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第二部:第一章 再会
48.ユダヤのシカリ党
ユダヤの国はヘロデ王の死後、混乱を極めた。ユダヤを平和に治める能力を持った統治者に相応しい人物は、もはや残っていなかった。ヘロデ王は、自分の王位を揺るがす可能性のある高い能力を持った者や人々の信頼を集める者は、息子だろうが、身内だろうが、側近であろうが、全てこの世から葬り去ったからである。
父ヘロデと同様、残虐さで知られたアルケラオスが遺言で後継の王に指名されたが、ユダヤで暴動が起こり、アルケラオスがそれを武力で徹底的に鎮圧した。アルケラオスを王として認めない他のヘロデの子らは、アルケラオスは残虐であり王に相応しくない事を、ローマのアウグストゥスに訴えた。結果、ユダヤの地に王は認められず、ユダヤの国は4人の領主に分割されてしまった。
アルケラオスは、王ではなく民族の統治者として、ユダヤとサマリアの領主となった。ヘロデ・アンティパスはガリラヤとペレヤの領主に納まり、フィリッポスはバタナイアの領主となった。残りの領地や土地は、ヘロデ王の妹サロメに与えられた。
ユダヤの地は平穏になったかに見えたが、実際は反乱の根が深く静かに育ちつつあった。非道で暴力的なヘロデ王の統治が終わった途端、残虐なアルケラオスの統治。結局、アルケラオスは住民からローマに訴えられて、統治能力無しと判断され、ユダヤの領主を解任された。その後はローマの直轄支配地となり、ローマから送られてくる総督が支配する地となった。
ユダヤの指導者達はローマに媚び諂う服従の態度の一方で、ユダヤ市民の苦しみをまるで知らないかのように振る舞い続ける。取税人達は必要以上に税を取り立てて私腹を肥やし、兵士達は市民を脅して金品を毟り取るような行いも、日常茶飯事になっていた。
こうした状況で、熱狂的なユダヤの民族主義者、愛国主義者の勢力が増していった。中でも、熱心党と呼ばれる抵抗勢力の拡大は目を見張るものがあり、以前にも増して各地で賛同者を増やしている。彼らは、ユダヤの国がユダヤ人自身の手により統治されること、この地からローマ人を追い出すことを念願としており、かつてのダビデ王のような優れた勇士がユダヤの軍団を率いて、このユダヤを解放する事を信じていた。自らの王をいだき、外国人をこの地から排斥すること、つまり尊王攘夷が彼らの望みである。
熱心党にはいくつの分派があったが、その中の極端な一派のシカリ党はユダヤ人からも恐れられていた。何故なら彼らはその思想を民衆に押し付けて煽るだけでなく、実際に暗殺と言う手段を用いて行動したからである。シーカーリーと言う短剣を隠し持ち、ユダヤ国内のローマ人を殺し、ローマ人に肩入れする同族のユダヤ人さえ殺した。彼らは、国内に数千人もいると考えられている。
ユダヤ市民、特にサンヘドリン議会の議員や高名な知識人や経済力を持つ人々は、どこに潜んでいるか分からないシカリ党を恐れ、親ローマ派と密告されないように自らの言動に注意している。一方でローマに恭順の意を示しながら、一方でユダヤの民族主義に同意すると言う玉虫色の態度を決め込んでいた。圧倒的な軍事力のローマへの恐怖と、暗殺と言う手段を用いる熱狂的な民族主義集団のシカリ党の恐怖の、両方から逃れようとしていた。ローマに税金を納めるのを認める事だけですら、親ローマ派と捉えられかねない時代なのである。取税人に税を毟り取られ、兵士に脅され、陰の暗殺者に怯える。市井の人々にとっては、二重に三重に生き辛い世の中であった。
シカリ党の暗殺者達は人目につかない隠れ家で密会し、次に襲うローマ人や親ローマ派のユダヤ人の暗殺について謀議を繰り返す。その中に、目を鋭く光らせて謀議に加わる髭面の若者がいた。彼の名はバラバ・イエス。彼もまた、ユダヤ民族の大義を厚く辛抱する者の一人であった。
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