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2.神道とは何か

 靖国問題と言っても、問題のすべてが、イコール靖国神社そのものの問題を指すと言う訳ではない。靖国問題と言うのは、突き詰めていうと日本人の根本に横たわる靖国的な物の考え方に起因していると思う。その一方で、現在は一宗教団体である"靖国神社"と言う存在が、大きく靖国問題の中心に存在していると言う事も、また事実である。その靖国神社について語る前に、日本に固有の神道と言う宗教について概観してみたい。

・神道とは何か

 神道を概観してみよう…と書いたが、ところがこの「神道とは何か」と言う問いは、専門家である神道学者ですら答えを出すのが難しいと言う。神道には、キリスト教の聖書やイスラム教のコーランのような経典が無い。神道と言う名称は、日本民族の古来からの信仰習俗に由来する信仰を総括する意味で用いられている。日本各地には、各種対象を祭る信仰が存在するが、「神道」がそれらを総括する意味で用いられると、当然の如く宗教としての一貫性を見い出す事は難しい。
 ただし一方で、主流の神道では、神国論的国体を重視する傾向が強い。伊邪那岐(いざなぎ)、伊邪那美(いざなみ)の神によって日本が始まり、それを天照大神(あまてらすおおみかみ)が受け行い、その"神の道"が現世にまで続くと考えるのである。最大公約数的な結論としては、"神道"は(あまりに曖昧な答えではあるが)「日本民族固有の独自的宗教」、「日本の民族的宗教」と言う事ができる(※インドにおけるヒンドュー教の"歴史"や"位置付け"との類似を指摘できるかもしれない)。次は、その歴史を見てみよう。

・神道の歴史

 日本の神々の継承の起点は、縄文時代に求められるが、今日の神道の原型は、弥生文化から古墳時代にかけて形成されたと言われる。そして、ありとあらゆる「森羅万象」を「神々の体現」として享受してきた。この神道の歩みに衝撃を与えたのは、6世紀の仏教の伝来である。そして、この時に初めて仏教と対置される形で、日本書紀において「神道」と言う名称が用いられる。仏教導入に関しては、国家統治制度の整備のために門戸が開かれ、日本は"神仏並行"の時代を迎えた。
 7世紀に「大宝律令」が制定されると、最高府を司る二官の一つに神祇官が置かれ、国神による国家の祭祀の法定化がされた。8世紀に入ると神仏習合の時代を迎え、仏教寺院に鎮守"社"を祀り、神社に神宮"寺"を建立していく。さらには、(神道の)神は仏(※本地)の仮の姿(※垂迹)であるとする「本地垂迹説」が、鎌倉時代に盛んになる。
 一方で、同時代に神道の主体性を維持する教学も説かれる。江戸時代には、神仏一致ではなく、神道と儒教の一致の「神儒一致」を唱える「儒家神道」が盛んとなる。
 江戸中期以降は、国学の興隆によって復古神道の流れが主流となり、現在に至る(※古神道精神復活は、賀茂真淵、本居宣長、平田篤胤等による)。
 明治維新の新政府は、旧幕藩体制の温床となっていた寺院の特権を一掃するため、神仏分離・廃仏毀釈を実施した。一方で、国家神道が形成されて、宮社制度が設けられる。この制度は、第二次世界大戦で日本が敗戦して連合国側の「神道指令」が出るまで続いていく。

・神道の神々

 歴史の次に、神道がどのような神を祀っているかを見てみよう。
 「八百万の神々」と言われるごとく、神道には多くの神々が存在している。その中でも、最も尊敬を受け、神道の神々の中心として祀られているのが「天照大神(あまてらすおおみかみ)」である。現在、天照大神は皇祖神として、日本各地に祀られている神々の総氏神として、日本国民の大御親神(おおみおやがみ)として、神宮の内宮(皇大神宮御正宮/こうたいじんぐうごしょうぐう)に鎮座している。
 「国生み神話」で、日本国土(大八洲国/おおやしまのくに)を産んだとされるのは、男女二柱の神、伊弉諾尊(いざなぎのみこと)と伊弉冉尊(いざなみのみこと)。この一対の神は、伊弉諾神宮(兵庫県淡路島)と多賀大社(滋賀県)に祀られている。
 天孫に国を譲った神が、因幡の白兎で知られる大国主命(おおくにぬしのみこと)。この神は、出雲大社に祀られている。
 八岐大蛇(やまたのおろち)を退治したのは、素盞鳴尊(すさのおのみこと)は天照大神の弟。八坂神社や氷川神社の祭神。
 八幡神社の祭神は、応神天皇(八幡大神)と言われる。八幡神社は、全国に約10万ある神社の3分の1を占める。
 このような代表的な神々以外にも、様々な神々が祀られている。それらの神々を祀る神社の御神体は、神鏡(かがみ)・磐座(いわくら/岩石のこと)などがある。これらは神そのものではなく、神々が宿る所とされ「御霊代(みたましろ)」と呼ばれる。
 邇邇藝命(ににぎのみこと)によってもたらされた三種の神器、八咫鏡(やたのかがみ)、草薙剣(くさなぎのつるぎ)、八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)は、それぞれ伊勢神宮、熱田神宮、宮中に祀られている。いずれも、衆人が目にする事の出来ない貴重な神宝とされている。

