現代自然環境破壊学概論

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2.自然環境の破壊

Ⅱ.動植物の減少
★1987年1月論文の内容

①.動植物減少の現状

 地球上には、現在500万種から1000万種の動植物が存在していると言われる。
まず、動物種の減少について見る。図Aの表には、16世紀から20世紀現在までに絶滅した動物が示されている。16世紀には、7種が絶滅。17世紀には、20種が絶滅。18世紀には、23種が絶滅。19世紀には、一挙に増えて78種が絶滅が確認されている。20世紀は、現時点において62種が絶滅。しかし、現在において絶滅の危機に瀕している動物種はかなりの数に上るので、これからまだ多数の種が絶滅すると考えられる。
 図Bから図Eまでは、現在絶滅の危機が非常に高い動物種が示されている。簡単にまとめて見ると、哺乳綱が2種9目において157種と、1科と21属の全種。鳥綱が、21目において129種と3属の全種。爬虫綱は、5目において51種と1科全種。両性綱は、2目において5種。魚上綱は、6目において7種。以上が、絶滅の危機が非常に高い種である。(※2004年5月注釈・生物の分類学では、界、門、綱、目、科、属のグループにまとめられている。《例》イエイヌは、動物界/脊索動物門/哺乳綱/食肉目/犬科/犬属。引用文献:フューチャー・イズ・ワイルド《ダイヤモンド社》)。
 絶滅の危機にある動物種の、具体例を調べてみよう。
 まず、トラ。記録に寄れば、20世紀初頭のインド亜大陸には約4万頭のトラが生息していたと言う。しかし、1960年代には、僅か約2000頭に減少していた。1972年の調査では、1827頭にまで減っていた。
 インドゾウの例を、見てみる。インドゾウは、インドの北東部、中央部、北西部と南部の4つの地区に住んでいる。頭数は、現在1万5000頭だが、アフリカゾウの130万頭に比べるとかなり少なく、現在も減少を続けている。
 サイの場合はより悲惨で、ジャワサイなどは、東南アジア各地や東部インドに分布していたが、1967年には25頭にまで減ってしまった。インドサイは、かつてパキスタン北部からネパール南部の国境沿いの一帯、そしてブータンとインドのアッサム地方に至る地域に広く分布していた。しかし19世紀には、分布域は、ネパールのテライ地方、ブータン、西ベンガルのテータス渓谷、アッサム地方のブラマプトラ渓谷に限られていた。現在は、ネパールのロイヤル・チタワン国立公園に400頭、インド国内のいくつかの保護区に780頭が生息するに過ぎない。
 図Fには、国際保護鳥に指定されている13種が記載されている。この13種は絶滅したと考えられるか、極端に生息数の少ないものである。日本のトキも3羽から2羽に減り、絶滅も近いと考えられる。アメリカシロヅルは、18世紀の頃に既に1500羽で、1938年には14羽に減っている。
 いくつかの具体例を挙げてみたが、このように絶滅に瀕した動物種の危機は激しいものである。
 次に、植物種に移る。植物種の危機は更に悲惨な状況で、現在2万5000種の植物が絶滅の危機に瀕している。図Gには、その中でも最優先に保護されるべき12種が示されている。
 具体例を見てみる。アルジェリアに自生するタッシリナジェールイトスギは、153本しか存在していない。エクアドルに自生するリオパレンクマホガニーは、12本しか存在しない。更に、北イエメンのソコトラ島のソコトラザクロは、僅か4本しか存在していない。
 このように植物種の減少も、動物種と同じく極めて激しい。今後20年間に、500万から1000万種の動植物のうち、15~20%が消えていくと言う。1日ごとに1種から3種の動植物が絶滅しつつあり、その傾向は10年後にはもっと悪化していると言う。

②.動植物減少の原因

 動植物の減少の原因は、主に森林等の生息地の減少、破壊や、人間による乱獲が高い比重を占める。続いて、農薬等による影響、病気による減少等が、原因として挙げられる。植物も同様に、森林の破壊や酸性雨の問題等が、減少の原因となっている。
 具体例を見てみる。前出のトラであるが、減少の第一原因は、狩猟の記念碑的トロフィーとして過度に殺され続けた事である。他に、生息域が極端に狭められたことなどが原因となっている。
 インドゾウは、年々狭い地域に押し込められているのと同時に、象牙の密猟が依然として続いているのが減少の原因である。
 サイも同様に、氾濫原に人間の手が及び、生息域が狭められたのと、角を求めての乱獲が減少に拍車をかけた。
 貧歯類(サル)の多くも、熱帯雨林の急速な伐採で、生存を脅かされている。
 鳥綱のサギは、帽子に羽毛を付けるだけの目的で、年間500万羽から2000万羽捕獲されたと言うサギ類記録もあり、ダイサギは、それが原因で絶滅の危機に陥ったほどである。他の例として、図Fに示されているように、羽毛採取や食用のための大量捕獲、生息地の減少、移入動物の影響、農薬の影響が挙げられる。
 動植物種の減少には、このように天候や病気などの自然の要因よりも、人間が直接、間接に関係して減少している事例が、圧倒的に多い。生息地の破壊や乱獲、公害などである。生息地破壊は、森林破壊の章でも述べたように、破壊を起こさねばならぬような、経済的、社会的要因が根本に存在する。また乱獲の問題であるが、密猟において、ワシントン条約により国際保護生物に示された種が、より高値で取り引きされ、そしてその減少が更に一層の高値を呼ぶと言う悪循環を起こしている。日本などは、特にペットや剥製などの動物の加工品を、東南アジアやアフリカ諸国から高値で大量に輸入して、絶滅に拍車を掛ける国々の一つとなっている。

