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2.自然環境の破壊
Ⅰ.森林破壊
★1987年1月論文の内容
①.森林破壊の現状
二十世紀に入って、すでに地球上の熱帯雨林の40~50%が消失している。アメリカ合衆国政府特別調査報告「西暦2000年の地球」によれば、2000年までの間に、発展途上国地域の森林面積は40%減少する。森林破壊(森林の減少)は、2020年まで続き、ここで限界点に達する。その時点での、世界の総森林面積は約18億2,000万ヘクタール。工業化された国々(先進国)の森林が14億5,000万ヘクタールを占め、残り3億7,000万ヘクタールを発展途上国が占めるにすぎない。下記の図Aのグラフには、1971~1981(昭和46~56)年の先進地域と発展途上地域の、木材生産量の推移が示されている。先進地域の木材生産量は、1971年から1981年の10年間に5億m3強増えている。また、図Bの表には、1978年時点の森林面積と森林蓄積、2000年の森林面積と森林蓄積の予想が、先進国と発展途上国に分けて表されている。先進地域での森林面積は、1978年で14億6,400万ヘクタール、2000年で14億5,700万ヘクタールでほぼ同面積で推移すると考えられているのに対して、発展途上地域では、10億990万ヘクタールから6億ヘクタールに減少すると考えられる。先進国の森林はほぼ現在のまま残るが、発展途上国では凄まじい勢いで破壊が進んでいくと予想される。
世界最大の熱帯林であるアマゾンを例にとって、森林破壊の現状を見てみる。ブラジル政府の発表によると、1966年から1975年の間に消失した森林面積は、1,150万ヘクタール。内訳は、牧場が38%、農地が31%、ハイウェー建設が26%、木材伐採が4%ととなっている。マナウスの国立アマゾン研究所のアメリカ人研究者、ファーソンサイド博士は、衛星写真を基に森林破壊の予測を立てている。それによると、森林が完全に消滅する年は、ロンドニアス州、ゴイアス州が1988年、マト・ロッソ州が1989年、マラニョン州が1990年、パラ州が1991年、アクレ州が1995年となっている。
現在、中南米、アジア、オセアニア地域では、一年間に日本の総面積の半分と言うペースで森林が失われており、これが2020年までに極限に達すると予想される。発展途上国の伐採可能な森林は、2020年までにことごとく伐採しつくされているだろう、と言う予想が建てられている。
森林破壊に伴って、砂漠化の拡大も着実に進んでいる。その規模は年間2,100万ヘクタールで、ほぼ日本の国土面積の半分に等しい。図Cには、砂漠と砂漠化地域が示されている。砂漠は、ほぼアフリカと中東の赤道地域に集中しており、続いて砂漠化の危険が高い地域は砂漠の周辺、アフリカ南部、アジア内陸部、オーストラリア、北アメリカ及び南アメリカの太平洋沿岸地域となっている。
②.森林破壊の原因
森林破壊の根本原因は増大する人口圧にある。要因を細分化していくと、地域により、木材の輸出、過剰農耕(耕地の拡大)、過度の薪の採取、過放牧、焼畑農耕、北半球を中心とした酸性雨の影響などが原因として挙げられる。
発展途上国の木材生産が増えているのは上述の通りだが、その中でも、図Aのグラフに示されているように、薪炭材の採取が増えている。これは、人口の増加と共に、燃料の消費量が増えているためである。ブラジルやアフリカでは、耕地の拡大や放牧のため森林が伐採され、原始的な焼畑農耕により焼かれ、その灰は作物の肥料にされる。
アマゾンの例をもう一度とって、森林破壊の原因を探ってみる。アマゾンの地下には、鉄・マンガン・銅・ボーキサイト・ニッケルや金、ダイヤモンド等が豊富に眠っていると言われる。1,000億ドルと言う世界最大の債務を抱えたブラジル政府は、森林を開いて農場や牧場を作り、地下資源を掘り当てる事に国の命運をかけている。1969~1970年にブラジル東北地方を大旱魃が襲い、政府はアマゾンへの大移住計画を発表、全長3,300キロメートルのハイウェイを1975年に完成させ、貧しい農家一家族あたり100~150ヘクタールのジャングルを、無償に近い形で割り当てた。彼らは焼畑農耕を行い、焼かれた森林の灰を利用して、陸稲や豆などを作るが、熱帯雨林の土壌は貧弱で、厚さ2~3センチしかなく、豪雨に遇うと薄い表土は流されてしまう。農業は、2~3年で地力を使いきり、その後牧草地になっても、最終的には完全な砂漠が残されている。国外の大資本が牧場を作る時は、ジャングルに枯葉剤が撒かれる。フォルクスワーゲン社が、11万ヘクタールもの熱帯雨林を枯らした例もある。
