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第十五章 重大な発表

 ブラウンは12月2日の夕刻には、ミンダナオ島にあるユナイテッド・エアサービスのダバオ支社に付き、彼の蟹を冷凍便の航空便で本国へ送る手続きをした。至急便扱いかつ条件付きの、割増し特別料金で手続きした。彼らはその仕事を速やかかつ確実に実行し、ペンシルバニア時間の6日の午後には彼の妻に蟹は届けられた。
 彼は、ダバオ支社でその報告を受け取り、安堵してサンボアンガまで戻り、翌日にはミンダナオ島を出て再び鉄かぶと島へ戻った。これで、一週間の彼の休暇は終わった。

 それから二週間が経過した。クリスマスを三日後に控えた12月22日の夕方、所長のスチュアートは、全職員、研究者から事務員、料理人に至るまで、全員を食堂に集めた。所長は、食堂の前に設けられた壇上に上がった。
「さて、諸君に集まってもらったのは、他でもない。今日は、重要な発表をしなければならない。」
集まった一同の中で、今日の発表の内容を知っているのは、所長の他には、ブラウン博士と、ジョシュア・キングスレー少尉とビル・ノートン伍長の三名だけであった。所長は言った。
「本日、陸軍から正式な通達があった。非常に残念な発表なのだが、我々のこの研究施設は今年一杯で閉鎖する。」
食堂内が、ざわめき出した。ざわめきが収まるのを待って、所長は続けた。
「諸君も知っての通り、ここでの研究は軍事機密と言うだけでなく、議会の承認を得ていない極秘の研究である。今更隠し立てする気もないのではっきり言うが、議会が極度の財政緊縮に際して、必要のない研究予算をカットする為、専門家によって構成される監査委員会を設けることになった。彼ら監査委員が、各研究を詳細に調査する。我々は、本国の我々が当然そこにいなければならない研究所において、細菌兵器や化学兵器による被害のための遺伝子治療の研究をしていなければならない。よって、この研究所は完全に閉鎖され、我々は速やかに全員本国に戻られねばならないのだ。これは陸軍の最終決定で、議論の余地は全く無い。」
ブラウンは、その演説を腕を組んでじっと黙っていた。
「我々の明日以降の具体的な行動については、キングスレー少尉に説明してもらう。」
スチュアート所長に代わって、キングスレー少尉が壇上に上がった。
「今年一杯で、各チームには研究室をきれいに片付けていただきます。来年一月初旬には、軍がチャーターした中型の輸送艦がやってきて、この施設内の高価な研究用の機械や実験設備をすべて運び出します。残念で悲しむべきことではありますが、ここでの生体サンプルはすべてこの地で破棄します。成長した個体だけでなく、細胞や、改変遺伝子も例外ではありません。」
何人かの研究者から、溜息とも唸り声ともつかない声があがった。カレン・ホワイト博士の顔にも、暗い表情がよぎった。
「スタッフも、一月初旬には全員本国へ帰ってもらいます。ただし、所長と各チームのチーフ達には、我々と共に最後までこの島に留まっていただきます。一月の半ばには、この研究施設を爆破し、アメリカの研究施設があったことの痕跡を残さぬように完全に解体します。それらが完璧に成されたかどうか確認してから、残る我々も全員この島を引き上げ、本国に戻ります。それで、この島でのミッションは、すべて終了です。」
それだけ言うと、キングスレー少尉は壇を降りた。再び、スチュアート所長が壇上に上がり、話しを引き継いだ。
「諸君の中には、今回の軍の決定に対して不満を持つ者も少ないことと思う。素晴らしい研究成果を目前にしての撤退は、たいへん悔しいに違いないと思う。その悔しい思いは、長年この研究に関わってきた私にしても同じだ。しかし、この最終決定は誰にもどうにもできない事柄なのだ、残念ながら・・・。しかし、研究データは、極秘に後世に残せる。それにここでの研究は、間違いなく世界でも最先端のレベルを行っており、ここで培った理論や技術は、諸君が今後関わっていく研究でたいへん役に立っていくことと思う。むしろ、ここでの研究を糧にして、表の舞台で役に立たせられると言う意味では、喜ばしいことかもしれないと思う。諸君の将来が、素晴らしいものである事を祈っている。」
こう言って、スチュアートは自分の発言を締め括った。