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第一部:第四章 第Ⅳ軍団マケドニカ

30.密偵の帰還

クロディウス達の休息日となったその日の朝、タッラコの基地の北門に1人の旅人が到着した。旅人が何やら書類を見せると、門の警備兵は彼を基地内に通した。基地の大通りをそのまま南に歩いて、要塞司令部に向かう。司令部の警備兵も門兵と同じように、ドアを開けて旅人を中に通した。
しばらくすると連絡士官が、要塞司令部から出て行って将官宿舎に向かった。その後、上級士官達が要塞司令部に集合した。

要塞司令部内では、上級士官や千人隊長達が大きなテーブルの上にヒスパニアの地図を広げている。旅人がその服を脱ぐと、それは密偵として各地に遣わされた軍団兵の1人だった。
ヒスパニアの地図を前にして、司令官が密偵に質問した。
「それで、その盗賊達の正体は分かったのか?」
密偵の任務から帰還した軍団兵が答える。
「全てが分かった訳ではありませんが、いくつか分かったこともあります。盗賊の頭領の本名は分かっていませんが、地元村民たちの話しでは、ヴィリアトゥスと名乗ったり、ハンニバルと名乗ったりしているそうです。」
司令官は言った。
「いずれも、ローマ軍と戦って勝ったことのある将軍の名前だな。反ローマである事は間違いなさそうだ。」
密偵は続けた。
「盗賊が襲うのは、ローマのコロニーやローマの商人や旅人ですが、盗賊達に非協力的な村々も略奪されて、焼かれています。彼らを目撃した他の密偵の報告によれば、彼らの仲間は増え続けており、今は千人近くにまで膨らんでいるようです。」
司令官が、再び質問した。
「早急に手を打たなければいかんな、ローマにつまらん情報が流れる前に。で、彼らの本拠地はどこなのだ?」
「彼らの出没地域は、だいたいこの辺一体です。」
と密偵は答えて、地図の中央北部を指さす。司令官がそれを見て言った。
「そこだと、我々の軍団が一番近いな。第Ⅹ軍団の配属地からも、レオンにいる第Ⅵ軍団からも遠い。我々第Ⅳ軍団の担当任務ってことか。」
地図を見た千人隊長の一人が言った。
「やっかいな地域です、司令官。そこら一帯は、険しい山岳地帯です。共和政時代のローマ軍も、山岳地帯でのゲリラ戦では手を焼いていました。彼らの方に、地の利があります。軍団が密集陣形で攻め込むことができないので、そこに逃げ込まれると盗賊の一掃は難しくなります。」
それを聞いた司令官が言った。
「うむ。いずれにせよ、もう冬になる。軍団が討伐に向かうのは、春になってからだな。」
ローマ軍に限らず、冬期は雪や低気温で作戦行動が制限され、前線への兵站補給も難しくなることから、陣営で過ごすのが常であった。
「それまでには、残りの11名の密偵の情報も揃うだろう。その情報を基に、盗賊討伐計画を綿密に練る事としよう。」


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