以上はアマゾンと言う限定的な地域の原因の例であり、他の発展途上国すべてに当てはめることはできないが、多くの国において、木材の過度の伐採、森林の焼却等は、発展途上国の多額の累積債務、それに伴う政府の経済重視の政策や、目前の糧を得ねばならない貧困層の人々の増加等が原因となっていると考えられる。
酸性雨が原因となって起こる森林の損傷であるが、ヨーロッパやアメリカを中心に、日本の北関東地方や中国の上海などアジアでも広がっている。
西ドイツを例に取ると、森林全体に占める被害面積は、1982年8%、1983年34%、1984年50%と、年々急激に拡大している。被害は、西ドイツ南部で特にひどく、シュバルツバルト(黒い森)で有名なバーデン・ビュルテンベルク州では、森林面積の66%にも及んでいる(尚、酸性雨についての詳細は、大気汚染の章で述べる)。
③.森林破壊による外部への影響
森林破壊がもたらす影響は、計り知れない。熱帯雨林は、地球上の生物種の約半分が生息している遺伝子の宝庫である。森林破壊による動植物の絶滅は、貴重な遺伝子資源を永久に失うことになる。また、また熱帯林に住む先住民族の絶滅は、祖先から受け継いできた有用動植物の利用法、熱帯農業のノウハウ等、人類にとってかけがえのない財産を消してしまう。同時に、森林が無くなると、その地域は乾燥化し、砂漠化の危険が高まる。そして、森林と言うクッションを失って、降雨がそのまま河川に流れ込むため、森林破壊の甚だしいアマゾンやネパールの河川流域は、毎年のように大洪水に見舞われて、万単位の人命が失われることも恒常化している。また、もし熱帯雨林が消滅したら、大気中の二酸化炭素濃度が上がり、地球の平均気温を押し上げる。すると両極の氷が溶けて、海水面が上昇し、世界中の沿岸大都市群に甚大な被害を及ぼすことが警告されている。
④.日本の森林破壊
先進国においての森林は安定しており、日本においても、過去何度かの自然界の報復の経験により、森林の保全がなされている。しかしながら、日本も一歩間違えば、大規模な森林破壊が十分に起こりえる。現に、森林破壊に端を発する洪水、山崩れなどの災害がしばしばマスコミを賑わしている。森林が比較的安定している日本でも、水害で年に5,000億円近い損害額が発生している。
日本において完全に森林が破壊された例として、足尾の例がある(※筆者1986年10月取材)。足尾銅山から発生する高い濃度の亜硫酸ガスにより、足尾地区の森林面積1万8,000ヘクタールの73%にあたる1万3,000ヘクタールが被害を受け、内、森林殖生が破壊され、荒廃地となった激害地は3,155ヘクタール、中害地は3,430ヘクタール、微害地は6,430ヘクタールに達した。続いて山火事、亜硫酸ガスの量の増加、荒々しい気象条件などが重なり、表土が失われ、基岩が露出した極度の荒廃地と化した。それは、同時に下流域に大きな被害をもたらした。明治29(1986)年の渡良瀬川の大洪水は、未曾有の大洪水となった。明治30(1897)年から昭和15(1940)年までの43年間に、森林の殖生復旧、及び水害を予報する為の砂防工事に投じられた経費は、当時の金額で68万9,093円と言う莫大な額であったが、亜硫酸ガスの前にはなす術がなかった。ようやく昭和31(1956)年に、亜硫酸ガスが排出されなくなって、緑化事業に効果の兆しが現れたのである。しかし、現在においても険しい工事が続き、数百億円と言う費用を必要とし、工事が順調に進んでも50年から60年と言う長い歳月を要し、更に樹木が元の姿に戻るには何百年とかかると推測される。
