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ウルトラセブンが「音楽」を教えてくれた
青山通著/新潮文庫   (2021年3月10日記載)



最も仕事が多忙な時期に、夜な夜な眠い目をこすってこの本を読み終えた。
ウルトラセブンが放映されたのは1967年~1968年。僕は、まだ3~4歳の時だったので、本放送では見ていない。と言うか、その頃我が家にはテレビがまだ無かったのだ。今の人には信じられないだろうな。「テレビ無し」の時代。ちなみに僕は、薪で焚いたお風呂に入っていたし、洗濯機にはハンドルでクルクル回して絞り出すアナログ脱水装置がついていた(笑)。我が家に「白黒テレビ」がやってきたのは、確かアポロ11号の月面着陸よりは前だったと思う。
なので、ウルトラマンもウルトラセブンも、見たのは再放送である。小学何年生だったかは定かでない。ウルトラセブンは、当時の他の特撮ヒーローものとは何かが違っていた。その違和感は、子ども当時ではとても言葉では表現できなかったが、今ならきちんと伝えられる。
まず第一に「子供向け番組と言うジャンルを超えた(子供向けを止めた)」と言うことだろうか。ウルトラマンには宇宙人も登場するが、基本的に怪獣退治。ウルトラマンの怪獣退治は、人間に置き換えるとハンターが猛獣を倒すのに似ている。暴れる危険な猛獣を倒すヒーロー物語である(まあ猛獣側にしてみればいい迷惑であるが)。しかし、ウルトラセブンは違う。相手は宇宙人なのだ。知能も高く文明を築いているし、彼らなりの正義がある。必ずしも、人間が正義ではないのである。地球防衛軍が、やむなくとは言え非道な虐殺をすることもある。ウルトラセブンの物語には、「他文明と共存できるのか?」と言う重厚なテーマが根底に流れている。当時の泥沼化するベトナム戦争や、第二次大戦中に過酷な運命を背負わされて戦後は米軍の占領下におかれた時代に翻弄される沖縄などの問題も、脚本の背景にあったとされる。
違いを感じたもう一つは、「音楽」だ。小学生の時に影響を受けたもう一つのテレビ番組に「ルパン3世(※1stシリーズ)」があるが、あれも「子供向け」でなく「大人の視聴に耐えうる」アニメとして制作されたが、ルパン3世を貫く音楽観は「ジャズ」だった。ルパンは、ジャズなのだ。子ども心に「かっこよい」と素直に思った。対するウルトラセブンを貫く音楽観は「クラシック」だった。音楽の素養なんて無い(むしろ苦手だった)小学生だったので、ジャズもクラシックも当時は良く分からない。ただ「他の特撮ヒーローものやアニメと違う」と感じた。この本は、そのウルトラセブンの音楽について徹底的に追求していく、情熱しか感じられない一冊なのである(笑)。

さて、本の内容に入って行く前に、敢えて「あとがき」から入って行きたい。あとがきは、著者本人が2本、そして木村元氏、片山杜秀氏と言う方が書いていて、計4本もある。あとがきが、なんか長い!(笑)。皆、僕と同世代か年上の方ばかり。
しかも「あとがき」って、だいたいはその本の書評を書くもんだと思うけど、書評と言うよりは、各自がウルトラセブンへの熱い思いを書き記している感じで、それぞれのあとがきも長い!(爆)・・・みんなウルトラセブンを語りたくて、仕方ないのだ(笑)。
あとがきも、各人蘊蓄の連発で、その中でウルトラセブンの曲作りに繋がっていくエピソードが書かれている。木村元氏は、かく語りき。ガッツ星人にウルトラセブンが敗れ十字架に磔にされる回で、「夕陽に照らされた山上の磔刑図。あれほど恐ろしく、衝撃的で、しかも美しい映像を、今にいたるまでぼくは見たことがない。それからというもの、ぼくは『十字架』を見るのが異常に怖くなった。とくに、友人の家への行き帰りの途中にあった教会の庭」。これには同意できる。僕も教会に通う以前の子どもの頃に脳裏に刻まれた十字架は、ウルトラセブンだった。十字架刑とは、そもそも恐ろしいものなのだ。そして木村氏は、セブンの世界観について語る。要約するとこう言う内容。円谷プロの創業者の円谷英二監督は、熱心なクリスチャンであった。セブンは、勧善懲悪的な物語では無くて、宇宙人同士の共存がテーマになっている。時にはエゴ剥き出しの地球人を前に葛藤するセブン=モロボシ・ダンの姿も描かれる。しかし、傷つくわが身を顧みず、この人類のために戦うセブンの姿が描かれる。実際、最終回でセブン=ダンは、人類のためにボロボロの瀕死状態で戦う。木村氏はこう言う。「セブンでは、もしかしたらキリスト教をベースにしたある種の倫理観が描かれていて、その世界観を具現化するために、どうしても冬木氏の音楽が必要だったのではないか」と。
セブンの音楽監督の冬木氏は、クラシック音楽にも精通している作曲家であり、キリスト教の楽曲や聖歌、讃美歌なども数多く手がけている。セブンと冬木氏の出会いは、必然だったのかもしれない。ではあとがきを離れて、ようやく本編に入ろう(笑)。

