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 vol.60 2004年春号

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JOLLYBOYのワインハウス

30.ワイン偉人伝2:ミシェル・ロラン


 少しでもワインが好きでワイン界の事を聞きかじっている人なら、ミシェル・ロランと聞いてピンとくるかもしれません(同姓同名の有名なフランス人シェフがいるのでご注意を!)。ミシェル・ロランと言う人は、現代のワインを語る上で欠かせない人の一人です。彼は、「シャトー・ル・パン」と言うワインに関わったことで有名ですが、「ル・パン」は以前日本では2,000円程度で売られていたワインなのです。ところが、有名なワイン批評家ロバート・パーカー(同姓同名のミステリー作家がいるのでご注意を!)が絶賛したため価格は30万円にまで跳ね上がり、一躍有名なワインとなりました。
 まず、このシャトー・ル・パンに少し触れておきましょう。ボルドー地方のポムロール地区の畑の中にぽつんと立つ松の木のすぐ側に小さな農家があります。この小さな家から、「奇跡のペトリュス」を超える伝説が生まれたのです。1924年から、マダム・ロビーと言う女性がル・パンの所有者だったのですが、彼女が1979年に亡くなった後、隣りに畑を持っていたティエンポン家がオーナーとなりました。畑自体は変わっていないのですが、造り方は大きく変わりました。ここで、ミシェル・ロラン氏が登場します。ロラン氏のアドバイスにより、収穫量を抑え、焦がし加減を工夫した新樽を使うなどの新しい試みを加えたのです。最初に登場したのは1981年ですが、先ほどのロバート・パーカーの絶賛があって一躍ブームになり、格付けされた有名なワインではないのにも関わらず、百万円の値がついたこともあります。年間生産五百本と言う希少価値で、なかなか手に入らない幻のワインとなっています。
 もちろんル・パンの成功は、この畑のオーナーであり管理者である、ティエンポン家のアレクサンドル氏の卓越した技術と先見の明があったことは間違いないのだが、このル・パンにアドバイスを行ったミシェル・ロラン氏の力も小さくないでしょう。では、一体このミシェル・ロランと言う人は、どんな人なのでしょうか。


MICHEL ROLLAND像 MICHEL ROLLAND像(JOLLYBOY'Sワインノートより)

 
ミシェル・ロラン氏は、フランスを(と言うより世界を)代表する醸造家(オノロジスト)兼コンサルタントの一人です。ル・パンの他にも、彼が関わったことによって評価の高まったワインはたくさんあります。サンテミリオン地区やポムロール地区のワインが、メドックやマルゴー地区のワインを凌ぐ人気となったのは彼の功績と言っても過言ではないでしょう。一体、彼はどんな魔法を使ってワインを造っているのでしょう?
 彼がワインを作る上で大切にしていることは、三つあるそうです。「一つは、土地の風土と気候」、「二つ目が、土壌」、「三つ目が、その土地の風習」だと言います。続いて、「あまり革新的なことは良くない。伝統と言う一つの流れの中で、時代に応じて変化して、新しくなるものが良いと思う」と述べています。彼の関わったワインの奇跡を思うと、何かとんでもない革新的なことをしているイメージが強いが、実はそうではないようです。「自分がそれまでやってきたものの応用であり、その土壌にあったワインを造る最良の方法をセレクトしたに過ぎない」そうです。つまり、伝統の中に新しい発見があり、その積み重ねから新しい知識が生まれ、それを正しくしれば失敗は避けられる…と言うことなのです。つまり、サンテミリオンやポムロールのワインの成功は、なにか革新的なことをしたのではなく、その地の風土や土壌に合うように、正しいワインの造り方の方向に導いたと言えるでしょう。だから、彼は一時ブームになったイタリアのスーパートスカーナ・ワインについての傾向も、悪くないと思っているようです。「古いものをすべて壊すと言うことではなく、新しい流れも共有させることが大切」なのだと言っています。奇をてらった革新ではなく、その土地や土壌に相応しい方法を見つけたら、従来のルールに縛られずに実行する、これがロラン氏の醸造家の魂であり哲学であるようです。
 彼は、今フライング・ワインメーカー(空飛ぶ醸造家)として、文字通り世界中を駆け巡っている。彼がコンサルタントを務めるワイナリーはアメリカやアルゼンチンを始めとして、世界に百軒もあると言います。ミシェル・ロラン氏は、世界中でこれからもまだまだ活躍していくことでしょう。



