JOLLYBOYの図書室の本棚
入口 >トップメニュー >図書室の本棚目次 >現ページ

ゲバラ日記/チェ・ゲバラ著/
平岡みどり訳/中公文庫   (2021年 1月21日記載)



ゲバラ本の3冊目をようやく読み終える。
ゲバラの虐げられている者への思いには共感できるが、政治思想・哲学には共鳴し難いと言う事については前回書いたので、今回は割愛。
この本は、チェ・ゲバラのゲリラ活動の日記である。ボリビアの革命のために、1966年、たった6名でゲリラ活動を開始。その後、南米各地から集まった戦士志願者で30名そこそこのゲリラ部隊に。たったこれだけの人数で、ボリビア正規軍に対抗しようとするのである。しかしキューバ革命では、カストロらと共に僅か82名のゲリラ部隊で反政府行動を開始し、10数名まで減ってしまったにも関わらず、市民の支持などを得てキューバ革命を成功させた実績があるので、スタート時の小人数はまあそれで良いみたい。
ところがである・・・この集まった戦士たちが、兵士としての厳しい訓練も受けておらず、実戦経験も無いほぼド素人の集団。チェの仲間にはキューバ革命やコンゴ内戦を戦った実戦経験のある強者もいたが、ゲリラ部隊の参加者達の多くは実にお粗末。日々、くだらない喧嘩や愚痴や言い争い、空腹に耐えかねて隊の食料を盗み食い。その度ごとにチェが叱責。見張りの役につかせれば、居眠り・・・ローマ帝国軍だったら即刻処刑です。任務につかせれば、計画通りに実行できない、予定時間には戻らない。自分でつけた足跡を消さない。盗んだトラックは横転させる。重要な品々を保管しておく穴倉倉庫を作らせれば、雨で水浸しで使い物にならない。そして、次々と襲う体調不良や病気やケガ。戦闘よりも、そう言う滅茶苦茶な日常で疲れ切っていくゲリラ部隊の戦士たち。チェの日々は、まるで「言う事をきかない子どもを叱る大人」みたい。
こう言った一年に渡るゲリラ活動記を300ページに渡って読まされている訳だが、1年に渡って何度も繰り返される同じ様な失敗を、何度も何度も読まされている感じ。チェのイライラ感が伝わってくるが、読んでいる方もイライラする(笑)。ノンフィクションのドキュメンタリーなので、フィクション小説のような意外な展開やスカッとする展開など、もちろん微塵もありません(笑)。そもそも論なのだが、訓練も受けておらず、技術も能力もなく、何度も同じ過ちを繰り返す部下達に、延々と任せ続けているチェの指導力や脳内はどうなっているの?
まあ、補充もできず限られた人材でやりくりしなきゃいけない、チェの心労は理解できなくはないけど(汗)。頼れるベテラン戦士の数は限られているし。チェは「せめて、あと100人の兵士(部下)がいたら・・・」と愚痴ります。
ゲリラ活動は、ボリビアの600m~2,300mの山岳地帯や高地で行われていたのだけど、50年以上前のゲリラ活動なので、当然GPSなんてないしドーロンもない。しかもボリビアの山奥なんて地図すらないので、自分達で現地で地図を作成しながらのゲリラ活動と移動。もう文字通り、暗中模索と試行錯誤の行軍の日々。1年にも渡る活動なので、携行食とか缶詰なんてのは僅かで、常に食糧不足で、食料は現地調達。農民から食料を現金で買うし、山の中で様々な鳥や動物も狩るし、色んな物を食べるので当然お腹もくだす。食料としての牛や馬やロバを引き連れての行軍。現代の近代戦からすると、もはや牧歌的とすら言える。
医者であるチェも度々体調をくずし、持病の喘息が悪化していく中、医療品も尽きていく。当初は士気も高く小さな戦果をあげていたゲリラ戦も、圧倒的な数の政府軍の包囲網で次第に不利になっていく。飢餓、病気、情報の不足、兵士の不足、士気の低下。脱走する兵士も現れるし、心身共に追い詰められて正気を失っていく兵士も出て来る始末。
しかも、関わった農民たちはゲバラ達の味方と言う訳でなく、戦士としてゲリラ活動に加わるどころか、情報をどんどん敵の政府に密告する。30数名いたゲリラ部隊は、日々不利になっていく戦闘で数を減らしていき、24名、22名、ついには10数名に減る。1,800名の政府軍の包囲網に対し、僅か10数名となった風前の灯火のゲリラ部隊。
そして結末の書かれぬまま、日記は1967年10月7日、突然終わる。そう、チェは捕まってしまったのである。そして、その後処刑された。フィクションではないので仕方ないけど、予想外の結末も感動的なクライマックスも特にない、苦労話ばかりの他人の一年間の日記を読むのに、少々疲れました(汗)。
でも、チェ・ゲバラの「人となり」を、ほんのちょっとぐらいは理解できたのではないかと思います。



新訳 ゲバラ日記 (中公文庫)

中古価格
¥1から
(2021/3/17 15:36時点)