足尾の例は、森林が完全に破壊された例であるが、この史実を見ても分かるように、日本も道を間違えば大規模な森林破壊が十分起こり得る。日本の森林面積は、2,519万ヘクタールであり、国土面積の67.6%を占めている(1980年農林業センサス)。森林を保有形態ごとに見ると、国有林752万ヘクタールで29.9%、公有林は294万8,000ヘクタールで11.6%、私有林は1437万3,000ヘクタールで57.0%である(※図Eの表は、1981年3月末のものであり、ここに書いた数値と多少違っている)。
うち人工林は、約1,000万ヘクタールで40%、天然林は1,417万ヘクタールで57%ととなっている。図Dの左側の森林蓄積のグラフを見ても分かるように、天然林は増えていないが、一方人工林は増加している。次に、図Dの右側のグラフを見ると、樹齢30年未満の若い木、特に11~20年程度の木が増えているのが分かる。木材としての価値は40年はかかり、それまでに手入れを必要としている森林が圧倒的に多いのが分かる。しかし、森林の手入れをする林家は、資金の問題や林道の未整備などのため、年々減少している。人工林の多くは、間伐などの手入れを必要としている。それをしないと、太陽光が地表に届かず、下草が生えず、雨は栄養分を含んだ表皮を流出させる。流れた表土は川床を高くし、水害の原因を作り、ダム上流の堆砂率を高めるなどの弊害を生む。樹木自身も、光合成が不十分になり、雪や風で折れやすくなる上、病害虫に対する抵抗力も弱く、もろい森林となる危険性をはらむ事になる。一度人間の手が入ってしまった森林は、手入れを続けないと滅びやすくなってしまう。
多くの林業者は、毎年一定の面積を伐採して、そこに必ず植林してして、再生産可能な方式を取り入れ、確実に回転できるよう法正林に導こうと、血の滲む努力を重ねている。立木を売却すると、所得税、住民税、木材取引税が同時に課税される。40年近く天塩にかけて育てた森林を1ヘクタール売っても、手元に30万円程度しか残らない…等と言うことになる。付け加えて、森林は相続税が高く、それを払う木材にも前出の税がかかり、4重の徴税となり、これが大量の木材の伐採や多額の借金を強いることになる。また、そうした経済的な理由から、同質種の針葉樹などが植えられ、これが森林自体と土壌を弱くする原因となっている。
以上のように、日本の林業は非常に厳しい状況で行われている。発展途上国の安い大量の材木が、日本の林業を圧迫しているのも事実だが、不合理な税体系や林野庁の政策がそれに追い打ちをかけ、林業を更に厳しいものとし、森林の破壊を推し進める要因の一つとなっているのも事実である。
※余談ではあるが、C.W.ニコル氏は、彼の著作や雑誌、新聞の対談などで、度々日本のこのような破壊に対して「主として責められねばならないのは、この国の政府であり、日本人自らの環境に対する無関心だ」と述べている。
添付及び挿入資料br />
・図A/世界の木材生産グラフ
・図B/西暦2000年の世界の森林資源
・図C/砂漠と砂漠化地域示
・図D/森林蓄積推移グラフと林齢別人工林面積グラフ
・図E/日本の森林資源の現況
不毛の足尾の山々の写真(足尾銅山にて/1986年撮影)
足尾の治山事業の写真(足尾銅山にて/1986年撮影)
・大量の輸入材の写真(川崎港にて/1986年撮影)/省略
・山々の写真(秩父にて/1982年撮影)/省略
・人工林の写真(蓼科にて/1978年撮影)/省略
・増える人工林の写真(蓼科にて/1978年撮影)/省略
・ダムの建設現場の写真(群馬県奈良俣にて/1986年撮影)/省略
・ダムの写真(奥多摩にて/1986年撮影)/省略
※ダムについて(写真の脚注として)…近年、森林破壊が急速に進んでいる。森林破壊は、保水能力を低め、土壌浸食を促す。人工のダムは、中下流域の水量の制御を可能にするが、自然本来の生態系のあり方などに大きな影響をもたらす。
★2004年3月現在の最新情報
世界の森林の現状
(熱帯林行動ネットワーク(JATAN)/世界の森と私たちより)
国連食糧農業機関(FAO)によると、2000年現在の世界の全森林面積は38億6900万ha。天然林は1990年から2000年の間に年間1250万haのペースで減少した。特に、熱帯地域では年間1420万ha減少しており、10年間で日本国土の3.8倍に当たる面積が失われている(熱帯地域以外では170万haの増加)。