③.動植物種減少の影響

 動植物種の絶滅は、計り知れない損失を人類に与える。一度失われた動植物の命は、二度と戻ってこないのは言うまでもない。その種が持つ生命のメカニズム、生態、遺伝子などは永久に失われ、我々はそれらを剥製やフィルムでしか見ることができなくなり、見えない形でも損失は大きい。
 もっと直接の影響としては、狭められた生息域に住む野生動物が、近くまで住むようになった人間を襲ったり、作物を荒らしたりする例が挙げられる。
 ともあれ、動植物の絶滅は、地球の大切な遺産の消滅として、大きな損失を意味する。。

④.日本の動植物種の減少

 日本で、絶滅の恐れがある野生生物。イリオモテヤマネコ、ニホンカモシカ、ツシマヤマネコ、ケナガネズミ、ゼニガタアザラシ、トキ、アホウドリ、ヤンバルクイナ、ノグチゲラ、シマフクロウ、イヌワシ、ライチョウ、イシカワガエル、オオサンショウウオ、イボイモリ、セマルハコガメ、タイマイ、アカウミガメ、アオウミガメ、イトウ、ミヤコタナゴ、オガサワライトトンボ、ウスバキチョウ、ムニンノボタン、オガサワラツツジ等。実際には、この3倍以上が危機にあると言う。
 2つの例、トキとアホウドリについて、具体的に調べてみる。
 まず、アホウドリ。大洋を生活の場にしているアホウドリ類は、世界に13種いる。このうち、アホウドリ、コアホウドリ、クロアシアホウドリの3種が、北太平洋の住人であり、日本でも繁殖している。アホウドリは、かつて伊豆鳥島、小笠原諸島より西にある絶海の孤島で繁殖していた。しかし、今から100年前、ヨーロッパでは空前の羽毛ブームが起こり、貴婦人の帽子は野鳥の美しい飾り羽で彩られ、衣類や寝具にも水鳥の羽毛が用いられた。一方では、動力船が実用化され、大量の羽毛の運搬が可能となったため、企業的な羽毛採取が始まった。そこで狙われたのが、大集団で繁殖し羽毛の量が多く、しかも人を恐れないアホウドリであった。こうして、約50年と言う短期間におよそ1,000万羽のアホウドリが殺され、亜熱帯からアリューシャン列島まで広く分布していたアホウドリは一掃され、一時は絶滅が宣言された。1951年に、伊豆の鳥島で極少数の生息が確認され、後南西諸島南部の尖閣諸島でも少数の生息が再発見された。現在、地球上には250羽ほど生息していると言われる。
 次にトキを見る。トキ-学名ニッポニア・ニッポン-は、以前はそれほど珍しい鳥ではなく、江戸時代には青森から関東、東海道まで見られた。しかし、明治維新後に徳川時代の保存の法律が廃止され、その後20年ほどの間に、狩人に相当数撃ち殺された。天然記念物に指定された1934年頃には、能登半島や佐渡付近に広く分布していたが、太平洋戦争時の森林の乱伐が、トキを山奥へと追い込んだ。また、田畑に散布する農薬、特に有機水銀を含んだ農薬の普及が、鳥の生殖細胞に作用して繁殖力を失わせ、量が多くなると他の臓器や神経をも侵し生命を危うくした。農薬による昆虫、魚類等の死滅は、彼らの食物を不足させた。1967年以来、新潟県トキ保護センターで日本のトキは保護されているが、現在2羽に減ってしまった。
 以上は、アホウドリとトキの一例だが、日本の動植物種の減少も、乱獲、森林等生息地の破壊、農薬等の公害が、その原因となってきたことが分かる。

