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"原発のウソ"を読む
「原発のウソ」(小出裕章著/扶桑社新書)を先月読みました。この本は、原子力発電(以後"原発"と略す)についてとても考えさせられた本でした。趣旨は、反原発・脱原発を決定づけるような内容の本です。
テレビをつければ、ニュースで「安全です」とか「ただちに健康への影響は無い」とか、原発を容認・肯定するような側の学者の意見しか流れていない状況の日本。テレビ局も新聞社も、原子炉サプライヤーたる有数の大手企業達を敵に回せないよね。だって大スポンサーですもん…「原発は超危険!今すぐ停止!」なんて、口が裂けても言えない。
でも次第に、国民も"東電"や"政府"の発表が怪しい…って気がつき始めた。「おい、都合の悪いデータは隠してるだろ!何故、発表しない!」、「原発って、そもそもホントのところどうなの?」って皆が思ってますよね。僕も(文系人間ではあるけれど)学生時代に数年間に渡って科学雑誌ニュートンを購読していた身として、少量の放射線でも遺伝子を破壊する…など、なんとなく"原子力"の力は理解していたけれど、"原子力発電"についてはぼんやりとしか理解していませんでした(と言うより、"無関心"だったと言う方がより正しい)。
今でも覚えているのだけれど、大学の地理学の先生が「石油などの資源は枯渇するから、電気エネルギーは原子力発電を活用しなければいけない」と講義で主張していて、テストの解答もその趣旨に従った答案を書かないと減点されるのでその趣旨に従った答案を書いた記憶があります。おそらく日本全国大同小異で、子どもの教育から高等教育に至るまで基本的に「"原子爆弾"は危険で悪だけど、"原子力発電"は安全な平和利用」と言う認識の下で、教育ないし指導が行われていたのでしょう。
卒論に「自然環境の破壊」をテーマに取り上げた僕ですら、"人工放射性物質"による大気汚染や水質汚染に関する記述はわずか"20行程度"のみでした。しかも、それはほとんど大国の核実験による放射性物質の拡散の記述であり、「原子力エネルギー/原子力発電所の大事故放射能汚染」の指摘はイラスト図の中でたった一ケ所で取り上げているだけ…当時の僕の認識もそんなものでした。
この著者の小出助教授は今ではかなり有名になったけれど、(多くの人がご存知のように)原子力のことを学んで行くうちにうちに「原発は建ててはいけない」と言う主張・立場に至った人で、だから所謂"原子力村"の学者からは嫌われています。東電からは「小出とは話をするな」とか「小出を見張ってろ」と言われて研究者が派遣されてきたり…そんな訳で、未だに助教授止まり(それでも解雇はしない京大もなかなかと思ったりしますが)。長年の圧力の中、よく心が折れずここまで頑張ってきたな~、と敬服してしまいます。
現在では、小出助教授の科学的根拠と信念を持った発言に、少なからぬ市民が共感をいだくようになっています。おそらく"助教授"と言う肩書き以上の(否、むしろ肩書では示せないほど)、小出さんに尊敬の念を抱く人が日本で増えているのではないでしょうか。
で、本の内容なのですが、正直、二人の子供を抱える身としては、知りたくないような恐ろしい記述がたくさんあります。テレビでは決して教えてくれない、伝えてくれない科学的根拠のある事実です。でも、家族を守るには知っておかなくてはならないでしょうから、嫌でも読みました。本の内容は全部は書けないので、気になる数ポイントのエッセンスだけを徒然に列挙します。
・被爆の安全量が云々されているが、「わずかな被爆量」でも放射線はDNAを含めた分子結合を切断・破壊する現象は起き、その傷が細胞分裂で増やされていくから、「全く影響がない」などとは絶対に言えない。また外部被爆と内部被爆では様相が異なるが、特に体の内部に取り込んでしまった内部被爆は、ずっと被爆を続けるので破壊力が大きい。
・JCO事故の時のウランの量は、わずか1mg。それでも何百人もの被爆者をだし、2人に壮絶な死を迎えさせてしまった。今回の福島第一原発から放出された放射性物質は、計算上セシウム137換算で広島原爆の80発分と見積もられる…それだけの「死の灰」が飛び散ってしまった可能性がある。しかも、まだ漏れ続けている。
・原発事故処理に関して、何となく"楽観ムード"が漂っているが、とんでもない。未だ危険な状態。東電が発表した工程表は実現可能とは到底考えられない。実施したら危険な工程も含まれている。実際のところ、当事者の東電を含めて、誰も「どうすれば良いのか分からない」と言うのが実情だろう。
・現在の日本の原子力技術は、世界最先端どころか、実は周回遅れの後進国。他国の技術を導入して、今に至っている。やっきになって独自の高速増殖炉"もんじゅ"の開発を推し進めているが、未だに試験運転すらできず1兆円もの資金を捨ててしまった高価な原子炉。「高速増殖炉は今すぐにでも実現できる」とうそぶく学者もいるが、"もんじゅ"は破綻確実。しかも冷却材にナトリウムを使用しているが、ナトリウムは「水に触れたら爆発」「空気に触れると火災を起こす」と言う化学活性が強い物質なので、もし今回の福島のような事故が"もんじゅ"で起こっても、福島の様に消防のポンプ車で注水作業をすることもできない。つまり、福島と同様の大規模な事故が起きた場合、水で冷却もできず、何ら対処する方策もないまま破局を迎えてしまう超危険な原子炉が"もんじゅ"である。たいへん恐ろしいものを日本人は作ってしまった…それが"もんじゅ"。
