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第一部:第五章 盗賊討伐
40.陣営の設営
タッラコから出発して10日後、山を越えて2日後の昼に、軍団は目的地のセグラ川の南岸に到着した。この対岸の北側に、討伐のためのカストラ(本陣)を設営する。まずは、川に橋を架ける作業が開始された。川の幅はさして広くはないと言うものの、雪解け水で川は増水している。土木に特化した専門の工兵達の指導の下、若い軍団兵は荷馬車から資材や道具を下ろして、橋を架け始めた。翌日には、簡易な橋ではあるが形となり、馬車も通れる程度の強度は確保し、対岸に荷馬車と資材を運んだ。
橋の補強作業は続けられたが、並行して陣営設営も開始された。ここでの陣営作りは、いつもの仮陣営作りと異なり、より本格的な設営となった。壁はしっかりと補強され、塹壕は二列掘られた。そして、あの百合の穴は互い違いに八列も掘られた。これで敵の急襲があっても、かなり時間が稼げる。
この日、ちょうどアプリーリス月に変わっていた。ローマの女神ウェヌスの月、春の季節の到来である。
橋作りと本陣営設営完了の夜、どのテント組でも、明朝開始される盗賊討伐の事が話し合われた。すべての隊に、討伐任務の役割指示が出されたからである。
その夜、マルキウス百人隊の3人の士官と10名の十人隊長らによる計画実行の軍議が行われた。
軍議が終わり、カッシウス隊長がテントに戻ってきた。マルキウス隊の、しかもカッシウステント組の任務が、この討伐行で最も重要な任務である事を告げる。
「我がマルキウス百人隊が、ヴィリアトゥス村への先発隊を努める事になった。」
一同は、驚きの声を上げた。
「彼らの村に行くには、峠の谷を通らねばならない。南側からはそこ以外に、彼らの村に行く方法が無いからだ。敵がそこで待ち伏せしている可能性も大きい、と司令部は考えている。」
烏の方のユリウスが言った。
「それでは、むざむざ殺されに行くようなものではないですか。テルモピュライを持ち出すまでもなく、僅か80人では、峠で待ち伏せにあったら太刀打ちできません。」
カッシウスが、毅然として答えた。
「だからこそ、我々80人が先陣の任を与えられた。司令部は認めないだろうが、はっきり言おう。もし敵の罠があっても軍団が全滅するよりは、1個百人隊の犠牲で済む方がまだましだって事だ。
仮に待ち伏せ攻撃にあって、谷から撤退するにしても、機動性の高い80人ならば素早い撤退も可能だろう。逆に二千人が一度に撤退した場合、狭い峠では多くの軍団兵の圧死の危険性がある。過去の歴史的戦闘での敗戦での死亡原因は、混乱した撤退時の圧死が圧倒的に多いんだ。狭い峠の山道でなら、尚更だ。」
穴熊のフラウィスが言った。
「一番危険な任務が、なぜ我々なのです?マルキウス隊長はハスタートゥス・プリオルですし、このような任務は、より下位のティトゥスの隊が務めるのが順当ではないですか?」
「その件については、マルキウス隊長から説明があった。知っての通り、ティトゥスが任官される前の隊は敵前逃亡者を出している。そのような隊に重要な先陣を努めさせられない、信頼度の高いマルキウス隊に任せる、と言うのが司令部の理屈だ。」
カッシウスがそう答えると、フラウィスが絶句した。
「そんな馬鹿な・・・もう2年も前の話しですよ?」
カッシウスが同意した。
「ああ、確かに。その理由は表向きのものだろう。おそらくティトゥスが騎士階級のコネと財力に物を言わせて、司令部に相当な袖の下を渡したのだろうと察する。マルキウス隊長も、そう睨んでいる。」
フラウィスが呆れ顔で言った。
「どこまでも腐った奴だな!そんな奴らのために、命を張って先頭を行くのか!?」
「いずれにせよ、司令部が下した命令に逆らうことはできないからな、最善を尽くすしかないだろう。今日は、マルキウス隊長から極上の葡萄酒を預かってきた。明日の任務での無事を祈って、乾杯しよう。」
そうカッシウスは言って、テント組のそれぞれの器に葡萄酒を注いだ。
「マルキウス隊と我がテント組に、栄光と勝利あれ!乾杯!」
テント組の8人は器を交わした。
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