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第二部:第二章 ユダヤへ
57.ユダヤへの上陸
アレクサンドリアを出航して3日後に、船はカエサリアに到着した。
カエサリアは、ユダヤ属州の首都である。今から50年前にヘロデ大王によって建設された港湾都市であり、都市名のカエサリアはインペラトール・ユリウス・カエサル・アウグストゥスを讃えるために、ヘロデ大王によって命名された。
ここカエサリアに、ローマ総督府と軍団の基地があった。既に円型闘技場は建てられていたし、ヘロデ大王が心血を注いで完成させたカエサルに捧げられた神殿も、入港する船からよく見える場所に建てられていた。
上陸した雄牛隊は、第Ⅹ軍団の准将と3人の士官たちに迎えられた。ティベリウス帝直々に要請があった割には、随分と寂しい出迎えである。雄牛たちは、士官達に案内されて、第Ⅹ軍団フレテンシスの軍団基地に向かった。雄牛隊の後を、従者や軍団の荷物を載せた馬車やロバが続く。軍団基地はカエサリアに隣接していたので、すぐに到着した。
軍団基地に到着すると、副司令官の軍団長が出迎えた。この軍団の司令官は、属州総督のポンテオ・ピラト総督であったが、総督は多忙なために軍団の日常は副司令官の軍団長が仕切っていた。
その副司令官が言う。
「私はこの基地の副司令官の、軍団長ユニウス・アエリウス・セイヤヌスだ。遠路遥々ヒスパニアから来ていただき、感謝に耐えない。ピラト総督は、現在エルサレムの総督官邸にて執務中で、戻るのは2週間後だ。そのような訳で、今この基地に不在で、『諸君を迎えられずに申し訳ない』との伝言を預かっている。
この第Ⅹ軍団は、ユダヤ属州の広い地域をカバーしなければならないので、常に多忙である。諸君らの雄牛隊は、第Ⅹ軍団フレテンシスの第2戦列歩兵隊に加わり、今後の任務に励んでもらうことになる。
諸君の任地はこのユダヤ属州ではなく、ヘロデ・アンティパスの領地、ガリラヤ地方である。今日はこの軍団基地でゆっくりと休み、明日ガリラヤのカファルナウムに出立していただきたい。以上である。」
以上であった。
あまりにそっけない形式的な出迎えと言葉に、第Ⅹ軍団の実情が垣間見られた気がした。その後は、准将に案内されて、一夜を過ごす兵舎に着いた。「軍団基地でゆっくりとお休みください」と言う言葉が、白々しく感じられる。1ヶ月もの船旅と終えたばかりだと言うのに、疲れを癒す暇もなく、明日からはまた行軍の日々である。
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