・再処理工場は、その危険性で群を抜く。再処理工場は、原子力発電所が一年で放出する放射能を、たったの一日で出してしまう。再処理工場は、「原子炉等規制法」の濃度規制から除外され、放射能を薄めずにそのまま放出できてしまう。量的に薄めるのが、費用的にも物理的にも不可能なためである。六ヶ所村の再処理工場は、当初「7,600億円で建設できる」と発表されていたが、次々に計画が見直されて巨額の必要に膨れ上がり、結局操業から解体まで総額12兆円を超える予定。
・原発エネルギーが低コストと言うのは嘘。日本の電気代は、他国と比較してたいへん高い。高すぎる電気料金のため、国際競争力を失った産業もある。また、原発が廃炉になった後も続く放射性廃棄物の処理・管理が、(民主党や自民党の存在どころか)日本がどうなっているかすら分からない数十万年先まで続くのである(…原子力で発電できる期間などせいぜい数十年なのにである)。低コストどころか、原子力発電が終わった遥か先の未来まで莫大な国家予算がかかり続ける悪夢のような超高コストなのが原発なのである。
・原発がエコと言うのも嘘。発電に使える燃料を作るには、ウランを採掘し、運び、精錬し、濃縮し、ペレット状に加工する。そうしてようやく使える燃料になるが、その過程で使われるエネルギーはほとんど石油などの化石燃料で、それらを燃やすことでおびただしい大量の二酸化炭素を出している。つまり、「地球温暖化防止のために原子力は必要」と言う宣伝文句は無理が生じてきて、最近、国や電力会社は「『発電時に』二酸化炭素炭素を出さない」と表現するようになってきた。これも嘘で、正確には「ウランの核分裂反応は二酸化炭素を出しません」が正解。また、冷却用の海水は7℃も暖められて海に戻されている。日本近海の海水温度は異常な温かさになっている。これで「環境に何の影響もない」と言う方がおかしい。
・地震頻発地域で原発を立てているのは、ほぼ日本だけ。地震国である日本に、原発を立ててはいけない。事故は、(今回の福島の事故で分かるように)想定外の所で起こる。人間は、すべての"想定外"を想定できない。それは不可能である。制御不可能な危険な機械を、決して使ってはいけない。
・原子力エネルギーに未来は無い。実は石油資源よりも先にウランが枯渇する可能性の方が高い。また原子力発電を停止して廃炉にした後も、現在の科学では解決できない負の遺産「核のゴミ」が出る。100万年もの間「高レベル放射性廃棄物」を維持・管理することなど、費用的にも技術的にも人間には不可能である。誰にもできない。
他にも様々な事が述べられています。「原発が無くても電気は十分まかなえる」とか、「なぜ日本の電気代が世界一高いのか」とか、「なぜ電力会社は原発建設を止められないのか」とか、「なぜ電力会社は情報公開を渋るのか」とか、「汚染されてしまった農産物や農業の事」とか、そう言う事も分かるようにその仕組み・警告・対処などを書いています。
知識は大切です。一部の意見しか聞かないと、偏った考えに陥ります。一方だけの意見だけでなく、双方の意見をきちんと聞く姿勢がすごく大切でしょう。
大手マスコミでは(一部を除いて)未だに原発に関しては"原発容認"的な方向で報道を進めている会社が多く、国民の多くはそう言う知識をインプットされ続けています(※私自身、先日のTV報道番組でも確実にそう感じました)。国民の多くの方に、(大手マスコミの報道だけではなく)ぜひともこちらの本も読んでほしいと思います。
(2011年8月7日記載)
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2012年6月3日追記:「統計を疑え!」と言う記事の中で、マスコミのアンケート調査の問題点を書いたけど、先日あからさまな世論誘導としか思えないアンケートがあった。5月某日の某マスメディアの「原子力発電」に関するアンケートの結果報告なんだけど、これがどう解釈しても公平とは思えない設問。
例えば、①「将来長年に渡り環境や健康に被害をもたらす可能性があり、かつ莫大な費用支出が想定される原発は必要だと思いますか?」と言う設問と、②「電力が不足することが明らかに予想される場合、原発は必要だと思いますか?」と言う設問の場合、①の場合「原発はいらない」と言う割合が増えるだろうし、②は「原発は必要」と言う割合が増えると考えられるでしょう。
前述の某メディアのアンケートは、正にこの後者のタイプで、どう解釈しても「原発必要」へ世論誘導しているとしか思えない。このメディア、前から企業や官僚の"代弁者"的な傾向が強いと思っていたのだけど、こう言うアンケートを見ると、原発関係者や電力会社の代弁者としか思えない。