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ゲバラ世界を語る/チェ・ゲバラ
甲斐美都里訳/中公文庫 (2020年 9月30日記載)
これが、僕にとって2冊目のチェ・ゲバラ本。
チェとは名前ではなく、「よぉ」とか「やぁ」みたいな親しみを込めた表現。本名は、エルネスト・ラファエル・ゲバラ・デ・ラ・セルナ・・・長し。
ゲバラの事は誰もが知っている。何度も映画の題材になり、サッカーの応援に行けばイコン化された彼の顔の横断幕が掲げられている。
若き革命家、自由の戦士、弱者や貧しい者の味方・・・そんなイメージだろうか。これだけ知られているのに、実際に彼が何を語り、何をした人間なのかを知る人は少ない。
チェの若き日を描いた映画「モーターサイクルダイアリー」で、彼がなぜ革命家への道を進む事になるのか、その原点が描かれている。医学生の彼は友人アルベルトと共に、バイク、ヒッチハイク、そして筏で南米を巡る。様々な人々と出会いながら、次第に自らの心の変化を感じるエルネスト。大地主に農園から追い出される弱い農民、アメリカの大会社の炭坑で過酷な労働を強いられ搾取される貧しき労働者、病の偏見から一般の社会環境から隔離されて苦しむ人々・・・エルネストもアルベルトも、現実を知ってしまった。彼の人生は、これまでと同じように進む事はできなくなる。
話しが反れたので、この本に戻す。この本は、ゲバラが各国で語った講演(スピーチ)集である。この本を読むと、ゲバラの考え方が色々分かる。
僕は、チェに好感を持っているが・・・その原点、弱い者や貧しい者と共に歩み戦う姿勢にである・・・思想の全てに賛同しているわけではない。言ってみれば、その原点である動機には共感するが、方法論には共感できない。
一冊の本の内容を簡潔には書けないが、無理矢理要約するとこうなる。彼は教育というものを重視するが、それは全員が一致して社会主義思想を目指すものでなければならない、そう言う教育。例えば、芸術。社会主義を立て上げる芸術でなく、個人的な芸術は帝国主義の金持ちに奉仕する退廃芸術である。社会主義以外の思想、宗教も、同様な位置づけである。
そして、革命戦士たる兵士は、勇猛果敢に迷うことなく使命を全うせねばならない。イコール冷酷な殺人マシーンたれ、ということである。
これらの考え方の恐ろしさをお分かりだろうか?
旧ソビエトの大量粛清や秘密警察の跳梁跋扈で秘密裏に消える人々、カンボジアのポルポト政権下での大量虐殺、北朝鮮の人民の悲惨、最近では中国の民主活動家や宗教家への弾圧など、全体主義思想教育の徹底と疑う事を知らない冷酷な殺人マシーンの養成の行く末には、非道で残虐な結果しか待っていない。ゲバラの思想の根底には、実はそれらと共通するものがあるのだ。動機が正しいからと言って、手段や結果が正しいとは限らない。
ただしチェが生きた時代は、アメリカがCIAの裏秘密工作で世界中の国々を・・・南米の国々も・・・支配下におこうと武力で画策していた時代だったので(まあ今でもそうだが)、その支配から脱するためには、チェも戦士として武力で戦うしか当時は手段が無かった。チェは、ボリビアのアンデス山脈のイゲラ村で、アメリカのCIAの工作によりボリビアの兵士に処刑された。
このように書くと、彼は狭隘な戦争好きな冷酷な人間に受け止められてしまうかもしれないが、実際の彼はユーモアあふれる人物で、冷静な平和主義者であり、キューバの工業立国化を目指していた。キューバに対し、アメリカが軍事力で度々ちょっかいを出すも、上手く戦争を回避していく。
彼は、帝国主義時な資本主義とは異なる、社会主義と資本主義の良い所の融合をゴールに描いていた気がする。現代のグローバル社会は、数%のスーパーリッチと9割以上の持たざる者が分離した時代。一旦仕事で挫折したり健康を損なったりすると、セーフティネットもなく奈落へ落ちていくしかない時代。そう言う社会ではなく、働いた者は搾取されることなくきちんと報酬を受け取り、上手くいかなかった者も社会で受け止めてくれてやり直せる世界。現代なら、チェはそんな理想を実現しようと画策したのではないだろうか、と思ったりする。
次は、ゲバラ本の3冊目「ゲバラ日記」を読むので、もっと深く彼の思想に迫ることができるかもしれない。
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