百人隊長物語入口 >トップメニュー >ネット小説 >百人隊長物語 >現ページ


第一部:第四章 第Ⅳ軍団マケドニカ

25.所属部隊への配属

新兵訓練終了が宣言されたその日、全部隊の再編成が発表され、新兵達の配属先も決まった。

タッラコ基地の第Ⅳ軍団マケドニカは、10個歩兵隊で構成されている。1個歩兵隊は6個百人隊で構成され、1個百人隊は80人で構成されていた。つまり第Ⅳ軍団は、4,800人構成されている。士官や教官、騎兵隊、下級書記、各種事務官、拷責官、将官の奴隷らも含めると、総勢6,000人もの大所帯である。軍団基地は、それ自体1つの町であった。

この3年間、病死、また訓練中の事故死、任務における死、そして退役などによって、あちこちの部隊に毎年少しずつの穴が生じていたので、今回はその調整用の再編成であった。 第1戦列歩兵隊の欠員は、25人。第2戦列歩兵隊の欠員は17人。そして、ベテランで構成される第3戦列歩兵隊の欠員は54人と最も多かったが、その内の48人は兵役期間満了に伴う退役によるものだった。
新兵96人は全員、若い兵士で構成される第1戦列歩兵隊に配属された。彼らの部隊の百人隊長達もまだ若く、全員が20代後半から30代の第5席のハスタートゥス・プリオルないし最下の第6席ハスタートゥス・ポステリオルである。
そのため、第1戦列歩兵隊の20代後半の兵士や士官ら71人が第2戦列歩兵隊の穴埋め要員として昇格し、それに伴って第2戦列歩兵隊のベテラン兵士と士官ら54人も第三戦列歩兵隊の穴埋め要員として昇格した。

第1戦列歩兵隊の若手が務める百人隊は、全部で24個。これは歩兵隊4個分1,920人であり、第Ⅳ軍団歩兵の4割を占めた。新兵達96名は、この24個の歩兵隊に配属された。百人隊一隊あたり、平均新兵4名ずつの配属である。
クロディウスは、アントニウスやユリウスやアッリウスら三人と共に、隼隊と呼ばれる歩兵隊内の、百人隊長マルキウス・ファベルの隊に配属された。
兵舎の移動を全くせずに済むベテラン兵の百人隊もあったが、半数の中堅及び若い百人隊は引っ越す事となった。軍団兵が荷物を荷車に積み、基地内を北に南に、東に西にと移動する。クロディウスら4人も、日用品の入った背嚢を背負い、武具やら毛布に包んだ干し草やらを腕いっぱいに抱えて、指定された兵舎に向かった。

マルキウス百人隊は、基地南東側の端から5番目の兵舎を指定された。隊の所属兵達が、兵舎内の自分の割り当ての部屋に荷物を運びこんでいる。アントニウスが宿舎前の地面に荷物を置いてから、その中の一人に声をかけた。
「すみません、こちらの隊に配属された4名です!」
兵士が彼らを見て、応えた。
「新入りか。ちょっと待ってな。」
そう言うと、宿舎の奥に入っていった。しばらくして、4人の兵士たちが入口から出てきた。彼らの一人が言った。
「君らは、私達の十人隊にそれぞれ配属された。私は、十人隊長のカッシウス・プリスクスだ。クロディウス・ロングスは誰かな?」
「私です、十人隊長殿!」
と、クロディウス答えた。
「君は、私の隊だ。」
別の十人隊長が言う。
「私は、ケフィキウス・フェリックス。アントニウス・ウァレンスは誰だい?」
アントニウスが答える。
「自分であります、十人隊長殿!」
次の十人隊長が言う。
「私は、アエミリウス・セレヌスだ。うちの隊のユリウス・ニゲルは誰だ?」
ユリウスが答える。
「私であります、十人隊長殿!」
4人目の十人隊長が言う。
「私は、ケルキウス・オクタウィアヌスである。じゃあ、最後の君がアッリウス・シドだな?」
アッリウスが答える。
「そうであります、十人隊長殿!」
カッシウス十人隊長が、4人の新兵に告げた。
「よし、付いて来い!」
全員で答えた。
「はい、十人隊長殿!」

