クリスチャンのための哲学講座

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(哲学番外編:読後の簡易な感想のみ)
20.哲人皇帝の自省録/マルクス・アウレーリウス




この本を読んだのは10年以上前ですが、今ようやく感想を書きます。

マルクス・アウレーリウスが、哲人皇帝と言われ、ローマ5賢帝に数えられているのは知っていました。その後、「ローマ人の物語」16冊やローマ帝国及びローマ軍関連の本を色々読んで、ローマ帝国の歴史や政治、ローマ皇帝の事を知るにつれ、マルクス・アウレーリウスの置かれていた環境や立場を理解するようになりました。なので今この時が、この「自省録」の感想を書くのに逆にベストタイミングだった気もします(笑)。
ローマが共和制から(名目はともかく実質的に)帝政になってから、ローマ帝国は絶頂期から斜陽の道を下って行きます。帝国の領土が拡大し、防衛線が明らかに拡大し過ぎてしまった。強大な軍事力で国々を支配し続け、国境線を守るにも限界がある。皇帝はローマ軍の機嫌を損ねないようにしないと、いつ寝首をかかれるか分からない。ローマ軍のご機嫌取りのためにローマ兵のサラリーは上がる一方で、国庫は枯渇していく。そして国境の守りを堅固にしておかねばならないのに、辺境から離れたローマの元老院や民衆は一見平穏な生活を享受し、才のないローマの皇帝達は贅沢や政争や犯罪まがいの活動に明け暮れ、帝国中心部の危機感は完全に失われていた。
そんなローマの皇帝達の中でも、5賢帝と呼ばれる皇帝達はローマ帝国の危機をある程度理解していた。各地を自らの脚で視察したハドリアヌス帝は、帝国領土の拡大路線を放棄する。しかし遠く離れた地にいる危機感の欠如したローマの市民たちは、そのような皇帝を腰抜けと見下す。マルクス・アウレーリウスも、そんなローマ帝国の状況の中で皇帝職を担った人である。
軍事よりも学問を好んだアウレーリウスだが、始終蛮族との戦争で、その任期の大半を遠征先の戦線で過ごすことになり、哲人皇帝は陣中で死去した。またハドリアヌスが危惧していたように、この長期の戦争でローマの国力は疲弊した。

この本は、その戦争真っ最中の遠征行軍中に描かれた日記や、自分のためのメモ書きのようなものである。出版をする訳でもなく、誰かに読んでもらうために書いた手紙でもないので、構成も文章もある意味、滅茶苦茶である。全く整っていない。
僕も読んでいて、「この本はいったい何が言いたいのか分からない」と思ったのが正直な感想である。
そりゃ、そうですよね。例えば、誰かが毎日書き留めたブログを読んで、「この人の1年間のブログを読んで、筆者の主張を10行以内にまとめよ」と言われても困るだろう。ある日は食べたラーメンの事が書かれていて、次の日には上司の悪口が書かれている。かと思えば、別の日には好きな音楽の事が書かれている・・・それを読んで、筆者の主張をまとめよ、と言うのは無理がある。いくつかの日には、格言めいた立派なことが書かれているかもしれないが、結局のところ徒然に書き留めた日記やメモのようなものである。この「自省録」は、そう言う本。
学問好きな哲人君主なので、一つづつの文章に重みや意味があるように感じられるかもしれないが、全体として一つの主張を見出すのはきっと骨が折れる難しい仕事なのだろうな~、いや、無理なんじゃないかなぁ~・・・と思ったりします。

(2021年4月26日記)

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