シャトー・フォントニル シャトー・フォントニル

 ミシェル・ロランの関わったワインと言う事で、"シャトー・ルパン"を取り上げたかったのですが、あまりに高価なので入手が無理なので今回のご紹介は断念。その代わりに、ミシェル・ロランが自分の畑で作るワイン、"シャトー・フォントネル"をご紹介。僕は、2001年のワインを購入したのですが、味も香りも粘性のあるコクと上品なアロマ(高貴な樽香、繊細な果実香)のあるワインだそうです(…すみません、まだ飲んでいません)。
 フロンサックの北部、サイヤン村にあるシャトーで、ミシェル・ロラン氏がいくつかの畑を買い足し、1996年に一つのシャトーとして創立。南向きの斜面に、石灰岩の混ざったローム質の畑7haを所有し、85%のメルロと15%のカベルネ・フランから、ワインを造ります。栽培は丁寧に行われ、現代のスター・エノロジストのロラン氏が手がける醸造と熟成は優秀です。年間生産量は、3500ケース。実は、ロラン家は夫婦揃って優秀なエノロジストで、どちらかと言うと夫人のダニ・ロランが地元のぶどう園に、夫のミシェル・ロランが外国のワイナリーに、心血を注いでいる傾向があると言われますが、いずれにせよシャトー・フォントニルはますます期待されるワインです。ロラン夫妻の技が光る一本としては、とてもお買い得かもしれませんね~(僕は、ちゃんと熟成してから飲む予定です)。


参考データ:生産地/フランス・ボルドー地方フロンサック地区サイヤン村
      ぶどう品種・メルロー種&カベルネ・フラン種
      価格 4,000円(2001年もの)


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映画"この一本!"36 「黒いジャガー」

 さてこのコーナーでは、隠れた名作映画を毎月一本づつ紹介していきます。賞を取ったのに興行成績が惨敗だった映画とか、一般には知られていないがカルト的に人気のある映画とか、海外では大ヒットしたのに日本でこけてしまった映画とか-いま一つ日の目を見ない不運な映画を取り上げていきます。

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 SHAFT(シャフト)は、最近サミュエル・L・ジャクソン主演でリメイクされたので、御存知の方もいらっしゃると思う。今回ご紹介するのは、1971年のSHAFT(邦題:「黒いジャガー」)。黒人観客向けに黒人俳優が活躍するブラック・エクスプロイテーション・ムービー・ブームの先駆けとなった映画。スタッフや共演者にはもちろん白人もいるが、監督のゴードン・バークス、主演のリチャード・ラウンドツリー、その他主要なスタッフも黒人で固めた映画。

