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第一部:第三章 新兵達の訓練

22.初めての訓練休息日

その翌日、新兵達に初めての休息日が与えられた。行進訓練に5日間、陣営設営訓練に7日間、そして戦闘訓練に7日間の計19日間連続の訓練の後の、ようやくの休息日。休息日と言っても、まだタッラコの町まで行くことは許可されていないので、基地内で過ごすこととなった。
今まで日中は時間がなかったので、基地の物資担当係と話すことができなかった。ようやく新兵達は、ここぞとばかりに必要な品々を申請した。最も多かった申請品は、干し草である。誰もが、寝床の固さに辟易していたのである。幸運な事に、干し草は大量に在庫があるのでその日のうちに新兵達に配られた。干し草代や申請した品々の代金は、給与から天引きされる。これで今夜から、新兵達は健やかに眠れることだろう。
その後、クロディウスは一人で会計担当の事務室に向かった。クロディウスは、入口で言った。
「失礼いたします!」
机で作業をしていた会計担当係は、物珍しそうに新兵を見上げた。
「何だね?」
「相談があって参りました。」
「ほお・・・。」
「給与から一部をローマに仕送りしたいのですが、可能でしょうか?」
「可能だが・・・普通は、軍団兵は給与の残金は軍団に預金しておくものだが?」
「実は、父があまり働けないもので実家が貧しいものですから、多少でもお金を送りたいのです。」
「なるほど。夏の間は比較的安定的な船便が出ているから、今からローマの軍団本部に書き送っておけば、給与日までには事務手続きは間に合うだろう。給与は3ヶ月毎だから、給与の支給は今から2ヶ月後。家族の手元に給与が届くのは、それ以降となる。それで良いかな?」
「はい、それで問題ありません。よろしくお願いいたします。」
「では、ここに送金金額を書いて、あとここにサインして。」
会計担当係に言われる通りに、クロディウスは書いた。
「これで、事務手続きは完了だよ。」
会計担当がそう言うと、
「ありがとうございます。」
と言って、クロディウスは事務室を出た。

午後半ば、クロディウスは、アントニウスとフリウスに会った。三人がこうして揃うのも、久しぶりである。任務中や訓練中の先輩軍団兵の邪魔にならぬよう、自分たちの兵舎脇の壁に背持たれて座った。他の多くの新兵達も、そんな感じで過ごしていた。
考えてみれば、先輩軍団兵らの日中の姿をじっくり見るのは初めてだった。先輩軍団兵も、時間のある時は戦闘訓練を欠かさなかった。新兵達より、遥かに木刀裁きや盾の扱いが上手く、2名による模擬戦闘での迫力がまったく違っていた。新兵達は、自分達で戦闘訓練の経験を得て、初めて軍団兵の凄さと言うものを理解した。
3人は各々の部屋の仲間のこと、訓練のこと、教官のこと、飯のことなどを語り合った。特に毎日の食に関する事は、新兵全員の関心事だった。3人も、それぞれのレシピについて色々と議論したが、やはりクロディウスの部屋のレシピが群を抜いているようで、どの部屋の連中もクロディウス達にレシピを聞きに来ていることが分かった。それを聞いて、負けん気の強いアントニウスは、また悔しがった。何に関してでも、負けたくないタイプなのである。そんな話をしている内に夕暮れ時が近づき、3人はそれぞれの部屋に戻った。


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