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考察・田村直臣

1.序 文

 田村直臣牧師は、同時代を生きた内村鑑三や植村正久と言った牧師と比べると、今一つ知名度が低い(クリスチャンでさえ彼の名を掲げてピンとくる人は、一般的に少ないようだ)。では、何故私がその田村直臣と言う戦前の牧師の生涯に興味を持ったかと言うと、今から十数年ほど前にある本を読んだ事がきっかけである。その本と言うのは、日本プロテスタント教会史(聖恵授産所出版)と言う本で、その本の中に「日本の花嫁事件」に関するいきさつが記載されていた。日本基督教会の牧師である田村直臣が、1893年に書いた"The Japanese Bride"と言う英文の著書がその事件のそもそもの発端である。何故、彼が日本中から批判を浴び、また彼の母なる教会までもが彼を断罪したのか。彼の言動は、(宣教師たちがこぞって田村を擁護したように)そもそも教会会議で裁かれるような類のものではなかった。しかし、彼は彼自身の主張を曲げることはせず、日本基督教会を自ら去った。
 一方で、彼は交友の幅も広かった。内村鑑三や松村介石と言ったキリスト教会の著名人(田村は、内村、松村と合わせて三村会と称していた)だけでなく、岸田劉生や山田耕作と言ったその時代の有名な芸術家達との親交もあった(と言うより、若き日の彼等の世話をした)。また、日本の初期の児童文学や日曜学校創生期にも大きな足跡を示し、足尾鉱毒事件では田中正造らを擁護して共に闘った。今なら、まるで大河ドラマや映画にでもなりそうな田村直臣の波乱万丈の人生である。彼が、その時代に何を見、何を考え、どのように彼の信仰を貫き、どういう人生を送ったのか。これからのシリーズで見ていきたいと思う。そして、そこから学ぶ事は、この先行きの見えない不穏な時代を生きる我々にとって、有益だと思うのである。


(2004年 1月18日記載)


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