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流行性感冒/内務省衛生局編
平凡社東洋文庫 (2020年 4月26日記載)
1918年1月から1920年12月まで世界中で5億人が感染し、死者数は数千万人(※2千万人から5千万人、ないし1億人までの諸説有り)の達した「スペインかぜ」。これに日本がどう対処したかが、内務省衛生局によってまとめらた。それが、この本。
「スペインかぜ」と言っているが、スペインが発生源ではないし(他国に比べてスペインの情報統制が甘かっただけ)、そもそも風邪ではなくインフルエンザによるパンデミックである。
文語体なので、読みにくい(汗)。この本では、「スペインかぜ」を「スパニッシュ・インフルエンザ」としている。マドリッドで流行する前に、仏戦線や瑞西(※フランスとスイスのこと/当時は第一世界大戦中)で流行していたと指摘する。ただし、発生源は不明とする。中立国であろうが対戦国であろうが、等しく爆発的に流行したと書かれている。英国領印度(インド)では20%を超える死亡率で500万人が死亡。 発生年の1918年(大正8年)には二度の流行をして、第一回目の春季の流行は合併症は少なかったが、2回目の夏後半から秋の流行では重症が多く肺炎の合併症が多かった。しかも「電撃性なるあり」…つまり急激に重症化すると言う事。その猛烈さは肺「ペスト」を思わせるくらい凶悪とのこと。
インフルエンザの病原体は、「陶製ろ過器」を通過するほど小さく(当時は)不可視性と思われた。病原の伝播方法も不明。予防、療法などの実験も不十分。そして、このインフルエンザ大流行は、社会的、経済的な大打撃を世界各国に与えた。各国とも研究に血眼になったが、徹底的解決は得られない。当時は戦時と言う事もあり、予防はより困難だった。住民の移動や軍隊の移動が、感染の拡大機会を増やしていると想像できる・・・と言った事を、世界の感染状況の資料を参照しながらこの本は述べていく。
では、各国の予防措置はどうか?
仏蘭西(フランス)では、患者の隔離、入院、消毒、他の患者との厳重な隔離、栄養、保温などの必要を示す。回復期も軍隊の出入りを中止。また伝染は、密集生活において猛烈な事も了解していたので、密集を避け、換気をよくし、患者との接触を避け、鼻や口を消毒し、電車を消毒し、患者の長途の運搬を禁じ、病院は訪問を禁じ、患者を隔離し、マスクを励行する…等とと言うものだった。現代とあまり変わらない。
その他、瑞西(スイス)、英吉利(イギリス)、伊太利(イタリア)、北米合衆国(USA)、独逸(ドイツ)、その他諸国の予防策を列挙。
そして、日本はどうかと言うと、第一回の流行から第三回の流行までに2千3百万人が発病し、38万人以上が亡くなっている。日本の予防策も、予防心得の印刷物を配り、マスクの使用を奨励し、劇場や寄席などの入場を制限し、電車や乗合自動車(バス)の適切な使用(対処)、衆合(集合)を避ける、異常ある時は速やかに受診、患者は隔離&外出を遠慮せしむこと、等々である。100年前も、今と大きくは変わらないのである。
この本の中盤からは、各県の細かな対応状況を記録している。後半は、病理病原、治療等々について述べ、各国の研究成果を列挙する。
結局のところ、「インフルエンザ」の病原問題(※現在ではインフルエンザウイルスと分かっている)は、未解決のまま閉じられる。
(※自分注釈:ウイルスが電子顕微鏡で可視化されるのは、もっと先の1935年以降である)。
世界で猛威を振るったスペインかぜの流行からちょうど100年、コロナウイルスによる新型肺炎が世界で猛威を振るっている。スペインかぜは、1918年1月から流行が始まり、ほぼ収まったのが1920年12月。まるまる3年間かかっている。100年経っても、人間が対応できることにあまり変化はない。長期間に及ぶ辛抱強い忍耐が必要なようである。
ところで、誰だか忘れたが、ネットで「ペスト流行1720年」、「コレラ流行1820年」、「スペインかぜ1920年」、そして今回の「コロナの新型肺炎2020年」で、パンデミック100年周期と拡散シェアしていけれど、どこからもってきたデータなんだろ?どう調べてもそう言う資料が見つからない。
コレラは確かに1818年から1823年にかけて大流行したが、コレラ感染はそもそも昔からあったようで、1884年にコッホによってコレラ菌が発見されるまで、その後何度も大流行を繰り返している。そしてペストも、最大にが流行ったのは14世紀だし、その後も度々ペストの流行が頻発している。どこから1720年データを持ってきた?きっと、百年周期にこじつけた主張をしたかったんだね。そう言うのが、デマの糸口になるんだよね~。
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