兵舎に入ると、昼間にも関わらず中は薄暗かった。何故なら、廊下を挟んで左右に部屋が配置され、宿舎内には入口から入る光しか無かったからである。燭台が無ければ、夜は廊下を歩くのも困難だろう。左右に五つずつの部屋があり、通路の突き当りには二つの部屋があった。十人隊長のカッシウスが、説明する。
「奥の右側の部屋が、マルキウス百人隊長の部屋で、左側の部屋が、ペトロニウス副隊長とロンギヌス旗手の部屋だ。我々の部屋は、その手前の10部屋。では、部屋に案内しよう。」
新兵の4人は、各々の十人隊長に後ろに従って、それぞれの部屋に散って行った。カッシウスが案内した部屋は、なんと百人隊長のすぐ隣の部屋だった。部屋のドアを開けるカッシウス。部屋の中の隊員達が、全員カッシウスとクロディウスに注目する。兵士の一人が言った。
「おっ、新入りか!よろしくな!」
クロディウスは元気に答えた。
「クロディウス・ロングスです!よろしくお願いいたします!」
カッシウスが、クロディウスに言った。
「君の寝床は、このドアの一番近くだ。軍団の慣習で、軍歴の短い者がドア近くになる。」
「はい、カッシウス十人隊長殿!」
そう言って、クロディウスは両手いっぱいの荷物を、指定された寝床の上に置いた。
百人隊の80人は、8名人ずつの小隊に分けられている。十人隊と呼ばれてはいるものの、実際の数は8人である。つまり80人で構成される1個百人隊は、10個の小隊で構成される。この8人は訓練や実戦では行動を共にし、通称テント組と呼ばれていた。ローマが共和政の頃からの習慣で、軍団兵が野外陣営でテント生活をしていた頃の名残である。しかし、こうして恒久的な基地を持つ兵舎生活になっても、未だにテント組と呼ばれていた。

クロディウスは、部屋の中をぐるりと見まわす。部屋は2間あった。今いる部屋は寝床が置かれ、もう一部屋は物置代わりの倉庫や炊事場に使われているようだった。倉庫スペースには棚が設けられ、各自の甲冑や剣など武器が置かれていた。どちらも部屋の奥には窓が一つずつあるので、廊下よりは明るかった。
今いるこちら側の部屋は、窓に向かって左右に4つずつ計8つの寝床がある。最も奥の窓際の2つが、十人隊長や副隊長の寝床だ。
と言う事は、ドア側の残りのもう一つの寝床には・・・そちらを見やると、一人の若い兵士がこちらを見ている。
「よお、新入り!俺は、ファビウス・アウソ。一年、先輩だ!」
クロディウスは、即座に答える。
「僕は・・・、私は、クロディウス・ロングスです!」
「それは、さっき聞いたよ!」
そう言って、ファビウスは笑った。他の兵士たちも笑う。
「軍団生活の事は、俺が教えることになっているから、分からない事があったら何でも聞いてくれ!」
ファビウスがそう言うと、クロディウスは頭を下げた。
「ありがとうございます、ファビウスさん!よろしくお願いいたします!」
すると、奥から2番目の寝床の先輩兵士がファビウスに言った。
「やっと、お前にも後輩ができたな。一番下じゃなくなって嬉しそうじゃないか、ファビウス!」
ファビウスが、恥ずかしそうに答える。
「勘弁して下さいよ、フラウィスさん!」
一同は、また笑った。
窓際のカッシウスが、一同に伝える。
「荷物の整理が終わったら、全員、正式軍装で兵舎前に整列だ。」


→次のエピソードへ進む