黒いジャガーImaged by JOLLYBOY

 さて映画の内容であるが、ニューヨーク警察も一目おく敏腕の黒人私立探偵シャフトの活躍劇。黒人街ハーレムのボスの愛娘が誘拐され、シャフトに救出の依頼が来る。黒人解放過激グループや警察などが絡み合いながら、話は二転三転していく…と言う物語。現代のハリウッド映画なら、もっと緻密な脚本や派手なアクションで物語を構成するのだろうが、30年以上前の映画としては及第点の映画。
 しかし、この映画の見所はもう一つ、物語自体と別なところにある。今では信じがたい事だが、20世紀も後半になるまで民主主義国家たるアメリカ合衆国には黒人(※アフリカ系人種)に正当な公民権が認められていなかった。1960年代に、黒人の公民権運動が広がる。アラバマ州で起こった黒人によるバス・ボイコット事件は、その先駆けとなった(※ウーピー・ゴールドバーク主演の映画"ロング・ウォーク・ホーム"で描かれている)。キング牧師の暗殺や、黒人に対する様々な酷い仕打ちにも耐えつつ、公民権運動は確実に進展し、法的な権利を勝ち取っていく。しかし、法律上の権利と、生活上の実際の差別は別問題である。白人だけのミシシッピー大学に一人の黒人学生が入学したことで起こったメレディス事件(※トム・ハンクス主演の"フォレスト・ガンプ"でも少し触れられている)など、全米で黒人に対する差別、偏見が残っていた。
 黒人と白人の高校を統合したことで起こった歴史的事実を扱った映画に、"タイタンズを忘れない"と言う映画があるが、当時いかに白人と黒人が一緒に仲良くやっていくと言うことが困難だったかが描かれている。この"黒いジャガー"と言う映画も、そう言う時代背景の中で作られた。現代だと、"マイアミ・バイス"や"リーサル・ウェポン"のような映画で白人と黒人の刑事が仲良くコンビを組むような表現は自然となっているが、少なくとも1970年代の時代の雰囲気はそう言うものではなかった。主人公の探偵シャフトは、ニューヨーク警察の白人刑事には"絶対に"協力しない。その白人刑事は決して悪人ではない(むしろシャフトの実力を認めている)のだが、どんなにピンチになってもシャフトは一切彼に助けを求めない(…ましてやコンビを組むなんて、絶対有り得ない)。映画のそこかしこにも、白人社会に対するシャフトの怒りが描かれる。黒人と言うだけで乗車を拒否するタクシー、黒人解放を目指す過激組織の昔の友人等々の描写。この映画は、正に当時の黒人の思いを投影し、黒人の鬱憤を晴らすべく作られた映画なのだ。アイザック・ヘイズの作った"黒いジャガー"のテーマ曲はヒットして、アカデミー賞の歌曲賞を獲得した。その後、シャフトシリーズは"黒いジャガー・シャフト旋風"、"黒いジャガー・アフリカ大作戦"の2本が作られ、1973年にはテレビシリーズも作られた。
 この映画は、正に時代の変わり目に作られた、時代が作った映画。ところで、原題は"シャフト"なのに邦題が"黒いジャガー"と言うタイトルになっているのは、やっぱり黒人解放運動組織の"ブラック・パンサー"から採られたのかな?




趣味の部屋(ビークル&アウトドアー&エトセトラ)

"復元されたライト・フライヤー号"

 一応、僕もパラグライダーで空を飛ぶ者の一人、フライヤーの端くれである。忙しくてここ2年ほど飛んでいないし、飛行回数50回、飛行時間は9時間と経験はそう多くはないが、空を飛ぶことも、飛行機を見るのも大好きだ。
 昨年2003年12月は、人類が初めて動力飛行をしてからちょうど百周年で、日本でライト・フライヤー号が復元された。そんなわけで今年の一月、朝日新聞社新館の浜離宮朝日ホールで展示されたライト・フライヤー号を見てきた。
 福岡市のグライダー団体・西日本航空協会が、アメリカのスミソニアン博物館から設計図を取り寄せて、一年がかりで制作したものだそうだ。エンジンも搭載され、実際に飛ぶことができるとのこと。

