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第一部:第五章 盗賊討伐

44.仲間の捜索

マルキウス隊は、仲間を探した。村の中や、戦闘地域で倒れた兵士を確認していく。カッシウス隊長の遺体は、他の隊の兵士によって、既に戦闘地域の外に運び出されていた。烏のユリウスが、脚を負傷し動けなくなっていた紅鶴のユリウスを見つけた。
その後、穴熊のフラウィスが禿鷹のドミティウスの遺体を村の中で見つけた。盗賊と戦った末の死亡らしい。
クロディウスが、残り1人の行方不明者のファビウスを探していると、ティトゥス隊の血まみれのアントニウスが、不気味な笑みを浮かべながら、命乞いをしている敵兵を一度では殺さずに、何度も突き刺しなぶり殺しにしているのを見た。クロディウスは、アントニウスの右腕をつかんで諫めた。
「何をやっているんだ、アントニウス!」
クロディウスは剣を抜き、もはや助かる見込みの無いめった刺しの苦しむ敵兵の首を、一撃で撥ねた。アントニウスは冷徹な視線をクロディウスに残して、次の獲物を探しにその場を去った。何が、アントニウスをここまで狂気に駆り立てるのか。
クロディウスは、村の外で梟のファビウスの遺体を見つけた。戦闘地域で敵兵の遺体の下敷きになっていた。

盗賊討伐隊は、敵兵や村人を皆殺しにして、略奪する物も無くなって、ようやく煙がくすぶり続ける村から引き揚げてきた。
討伐隊の千人隊長は、隊の被害状況を調べさせた。ヴィリアトゥス村の戦闘で死亡した軍団兵は50人。峠の戦闘で死亡した8人、及び敵の追跡行で名誉の戦死と讃えられたフリウスを加えて、討伐軍で死亡した兵士の数は59人だった。
特に崖上での戦闘を単独の隊で行い、村の戦闘では仲間の復讐を果たすため、最前列で獅子奮迅の活躍を見せたマルキウス隊の犠牲者が最も多く、25人が命を落とした。中でも、カッシウス隊の被害が最大だった。

鳩のカッシウス・プリスクス、村の戦闘で死亡。テント組で最も知性に溢れ、語学に堪能で、信頼の暑かった十人隊長。クロディウスには、たくさんの哲学や本の話しで付き合ってくれた優しき隊長。

野犴のアントニウス・クレメンス、峠の崖上での戦闘で死亡。テント組で最も剣術に長けた勇士。崖の上の戦闘では、その剣捌きで多くの仲間を救った。彼がいなければ、犠牲者の数はもっと多かっただろう。クロディウスの剣の腕が上がったのも、彼の教練の賜物である。

禿鷹のドミティウス・ゲルマヌス、村の戦闘で死亡。弓の名手。彼の猟の成果で、度々珍しい肉料理にありつけた。クロディウスは、結局、弓を教わる機会が一度も無かった。

梟のファビウス・アウソ。19歳にして山の達人。山や森では、彼から教わることが多かった。クロディウスが、最も世話になった先輩兵である。

カッシウス隊の8人のうち、半数の4人が死亡した。そして、生き残った4人も傷だらけだった。 一方、敵の死亡者は1,500人以上だった。村にいた家族を含めると、2,000人か、2,500人か。今の段階では、正確な人数は分からなかった。確かな事は、一人残らず全員が殺された、と言う事である。峠で捕虜となった19人も、同様の運命を辿るであろう。

軍団長が、盗賊討伐隊の軍団兵に演説を始めた。奮闘した第Ⅳ軍団の栄誉を讃えている。中でも、最も奮闘したマルキウス百人隊を誉め讃えている。それらの賞賛の言葉は、クロディウスの耳には一切入って来なかった。全ての美辞麗句が、虚しく感じられる。

敵前で逃亡して、その罪の責任を負ったフリウス。フリウスと、一緒に乗り越えたあの辛かった行軍の話しをしたい。初めて飲んだ、クソ不味い葡萄酒の話しがしたい。
カッシウス隊長と、もう一度本の話しがしたい。哲学の話もしたい。そんな話ができる人間は、カッシウス隊長しかいない。
ファビウス!彼ほど、面倒見の良い先輩がいただろうか?本では学べない山のこと、森のことを、たくさん教えてくれたファビウス。特別な唯一無二のファビウス。
もう一度、彼らの声を聴きたい。もう一度、語り合いたい。彼らに対する賞賛の言葉なんて要らない。聴きたいのは生きている彼らの声。

しかしクロディウスは、何故か泣いたりはしなかった。悲しくなかった訳ではない。自分でもよく分からないが、何か非現実的な感覚に覆われていた。
ガリア戦記のように、ここで起こった事を書く記者は誰もいない。軍団兵も陰の部分は語らず、華々しい勝利だけを後世に伝えるだろう。敵は全員死亡して、真実は語り継がれることも無い。この陰惨な虐殺の記憶は、歴史で忘れ去られるのだ。
タッラコの司令部は、ローマにこう書き送るのだろう。

「ヒスパニア・タッラコネンシス属州司令官ダマスクス・トゥッリウス・プロクレスより、インペラトール・ユリウス・カエサル・アウグストゥスへ、ここに大勝利の報告を行う。 第Ⅳ軍団の働きにより、盗賊集団を壊滅せり。盗賊二千名余に対し、当方軍団兵の犠牲者は59名と言う最小被害で、盗賊集団全滅の任を果たす。 アウグストゥスとローマに栄光があらんことを」。


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