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第十九章 設備と人員の撤収

 鉄かぶと島に、12月31日の年末の夜が訪れた。毎年、年末は賑やかな年越しパーティーが開かれる。食堂のガラス扉が開かれ、広場と地続きにされ、BBQが行われるのだ。本国は12月の真冬でも、この常夏の南洋の島ではみな半袖で過ごす。
 しかし、この年の年末の年越しパーティーは、とてもささやかなものだった。みんな連夜の仕事で疲れきっており、今年一杯で研究所閉鎖と言う無念さも手伝って、騒ごうと言う精神状態ではなく、カウント・ダウンも行われずに静かに散会した。

 1月に入ると、高価な研究設備の梱包作業が始まった。1月7日に、民間の輸送船が鉄かぶと島にやって来た。軍の輸送船を使うと、周囲の耳目をこの島に集めてしまうので、それを避けるために民間の船がチャーターされたのである。この島は、あくまでフィリピンの民間財団の海洋研究センターの一施設と言うことになっていた。
 島にあったベンツのウニモグと、輸送船から下ろされた日本製の4WDのトラックの二台が、研究所前の広場と桟橋の間を何度も慎重に往復した。研究用の精密機器、実験装置等をすべて運び出すのに、五日間を費やした。研究設備が運び出されると、本国へ戻る第一陣のスタッフもその船に乗り込み、12日の早朝に輸送船は去って行った。
 二日後に、人員輸送用の輸送船がやってきて、本国へ帰る第二陣のスタッフが乗り込み、ベンツ・ウニモグも運び去られた。15日朝の時点で島に残っていたのは、キングスレー少尉と部下8名の計9名と、所長のスチュアートと各研究チームのチーフ5名の計6名の、合計15名だけだった。
 桟橋には2艘の小型ボートが繋留してあって、このボートで15名は島を出る予定だった。料理人もすべて去ったので、今日から明日に掛けての一晩は、軍の糧食で過ごさねばならない。研究所の最後としては、とても侘びしい一日になりそうである。