この本の前半は、当時7歳の少年だった青山氏がウルトラセブンに衝撃を受け、感動し、最終回に使われた曲を追い求めていく物語。当時はインターネットでググることもできない。情報網は限られ、音楽を聴ける環境はレコードとラジオ放送のみ。のちにカセットテープが、それに加わる。限られた情報網で、青山少年は最終回の曲が"シューマン"の"ピアノ協奏曲"であることを突き止める。そして、なけなしのお小遣いを握り締め、高価なシューマンのLPレコードを買う。しかし、彼は愕然とする。曲は同じなのに、セブンの最終回で使用された演奏と全く違うのだ。そして更に険しい、最終回の演奏を探す旅が始まる。
世にある全てのシューマンのピアノ協奏曲のレコードを買い揃える"大人買い"は、子どもの財力では不可能。しかし、その探訪の努力が報われる日が来る。同級生の7歳上の大学生のお兄さんがクラシック通で、数多くのレコードコレクターで、「シューマンのピアノ演奏はこれだよ」と持ってきてくれたのが、カラヤン・指揮、リパッティ・ピアノ、フィルハーモニア管弦楽団の「シューマンのピアノ協奏曲」だった。それが、カセットテープに録音して何度も何度も聴いた、あのセブンの最終回の演奏だったのだ。後日談として、45年の時を経て青山氏が冬木氏に会う事ができ、その御自宅で冬木氏の所有するカラヤン指揮・リパッティ版のシューマンのピアノ協奏曲のレコードを聞いた時、青山氏は始終号泣しっ放しだったそうだ(※木村氏によるあとがきから)。

この本の中盤は、ウルトラセブンに使われた曲の解説。ウルトラセブンの音楽監督を務めた冬木透氏(本名:蒔田尚昊)は、自ら作曲した曲の他にクラシック音楽も多用している。自ら作曲した曲には、スタジオで3回に分けて200曲弱を収録。M1、M5A、M9B1と言うように、Mと数字を付けて管理。なんとラストの番号は、M78である。
セブンのストーリーの中でも、音楽と物語が密接に関係した作品や、音楽が印象的な作品を取り上げる。第43話の「第四惑星の悪夢」、第6話の「ダークゾーン」、第8話の「狙われた街」、第29話の「ひとりぼっちの地球人」、第31話の「悪魔の住む花」、第25話「零下140度の対決」、第42「ノンマルトの使者」、第39話と40話の「セブン暗殺計画」など名作話回の音楽解説。

後半は、クラシック音楽入門編のような記事。最終回に使われたシューマンのピアノ協奏曲の様々な指揮者や演奏者達の演奏の比較を行う。同じ曲でも、演奏によって表情が異なると言うこと。「テンポが速い←→テンポが遅い」「テンポが厳格←→テンポが自由」~(中略)~「感情豊か←→ストイック」「巨匠的←→若々しい」と言うように、相対軸がある。同じ曲を複数の演奏で聴くと、更に面白みが味わえる。

読んでみて思ったのだが、今までウルトラセブンの出演者達や、脚本家(金城さんら)、演出家(実相寺さんや満田さんら)、デザイナー(成田さん)らに関連する本や記事を読むことは多々あったけれどが、音楽と冬木さんに関しては今回初めて読んだ。次回セブンのDVD全集を視聴する時は、色々な知識をインプットしてから見たいと常々思っているのだが、音楽について興味深いことを色々知ったので次回DVDをガッツリ見る際の楽しみがまた増えました。特に最終回を見る時の思い入れが、より強まりました。
あっ、やはり僕もセブンのこととなると、話が長くなりますね~(笑)。




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