田にさらい上げる方が多く、正味として土壌が増加していると推定され、土壌保全の状況は良い。水田ほどではなくとも、有機物で常に充分に被覆しうるトウモロコシ、小麦、クローバーの選択的な植え付けと言った輪作も、土壌浸食を緩やかにしている。一方、森林の破壊による土壌の流出は、日本においても深刻に受け止めねばならない。
 化学物質による土壌汚染の例としては、東京都江東区や江戸川区で起こった50万トンもの六価クロム鉱さいによる土壌汚染がある(工場労働者のうち、80名が鼻中隔穿孔[鼻の中の壁に穴が開く]、4名が肺ガンで死亡)。
 日本の土壌保全の状況は、諸外国と比較すれば良い方だが、森林や農耕地環境が悪化すれば、急斜な日本の地形では急激な土壌破壊が起こる事を受け止めておかねばならない。


★2004年9月現在の最新情報

世界の砂漠化の現状

→森林破壊の章の最新情報を参照。

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酸性雨について

 上記の論文の中では、土壌破壊の主な要因として、まず第一に砂漠化や森林破壊、そして次に農薬や化学肥料の使用や農地転用などを挙げたが、もう一つ忘れてはならないのが、酸性雨による土壌の破壊である。酸性雨は、木々を枯らし、水中の生物を死滅させる。
→詳しくは、大気汚染の章と森林破壊の章を参照。

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日本の土壌の汚染に関して

 論文を書いた当時は、土壌汚染に関する事件や報道は、大気汚染や水質汚染と比較すると少なかった。しかし、近年は日本での土壌汚染も、マスコミで取り上げられるようになってきた。最近増えているケースが工場跡地等を買い取った後に、土壌汚染が発見される例など。工場等では有毒な化学物質などを取り扱うことが多いが、部外者にはそれがどう処理されているのかまったく分からない。工場が閉鎖されて他人の手に渡り、その時初めて汚染が発見されるケースがある。土壌そのものが有毒で危険であったり、雨で汚染物質が染み出す場合などもある。こう言った場合は、誰が土壌の浄化(具体的には土の入れ替え)を行うか等で裁判になるケースもあるが、相手が名のある大手企業ならともかく、倒産した企業の工場だったりすると権利関係者の所在がつかめないと言った困ったケースも出てくる。
 もう一つ土壌の汚染で問題になっているのは、ゴミ処理場から雨水と共に地下に漏れ出す汚染水問題だ。現代のゴミ処理場は、汚染の危険が指摘されて処理場の構造そのものが見直されつつあるが、問題は過去に作られ既に埋められてしまった処理場で、(シートが破れて)汚水が染み出して地下水を汚染している事が心配されている。こう言ったゴミ処理場は、森林や川の源泉に近い人里離れた地域に作られることが多いので、汚水による自然環境の破壊が心配されている。地域住民が裁判を起こす場合、汚染の立証責任は住民側が負う。ゴミ処理場を掘り返すには、当然ゴミ処理場を作るのと同様に莫大な費用がかかる。また、専門家の協力も必要でかつ長期間の連続的観測・調査も必要で、かなりの費用と時間も考慮しないといけない。そう言った意味で、住民側の負担は相当大きく、裁判でゴミ処理場からの汚水漏出を立証するのは難しいようだ。
 日本の土壌の汚染は他にも色々とあるのだが、記憶に新しいところでは、茨城県神栖町で起こったヒ素中毒だ。高濃度のヒ素が井戸から検出され、住民が発育の阻害や体の震えなどの被害を受けている。ヒ素は自然界にも存在するが、この被害地の高濃度ヒ素は、埋められた旧日本軍の毒ガス兵器が土壌に滲出し地下水に入り込んだ可能性も指摘されている。
 上記論文では六価クロム事件を取り上げたが、高度成長期からバブル期、そして現在に至るまでの日本の急激な工業化による負の遺産としての土壌汚染は、これからも私たちの生活に影響を与え続けるかもしれない。

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土壌汚染対策法について

 近年、有害物質による土壌汚染事例の判明件数の増加が著しく、土壌汚染による健康影響の懸念や対策の確立への社会的要請が強まっている状況を踏まえ、国民の安全と安心の確保を図るため、土壌汚染の状況の把握、土壌汚染による人の健康被害の防止に関する措置等の土壌汚染対策を実施することを内容とする「土壌汚染対策法」が、平成14年(2002年)5月22日(水)に成立し、29日(水)に公布された。施工期日は平成15年(2003年)2月15日とし、指定調査機関及び指定支援法人の指定等の手続の施行期日を平成14(2002年)年11月15日とした。
 この土壌汚染対策法では、土壌に含まれることに起因して健康に被害を生ずるおそれがある物質として、カドミウムその他の25項目を規定(第1条)している。また、土壌汚染調査の対象となる土地の規定をし(第3条)、汚染の除去に係る措置命令の対象となる土地の規定(第5条)している。その他、調査や措置命令の手続き、助成金の交付や、その他処理についても所定の規定を定めている。

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引用・参考資料:各社新聞記事など
        環境省庁ホームページ 他

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