ただし、FAOの統計では、森林の一部が伐採された場合や、森林を皆伐しても外来種を植林したり、天然更新を見込んでいる場合も「森林」のままとみなされており、こうした「減少」していない「森林の劣化」も急速に進んでいる。
アメリカの世界資源研究所(WRI)は、人間の手がつけられていない「未開拓林(フロンティア林)」(原生林の概念とほぼ同じ)は、世界に13億5000万haしか残っていないと報告している。FAOの森林面積とは大きく異なることから、森林劣化や植林地への転換がいかに進んでいるかが分かる。
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世界の砂漠化の現状
(鳥取大学乾燥地域研究センター/砂漠及び乾燥地に関する情報より)
人為的要因による乾燥土壌の劣化面積(…抜粋です)
(単位:百万ヘクタール)
(極乾燥地域を除く)
(乾燥半湿潤、半乾燥、乾燥区分の合計/劣化度合は軽・中・重度の合計)
アフリカ 319.3
ア ジ ア 370.4
オーストラリア 87.6
ヨーロッパ 99.5
北 米 79.3
南 米 79.1
合 計 1035.2
(UNEP1997)
※砂漠化の現状および拡大の動向については、国連砂漠化防止会議(UNCOD)が開催された1977年を皮切りに、84年、91年、97年とほぼ7年おきに調査結果が報告されている)
※砂漠化の現状に関わる数字は,世界土壌劣化評価(GLASOD:Global Assessment of Soil Degradation)の調査結果によるところが大きい。
※ GLASODは世界中の250人以上の土壌学者などが,人為的要因による土壌劣化を地球規模で推計した調査である。
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日本の森林・林業の政策に関して
1.森林の有する多面的機能の発揮のための森林整備の推進に関する施策
(平成14年3月27日地球保全に関する関係閣僚会議「生物多様性国家戦略」より抜粋)
平成13年7月、21世紀における森林及び林業に関する施策の基本指針となる「森林・林業基本法」が施行され、同年10 月、基本法の理念を具体化し、的確な施策の実施を図るための基本的な計画として「森林・林業基本計画」が策定されました。
「森林・林業基本法」は、基本理念として、森林の有する多面的機能の持続的発揮とそのために必要な林業の持続的かつ健全な発展を掲げており、これを受けて森林・林業基本計画では、全ての森林は、森林の有する多面的機能の発揮によって国民生活に寄与しており、広く全ての森林について、要請される様々な機能が高度に発揮されるよう、その整備を進めなければならないとしています。
しかしながら、狭小かつ急峻な国土に多くの人口を擁し、高度な経済・文化活動が展開されているわが国においては、ひとつの森林に高度に発揮すべき機能が併存する場合が多いことから、個々の森林について自然的条件や地域のニーズ等に応じた機能間の調整を行いつつ、より適切な森林の整備を進める必要があります。
このため、森林・林業基本計画において、
①地域の合意の下に、森林を整備していく上で重視すべき機能に応じ、水源かん養機能又は山地災害防止機能を重視する「水土保全林、生活環境保全機能又は保健文化機能を重視する「森林と人との共生」林」並びに木材等生産機能を重視する「資源の循環利用林」に区分するとともに、
②その区分にふさわしい、森林の適正な整備及び保全の実施により、森林施業の方法別の面積、蓄積及び成長量が十分確保されかつ安定的に推移する状況を「指向する森林の状態」として参考に示しています。
(この後に、各項目文章続く)
参考資料:熱帯林行動ネットワーク(JATAN)/世界の森と私たち
鳥取大学乾燥地域研究センター/砂漠及び乾燥地に関する情報
平成14年3月27日地球保全に関する関係閣僚会議「生物多様性国家戦略」
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