・神道の教え

 最初に述べたが、「神道とは何か」と言う問いには答えを出す事が難しい。「神道とは何か」と言う定義が困難なのであるから、「神道の教え」を述べることはもっと難しい事となる。「教典」が存在せず、したがって「教義」が存在し得ない。しかし「経典、教義」が存在しないからと言って、教え自体がまったく無いと言うことではない。神話や祭祀を通して語られてきたのであり、それらの文献には「古事記」や「日本書紀」を中心として、「風土記」、「古語拾遺」などがある。祭祀について著した文献には、「大宝令」「養老令」「延喜式」等がある。さらに「続日本紀」の宣命(※天皇の詔勅)を通して、「明浄心(あかききよきこころ)」「浄き直き心」「誠の心」と言う神道の倫理観が説き示されている。
 これらの伝統に立脚して、昭和31年、神社本庁より神道者の実践心得とも言うべき三カ条からなる「敬神生活の綱領」が発表された。
一.神の恵みと祖先の恩とに感謝し、明(あか)き清きまことを以て祭祀にいそしむこと。
一.世のため人のために奉仕し、神のみこともちとして世をつくり固め成すこと。
一.大御心(おおみこころ)をいただきてむつび和らぎ、国の降昌と世界の共存共栄とを祈ること。
の三つである。「明き清きまこと」の意味は、「私心や邪心のない公平で澄み切った神のような心境」のこと。「神のみこともち」とは、「神意に従って、それを忠実に果たす者。神意を伝達する者」と言うような意味。「祭祀」とは、単に儀礼を指すだけではなく、広義には神々と共にあり、神々と共に暮らすと言う意味にとらえられる。

・神社神道と教派神道

「神社神道」と言う呼称は比較的新しいもので、明治以降台頭してきた「神道教派・宗派神道」(神道系独立教団)に対して、内務省神道局に属した(国家の祭祀を司る)神社の神道と区別するために名づけられた名称である。第二次大戦後、神社も国家の管轄を離れ宗教法人となり、全国神社の総意に基づき、神宮(伊勢神宮)を本宗とする宗教法人神社本庁が設立され、神社神道の名称が一般的に用いられる事となった。
 神社本庁の「庁規」によると、「神社は、本殿、拝殿等の公衆礼拝の施設を備え、神社神道に従って、祭祀を行ひ、神徳をひろめ、及び氏子、崇拝者その他を教化育成することを主たる目的とす」となっている。氏子は、現在では居住する土地の神社と生活上帰属関係をある人を指す。崇敬者は、信仰によってその神社を継続的に崇敬する人の事で、氏人に準ずる。
 神社の奉職者は、神宮の場合は「神官」、それ以外の神社は「神職」と称される。神官の職制は、大宮司(だいぐうじ)、小宮司(しょうぐうじ)、禰宜(ねぎ)、権禰宜(ごんねぎ)、宮掌(くじょう)。神社の場合は、宮司、禰宜、権禰宜を神職とし、名誉宮司、怜人(雅楽の楽人)、巫女は神職と区別される。神社の祭神は、上記の神道の神々で述べたように数々ある。稲荷神社(五穀豊穣の守護神)、八幡神社(文化を導く神)、神明宮(天照大神)、天満宮(学問の神)、浅間神社(農家の守護神)、天主社(災厄懐除の神)等。祭祀には、大祭(例大祭)、中祭、小祭、諸祭に分けられる。

 一方の「教派神道」は、幕末から明治にかけての激動期に発生した神道的宗教を基盤にした新宗教を指す。教派神道は、13派を中心に5系統に分けられる。一.山岳信仰系 二.純教祖系 三.禊(みそぎ)系 四.儒教系 五.復古神道系、の五つである。
 現在「宗教年鑑」では、これらの団体を含め、神社神道系以外の神道の系統を「教派神道系」と「新宗教系」の二系統に分類している。神社神道系が16団体であるのに対し、教派神道系は80団体、新教派系は48団体に上る。ただし信者の数で比較すると、神社神道系と教派神道系では相当な差があり、神社神道系が圧倒的に多い(ただし信者数のカウントの方法そのものが長年疑問視されているが、本論の趣旨から外れるので今回は触れない)。逆に、明治期の神仏分離令によって、道統が途絶えた神道流派(主に仏教系神道流派)もいくつかある。


 さて、(はなはだ簡単ではあったが)今回の"神道"の概観を踏まえて、次回"靖国神社"の歴史、及びその本質などを探っていきたいと思う。


(2006年 2月11日記載)


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