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空想科学自然入門/アイザック・アシモフ著
小尾信彌・山高昭訳/早川文庫NF   (2020年 4月再読&26日記載)



久しぶりにこの本が読みたくなって、本棚から引っ張り出した。
読んだのは中学生の時なので、かれこれ40年ぶりの再読である。著者は、アシモフ博士(生化学者/ボストン大学教授/1992年死去)である。ローマ帝国衰亡史のSF版である「ファンデーション」シリーズや。ロボット3原則で有名な「われはロボット」に続くシリーズを書いたSF作家でもある。

当時からSF小説が大好きだったので、アシモフ博士の科学エッセイ本も読んでみた。SF小説ではないのに、とても面白い!文系人間の僕が、その後、科学雑誌のニュートンを創刊号から数年に渡って購読したり、アインシュタインの相対性理論を考えたり、量子論を読みシュレディンガーの猫の思索にふけったり、ホーキングの宇宙論を読んだりするきっかけになったのが、この本である。
この本には、エネルギーは高い所から低い所へ流れるエントロピーの法則をひっくり返すマクスウェルの魔物などの物理学のことや、生物学、化学、天文学などの事が本当に面白おかしく書かれていて、当時はまってしまった。
なぜ、この本を再読したくなったかと言うと、もう一度「ウイルス」について読みたくなったからである。
地球上の現存する動物(生命)で最も大きいのは、シロナガスクジラでしょう。では最も小さい生命は?細胞は小さいよね。細胞といっても大きさは、ピンからキリまである。アメーバは、420万立方ミクロン。人間の幹細胞はずっと小さく、1,750立方ミクロン。人間の赤血球は更に小さく、90立方ミクロン。最大のバクテリアが、7立方ミクロン。最小のバクテリアが、0.02立方ミクロン。相当に幅が広い。この0.02立方ミクロンしかないバクテリアの中に、どうやっての複雑な生命を押し込むのか?
1立方ミクロンの原形質は、400億個の「分子」を含んでいる。そう考えると、アメーバ1個は人間の脳細胞1個よりも、1,700万倍も複雑だと言えなくもない。逆に最小のバクテリアは、僅か8億個の分子で構成されていることになる、アメーバの0.00000047%の分子量しかない。
そして更に小さいウイルスを見ていく。ウイルス、これもかなりの幅がある。発疹チフスリケッチャの「原子数」は54億個であるが、口蹄病ウイルスの原子数は僅か7万個である。生命ギリギリの本質は、たった7万個の原子の中に詰め込まれているように見える。話を思い切り省くが、1880年、パストュールは狂犬病の研究をしていた。彼は、全ての伝染病は微生物によって起こされると言う説を主張した。しかし、狂犬病の微生物がどうしても見つからない。そこで、パストュールは「狂犬病の病原菌は存在するが、顕微鏡では見えないのだ」と主張した。そして、彼は正しかった。
小さいバクテリアでも通り抜けられない「陶製ろ過器」を、通り抜ける病原体が存在するのだ。その後、1931年にウイルスまでも捕らえる細かいろ過器が作られ、こうしてウイルスは一番小さい細胞と比べても遥かに小さいことが証明された。
さて、では、ウイルスは生命と言えるのだろうか?ウイルス粒子は、細胞を感染させ、細胞の物質を摂取し、吸収し、同化し、エネルギーを利用し、成長し、増殖する。しかし、ウイルス自体は細胞からできていない。例外なしに、分析された全てのウイルスは、核蛋白であることが証明された。あるものはDNAを、あるものはRNAを、あるものは両方を含んでいた。ウイルスが細胞を感染させる時、細胞の中に入るのは核酸部分だけである。核酸こそがウイルスの中枢部である。ウイルスは複製可能な核酸分子を持っているが、細胞の中に入らねば全く機能しない。ウイルスは、細胞の化学的なメカニズムを利用して酵素作用を支配し、タンパクを合成する。しかし、細胞の外では、ウイルスは生命の特徴であるような機能を何一つ行わない。細胞は生命の単位であると考えられるが、果たしてウイルスは生命と呼べるのだろうか?
ここからは、僕の論だが、どれだけ優れたプログラムも、それを機能させるハードウエアが無くては機能せず意味を持たない。ウイルスもDNA情報を持っていても、それを機能させる細胞が無くては意味を持たない。生命活動は自ら行っていない、このウイルスを生命と呼べるのか?もしウイルスを生命と定義できるのであれば、生命活動を行わないのに生体の機能を支配する核酸を持っているからなのか?
では、核酸が生命と言えるのか?核酸は酵素が無ければ活動できないが、酵素は道具に過ぎないし、もちろん誰も酵素を生命とは呼ばない。木こりは木を切るのに斧を必要とするが、使っている斧は道具に過ぎないのと同じである。斧が自分の物であれ、他人の物であれ、木こりは木を切り倒すことができる。だから、使っている酵素が他人の物であろうと何だろうと、ウイルスは生命であると考えられなくもない。
僕は、中学生の時に、このウイルスの話に魅了されてしまった一人である(笑)。書かれたのは40年以上前なので、内容の旧さは隠しきれないが、アシモフ博士は面白くて素敵な人だったと思う。



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