添付及び挿入資料

・図A/動物の減少・世紀ごとの一覧


・図B/絶滅の危険が非常に高い動物種一覧・その1


・図C/絶滅の危険が非常に高い動物種一覧・その2


・図D/絶滅の危険が非常に高い動物種一覧・その3


・図E/絶滅の危険が非常に高い動物種一覧・その4


・図F/国際保護鳥13種


・図G/絶滅の危機にある2万5千種のうち、最優先で保護されるべき植物12種。


・絶滅の危機にある動物例・ジャガーの写真(上野動物園にて/1978年撮影)/省略
・絶滅の危機にある動物例・インドゾウの写真(上野動物園にて/1978年撮影)/省略
・絶滅の危機にある動物例・ピューマの写真(上野動物園にて/1978年撮影)/省略
・絶滅の危機にある動物例・トラの写真(上野動物園にて/1978年撮影)/省略
・絶滅の危機にある動物例・ピューマの写真(上野動物園にて/1978年撮影)/省略
>・絶滅の危機にある動物例・ヒョウの写真(上野動物園にて/1978年撮影)/省略
・絶滅の危機にある動物例・ハクトウワシの写真(上野動物園にて/1978年撮影)/省略
・絶滅の危機にある動物例・シャムワニの写真(上野水族館にて/1978年撮影)/省略

★2004年5月現在の最新情報

レッドデータブックのリスト見直しについて

 野生動物の生息状況は常に変化していて、その評価は定期的に見直すことが必要。全世界レベルのレッドデータブックを編纂しているIUCN(国際自然保護理連合)でも、より定量的な評価基準に基づく新たなカテゴリー(Red List Categories)が1994年12月に採択され、リストの見直しが行われました。カテゴリーの改定作業は、1989年からIUCNの種の保存委員会(SSC)を中心に進められました。新カテゴリーの特徴は、
1.今までの定性的な要件とは異なり、絶滅確率等の数値基準による客観的な評価基準を採用していること。
2.絶滅のおそれのある種をThreatenedでくくり、その中にCritically Endangered、Endangered、Vulnerableを設定していること。
…等である(1996年10月に採択されたIUCN Red List of Threatened Animalsは、この新カテゴリーに基づく最初のレッドリストである)。

(上記のことを図式化すると、下記の様になります)。
●絶滅(EX)
●野生絶滅(EW)
●絶滅危惧(Threatened)・・・絶滅危惧Ⅰ類(CR+EN)・・・Ⅰ A類(CR)
                         ・・・Ⅰ B類(EN)
            ・・・絶滅危惧Ⅱ類(VU)

 このような状況を踏まえて、(日本の)環境省では、平成7年よりレッドデータブックの見直し作業を開始しました。まず分類ごとにレッドリスト(レッドデータブックに揚げるべき日本の絶滅の恐おそれのある野生動物の種リスト)を作成・公表し、これを基にレッドデータブック(日本の絶滅のおそれのある野生生物の種についてそれらの生息状況等を取りまとめたもの)を順次編纂すると言う2段階に分けて行い、平成12年4月までに、動植物全ての分類群についてレッドリストを作成し、公表したと言うことです。新しいレッドデータブックは、現在、爬虫類・両生類、哺乳類、植物Ⅰ、植物Ⅱ版が刊行されているそうです(平成14年6月現在)。


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現在の絶滅の危機にある動植物種について


 1987年の論文では、地球上の生物は500万から1,000万種ほどいると書きましたが、現在は1,300万から1,400万種の生物がいると考えられているそうです(実際に人間が発見したのは、その内僅か175万種類にすぎません)。2002年に出されたIUCNのレッドデータブックには、絶滅しそうな生き物が11,167種類挙げられています。ゾウやパンダなどの哺乳類の4種類のうち1種類は絶滅しそうであると言うことです。
 下記に、絶滅に危機にある生物を種類別に記載しました。

赤=絶滅のおそれのある生き物の種類の数(青=絶滅のおそれのないもの。まだ研究されていない生き物の種類の数)

哺 乳 類   
1,137種(3,626種)

鳥  類   
1,192種(8,754種)

爬 虫 類 
    293種(7,677種)

両 生 類    
157種(4,793種)

魚  類    
742種(24,258種)

昆 虫 類    
557種(949,443種)

その他の動物
 1,375種(238,825種)

植  物   
5,714種(260,162種)

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日本のトキに関して
 さだまさしさんの歌に登場した時の、トキの数は7羽でした。僕が論文を書いた時には、2羽に減っていました。そして、2003年10月10日、日本生まれ最後のトキである「キン」(推定年齢36歳)が亡くなりました。
 しかし、日本と中国が、現在も協力してトキの保護に取り組んでいます。中国生れのトキが日本に送られ、繁殖が試みられています。日本のトキと中国のトキは、分類上同じトキなのです。現在、佐渡トキ保護センターにいるトキは、39羽です。

引用・参考資料:生物多様性情報システムの記事
        佐渡トキ保護センターのトキ情報

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