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第四十章 作戦の開始

 アメリカ合衆国陸軍の"対タッツェルベルム特殊部隊"。タッツェルベルムの探索と殲滅を目的に組織された特殊部隊である。
 東南アジアのタッツェルベルム達を狩るために、8名一チーム編成の小隊が、5チーム組織された。合衆国内に潜伏していると考えられる"ジョン"用には、6名一チーム編成の小隊が、3チーム組織された。東南アジアに送られる部隊はAチーム、アメリカ国内作戦部隊はBチームと呼ばれた。合計五十八名の特殊部隊・隊員達。この隊員の中には、マレーシアでのタッツェルベルム狩りに加わった、ロッド軍曹以下の隊員達も含まれていた。キングスレー大尉や、ロイ曹長、ローランド伍長は、必要な時の "アドバイザー"と言う肩書きは付いていたものの、実質的にはこの部隊と一連の作戦からは外されていた。
 彼等五十八名には、一ヶ月間近くに渡ってタッツェルベルムに関する知識が叩き込まれた。タッツェルベルム達の特殊かつ高度な能力、彼らの組織的かつ頭脳的な攻撃方法、等々。過去の悲惨な兵士達の犠牲についても教え込まれた。彼らが、この作戦を"サファリの猛獣狩り程度の任務"と舐めてかからないためだ。
 軍の施設で、防御法と攻撃法について、徹底的なシュミシーションと訓練が行われた。これらの教育と訓練を全て終え、隊員達は現地へと向った。時は、すでに二〇二八年五月を迎えていた。

 Aチームの五チーム四十名は、五月に入ってから、旅行客の格好でチームごとにカリマンタン島のマレーシアやインドネシアにそれぞれ入国した。兵士達は、それぞれの国で現地諜報員から必要な装備や武器を受け取った。

 一方、Bチームの3チーム十八名は、民間人の格好をしてペンシルバニア州のヨーク市へ向い、チームごとに別々にジョンの足取りを追った。彼らのそれぞれのショルダーバックには、ジョンの捜査と攻撃に必要な装備と武器が、コンパクトに納められていた。

 Aチームがカリマンタン島に潜入した当初は、まったくタッツェルベルム達の足取りは不明だった。タッツェルベルム達は、幼体と成体の中間であると予想されていた。そして、彼等は密林で十分に食料を確保しているらしく、密林周辺の村落には一切姿を現さない。とても用心深く行動しているらしく、僅かな体毛が発見された以外は、目撃情報も皆無だった。おそらく姿がまだ体毛に覆われていて、例え一瞬見かけたとしても、一般の獣と区別ができなかったせいかもしれない。

 Bチームの捜索は、更に難航を極めていた。ジョンが、ヨーク市から去った事はもはや明らかだった。しかし、彼がどこへ行ったのか、手がかりはほとんど無かった。近隣の図書館から僅かな図書が盗まれたのが最後の手ががりで、それすらもかなり前の出来事であり、それ以降の足取りは一切つかめていなかった。

 それから更に半年が経過したが、AチームもBチームもこれと言った成果を上げられないでいた。一年が経過した頃、Aチームの中の一小隊が、ようやく一匹のタッツェルベルムを仕留めた。
 本国へ移送されたタッツェルベルムの死体を解剖したところ、ショッキングな事実が判明した。そのタッツェルベルムにも、明らかに妊娠・出産した痕跡があった。
 この報告は、陸軍の上層部を更に陰鬱にさせた。
 分析報告書は、「タッツェルベルムは、遠く離れたアジアの地で、既に数十匹に増えているのは確実である。少なく見積もっても二十匹、多ければ四十匹」と、結論付けていた。付け加えて「二年以内にその数は数百匹に増えると予測される」事を指摘し、「周囲に食料が無くなれば、増殖したタッツェルベルム達が、自らの危険を冒してでも、周辺の村落や都市を襲うのも時間の問題」であると結論づけていた。そうなったら、タッツェルベルム専門特殊部隊とは言え、僅か四十名の兵士達ではまったく対処できない事は明らかだった。

 その報告がヘンリー・リチャードソン少将に届けられた夜、彼は自分のコルトで自らの頭を打ち抜いて命を絶った。