スミソニアン博物館から取り寄せた設計図 スミソニアン博物館から取り寄せた設計図

 ライト兄弟は、二人とも大学にはいかず、印刷業で生計を立てていたが、1892年に自転車の修理・販売を始める。兄弟が飛行機に興味を持ったのは、1896年夏に、ドイツ人のグライダー研究家、オットー・リリエンタールの事故死を知ってから。スミソニアン研究所を初め、飛行機に関する文献、情報をかき集め始める。
 模型を作って操縦の安定性を研究したり、大きな凧グライダーを作ってテストを繰り返す。そして、1901年には、人が乗れるほどのグライダーを作って実験を重ね、1902年には第三号グライダーを製作して、約700回に及ぶ有人の操縦滑空を行って、最高185mを飛んだのである。そして遂に、1903年2月12日に、水冷4気筒の3,350ccの12馬力のエンジンを完成し、夏にはプロペラを完成。そして試行錯誤の末、12月17日午前10時35分、遂に1回目の飛行で、距離36m、飛行時間12秒の、人類初の動力飛行を達成したのである。兄のウィルバー・ライト36歳、弟のオービル・ライト32歳の時であった(ちなみに操縦していたのは弟のオービルで、コインの裏表で決めたそうだ)。


復元されたライト・フライヤー号 復元されたライト・フライヤー号

 …と言うのが、ライト兄弟の初飛行までの粗筋である。今なら、ちょっと経験を積んだパラ・フライヤーなら、エンジンなど無くとも風さえ良ければ何時間でも何十キロでも飛べるのに、当時はたった12秒、36mを飛ぶのに、エンジン付きでもこれだけ苦労したのだね~。百年の進歩と言うのは、ホント凄いものである。



今月号の引用・参考文献:
ソムリエ・ワインアドバイザー・ワインエキスパート教本
                        (日本ソムリエ協会)
日本ソムリエ協会 教本/2003年度版     (日本ソムリエ協会)
基礎ワイン教本/WSET編            (柴 田 書 店)
田辺由美のワインブック              (飛 鳥 出 版)
田辺由美のワインノート              (飛 鳥 出 版)
ワインの科学/清水 健一 著            (講  談  社)
ヒュー・ジョンソンの楽しいワイン         (文 春 文 庫)
ワインベストセレクション260/浅田勝美監修   (日 本 文 芸 社)
世界ワイン大全                  (日経BPムック)
ワインの世界史                  (中 公 新 書)
ワイン・カタログ/ナヴィ・インターナショナル編   (西  東  社)
ボルドー/ワインの宝庫を訪ねて        (日 経 B P 社)
ブルゴーニュ/ワインとグルメの歴史にひたる   (日 経 B P 社)
シャンパーニュ/金色に輝くシャンパンの故郷へ (日 経 B P 社)
トスカーナ・ワイン紀行             (日 経 B P 社)
ソムリエを楽しむ/田崎真也             (講  談  社)
ワインものがたり/鎌田 健一 著          (大 泉 書 店)
今日からちょっとワイン通/山田 健 著        (草  思  社)
私のワイン畑/玉村 豊男 著            (扶  桑  社)
夢 ワ イ ン/江川 卓 著              (講  談  社)
永井美奈子のベランダでワイン            (主婦と生活社)
ワイン この一本/戸部民夫・清水靖子編著     (毎 日 新 聞 社)
ワイン用葡萄ガイド/ジャンシス・ロビンソン      (WANDS)
ワインの教室                   (イカロス 出 版)
ワインついしゃべりたくなる博学知識         (河出書房新社)
オーケストラワインショップWeb配信ニュース
Restration of Wright-Flyer 100th Anniversary of First Flight
黒いジャガー               (ワーナー・ホーム・ビデオ)
ザ・ムービー 1971年           (ディアゴスティーニ)



聖書の言葉

「主のために、すべて人間の立てた制度に従いなさい。それが、統治者としての皇帝であろうと、あるいは、悪を行う者を処罰し、善を行う者をほめるために、皇帝が派遣した総督であろうと、服従しなさい。善を行って、愚かな者たちの無知な発言を封じることが、神の御心だからです。自由な人として生活しなさい。しかし、その自由を、悪事を覆い隠す手だてとせず、神の僕として行動しなさい。すべての人を敬い、兄弟を愛し、神を畏れ、皇帝を敬いなさい。」 (ペトロ第一の手紙2章13~17節)