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第三十三章 発 見
カレン・ホワイトが、メグからジョンの秘密を聞き出した午後、ホテルへ戻ると、マイケル・ビンセント博士から緊急の連絡のメモが入っていた。"至急、警察まで来るよう"との指示だった。
彼女は、休む間もなく再びクライスラー・セダンに乗り込み、アクセルを踏んだ。今日は、幸運にも色んな事が動き出した。何かが変わるかもしれない。そんな期待が、彼女の心に沸き起こった。
ホワイトが警察署に付くと、ビンセントとマテュー巡査長とパトリック巡査の三名がすでに揃っていた。三名は、ビデオ等の機材が置いてある一室で彼女を待っていた。ビンセントが言った。
「ああ、メモを見てくれたんだね。」
「ええ」とホワイトは応えたが、警官達がいるのでメグとの一件は黙っていた。
「で、何があったの?」
「まずは、これを見てください。」
マテュー巡査長がそう言うと、パトリックはビデオの再生ボタンを押した。この二十一世紀に、アナログのビデオである。正にアナクロニズム。
コンピューターのディスプレー画面には、どこかの雑貨や食品の小売店の店内が映されていた。ホワイトが言った。
「防犯カメラのようね。」
マテュー巡査長が応えた。
「ええ、防犯カメラです。小売店の店主が、1週間前に付けたばかりの中古の旧式のビデオの防犯カメラでね。どうも、商品が万引きされているようだとの事で、付けたんですけどね…。昼間の万引きの映像は無くて、代わりに昨夜これが映っていたのですよ。」
彼がそう言うと、薄明かりの中に、一人の人物が右手から店内に入ってきた。映像には入り口も映っていたが、入り口は開いていなかった。
「入り口は閉まったまま。彼は、裏口から鍵をこじ開けて侵入したと思われる。」
その人物は、ボロボロのズボンとジャケットを身にまとい、フードを頭に被っていた。彼は、棚から大き目の缶詰二つを取ってポケットに入れ、その後、雑誌のコーナーに行って一冊の雑誌を取ってカメラの視界から消えた。その間、約十秒。
ホワイトが言った。
「随分と手早い仕事ね。それに苦労して進入した割には、缶詰と本しか盗んでいないわね。」
マテューが言った。
「おそらく、初めから盗むものを決めていたのでしょう。お金は盗っていない。しかもご丁寧に、奴は裏口の鍵をちゃんと閉めて出ている。」
ホワイトは、マテュー巡査長に訝しげな顔をして質問した。
「それで、この夜間のささやかな泥棒と、私達の探している動物に何の関連が?」
すると、今度はビンセントが言った。
「ホワイト博士、もう一度ビデオをじっくりと見てくれ。」
彼がそう言うと、パトリック巡査はビデオを巻き戻し、再び再生した。そして、その泥棒の顔が最も大写しになるところで、一時停止ボタンを押した。ビンセントが言った。
「この顔を良く見てくれ。」
ホワイトは、唖然とした。
「ビンセント博士、この顔は!」
マテュー巡査長は、二人をじっと見据えて言った。
「お二方は、この犯人をご存知のようですね。ボロボロの服を着て、フードを被り、顔にはハロウィーンの怪物のようなお面を被っている。さて、今度はこちらがお聞きしたい。一体この小心者の泥棒と、あなた方が探している動物との間に何の関係が?」
ホワイトは、どう応えたものか迷っていた。
「実は、この件に関して私には話す権限がありません。ビンセント博士も同様です。」
子供のメグには機密の一部を話してしまったが、ホワイトは大人の方が何倍も信用できない気がしていた。マテュー巡査長が詰め寄った。
「しかし、これは犯罪でしてね…。例え"こそ泥"とは言え、私は自分の義務をまっとうする気でいるんですがね。」
マテューは、ようやくこの胡散臭い博士連中の上に立てた気がした。最初から頭ごなしの彼らの態度に、辟易していたのである。
ホワイトは、しばし考えて言った。
「分かりました。捜索には、地元の警察の協力も必要ですし。この件の責任者に連絡を取って、話しをして良いかどうか確認を取ります。」
一時間後、マテュー巡査長は、大いに後悔する事になった。警察署長とマテュー巡査長に事実が知らされ、陸軍の最高機密に関する守秘義務の誓約書にサインさせられる破目になった。"余計な事をした"と言う風に署長には睨まれ、おまけに知りたくも無い国家の重圧のかかった秘密情報を知る事となり、これからより一層、あの博士達に協力しなければならない事にもなってしまった。
一方、末端のパトリック巡査は蚊帳の外に置かれる事になった。これから彼等は、その怪物とやらを見つけて、狩り出さなければならないのである。どこをどうやって?しかも、相当凶暴な危険な奴だと言う事も分かった。それに例え捕まえたとしても、何の手柄にもならないし、そもそも誰にも口外する事すらできないのだ。マテュー巡査長は、頭を抱え込んだ。