原理主義に関する考察 入口 ＞トップメニュー ＞キリスト教研究 ＞諸宗教 ＞原理主義 ＞現ページ
１．原理主義の定義
日頃、テレビや新聞等のニュースで、｢イスラム原理主義｣と言う言葉を耳にする。この言葉を聞くと、無意識に自爆テロや暗い紛争を思い浮かべてしまうだろう。なんとなく分かっているようで、実はよく理解されていないこの原理主義と言う言葉。｢主張のベースとなる基本原理･原則があって、それに基づいて行動すると言う主義なんだろうな～｣と言う事は理解している。特に｢イスラム原理主義｣と言う言葉が最も使用頻度が高いから、｢イスラム教の過激派組織の人たちの原理･原則なんだろうなあ｣となんとなく考えている人も多いだろう。しかし、厳密に｢原理主義｣とは何なのか、と言う事になるとけっこう曖昧である。実は原理主義と言う言葉は、イスラム教の専売特許でもないし(そもそも原理主義と言う言葉はアメリカで生まれた言葉である)、むしろイスラム教徒は自分達の事をイスラム原理主義者などとは思ってはいない。イスラム教徒にとってコーランの無謬性(※誤りや間違いが無いと言う事)は自明の事で、聖典の無謬性を主張する者を｢原理主義者｣と呼ぶのなら、すべてのイスラム教徒が原理主義者となってしまう。しかし、ニュースで伝えられるところの原理主義者は、極限られた破壊的な傾向をもつ一部のイスラム教徒の事を指している。こう考えると、何が原理主義で、何がそうでないのか、その判別がなかなか難しいことが分かる。
小川忠氏の｢原理主義とは何か｣と言う著作の中で、シカゴ大学が行なった原理主義を比較研究するプロジェクトの事が書かれている。それによると、原理主義のイデオロギー的な特徴として次の５つが挙げられている。
原理主義のイデオロギー的特徴
近代化による宗教危機に対する反応･･･世俗化、近代化がもたらす社会変化を宗教の危機ととらえ、これらに対抗すべく出てきた思想軸。世俗権力が推進する近代化、国民国家建設(世俗ナリョナリズム)は宗教を存亡の危機に追いやり、伝統的な共同体を解体すると言う危機感から原理主義は発生する。
選択的な教義の構築･･･原理主義は、その属する宗教の様々な教義の中から、特定の教義、思想を選ぶことによって、独自性を獲得しようとする。また、原理主義は近代化に反発しつつも、近代の科学技術やライバル宗教が有する技術等を選択的に取り入れる。また、近代に対して反発すると言っても、すべてに反対するわけではなく、反発する分野も選択的である。
善悪二元論的な世界観･･･原理主義の思想的特徴の一つが、神が支配する光の世界と、邪悪が支配する闇の世界が闘っていると言う思想。つまり善悪対立の世界観を持ち、外部から侵入しようとする悪魔から仲間を守り、神の世界を実現しなければならないと言う考え方。
聖典の無謬性の主張･･･原理主義者は、聖典の無謬性、つまり一切の誤りが無いことを強調する。つまり聖典に誤りが無い以上、その解釈も拒否すると主張する一方で、実際は聖典を時代に適用させるため、聖典に解釈の手を加えている。
終末観的世界認識と救世思想･･･やがて最後の審判が到来し邪悪を打ち滅ぼすが、その前に救世主が到来し、神を信ずる者を救い、正義の支配が確立し、永遠の楽園が到来すると言う、終末論とユートピア思想がセットになった世界観が、多くの原理主義思想に見られる。
また、組織的特徴としては、次の４つが挙げられている。
原理主義の組織的特徴
選民思想･･･原理主義組織は、自らを｢神に選ばれた者｣｢神と共に歩む者｣とする。また自らの組織の中でも特に｢選ばれた｣幹部集団とそれ以外の一般構成員を峻別する傾向がある。
組織の内と外の明確な区別･･･原理主義組織は、構成員か、そうでないかの境界線をはっきりと引き、教団の外側は罪深き者達と見なす傾向がある。
カリスマ的な指導者の存在･･･原理主義組織は、カリスマ的で独裁的な指導者が存在する。構成員自体の自覚も強いが、指導者の指示は組織内で絶対視される。
厳格な規律、行動規範･･･原理主義組織は、構成員の日常生活には厳格な規律、行動規範が示される傾向が強い。
と、言ったところである。原理主義を一言で言い表すとすると、｢近代、世俗主義に対する、宗教の側からの、自己防衛のための組織化された攻撃的な反応｣と言う事ができる。
世界の多くの国では宗教的アイデンティティーと民族的アイデンティティーはもつれ合っているので、政治性と宗教性を包合する言葉として、｢原理主義｣と言う言葉ではなく、｢宗教ナショナリズム｣と言う言葉が最適であると言う主張もあるが、一般にマスメディアでは｢原理主義｣と言う用語が定着しているので、今後このコーナーでは｢原理主義｣と言う言葉で話しを進めさせていただく。次回以降は、各原理主義の背景や歴史等に迫っていきたい。
(2004年 9月 5日記載)
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