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「意外と亀は速く泳ぐ」 (記:2008年10月)
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このコーナーで、邦画を取り上げるのは4回目だなぁ~(アニメ含む)。良くできたアニメ・ドラマ"のだめカンタービレ"の"のだめ"役の上野樹里主演の、2005年公開の映画"意外と亀は速く泳ぐ"。この映画、ものすごく脱力感があって良いのだなぁ~。映画作りに手を抜いていたと言う意味ではないですよ、念のため。
「ゼブラーマン」の時にも書いたのだけれど、映画の作り手、特に若い映画の作り手って、映画、しかもちゃんと映画館に掛かる映画を取れるチャンスって、なかなか無いでしょ?一般の人はあまり知らないかも知れないけれど、多くの映画は、どれだけ手間とお金をかけようと、確実に劇場で公開されるわけじゃないんだよね。誰の目に触れる事も無くお蔵入り…そんな映画が、世の中には山のようにあるんだな~。自主制作となれば尚更で、地元の公民館や文化会館で公開できるんら、まだそれは幸運な映画達なんですよ。
だから、劇場で公開される映画となれば(例え単館公開であったとしても)、やっぱり作り手にしたら、どうしたって力が入っちゃうよね。だから、一生懸命作るあまり、色んな哲学やら、芸術やらを詰め込みたくなっちゃう。「凄い映画作家が現れた!」と世に認知させたくなっちゃう。お金を出してくれるスポンサーやタイアップ先の意向も、しっかり盛り込まないと。予算や期限も守らなくちゃ。俳優さんが、色々意見言ってるし、交通整理しないと。スタッフのスケジュールや、予算管理もたいへんだなぁ…。三谷幸喜監督の"ラジオの時間"じゃないけど、完成まで色々たいへんなのです。
そんなこんな、色んな思いと苦労が詰まって映画が出来上がるので、もう、ほとんどの映画が"力入り過ぎ"、"力こぶ満載"の映画になってしまう。で、20世紀末頃の日本の映画は長年「う~ん、なんだかなぁ~」と言う感じで、"普通に"楽しめなかった。
最近、日本映画も力の抜き方のバランスが上手くなってきた(…ように思う)。技術はずっと向上している、作り手の情熱もある、でも作品は力が抜けている…そう言うの好きだなぁ~。だから、この"意外と亀は速く泳ぐ"が普通に楽しめた。プロデューサーも、監督(脚本)も、凄いがんばったのだろう~な~。プロデューサーは佐々木亜希子と言う方で、監督(脚本)は三木聡さんと言う方。両名ともよく知らないのだけれど、これから邦画を見る時、この名前チェックしておこう~っと(…こんな方々の映画にCGやVFXで参加したいものだ)。
Imaged by JOLLYBOY
物語は、上野樹里演ずる片倉スズメと言う平凡な主婦が主人公。夫は、海外赴任中。その夫は、電話で亀の事しか聞いてこない。スズメは、日々平凡な生活を送るだけ。そんな生活の中、なんとスズメはスパイ募集の広告を発見し、スパイになるのだが…と言うお話し。
ネタバレになるので、結末は書かないけれど、ストーリーの着地点がまったく見えない(笑)。たいていの映画って、どんなに良い脚本でもたいていは先が読めるじゃない?この映画、先が読めないと言うか、別に物語の先を知りたくないと言うか、映画に身を任せたくなってしまうのである。ストーリーそのものよりも、雰囲気が好きと言う意味では、ブレードランナーとか、バクダッドカフェの範疇に近い気がするそれぞれ、SF、ヒューマンドラマ、コメディと分野は違うけれど、雰囲気を重んじる…そんなカテゴリー…な気がする。
平凡な日々も、ちょっと視点を変えるだけでこんなにもワンダーになってしまう…そう言う映画で、脱力感満載なのにワクワクしてしまう。どうでも良い事柄の一つ一つのディテールに異様に固執していて、それがまた良い。登場人物もみんな平凡な生活を送る人々なのに、実は際立った個性の塊の人々。蒼井優、岩松了、ふせえり、要潤、温水洋一、岡本信人、伊武雅刀など、普通っぽいのに"怪演"のオンパレード。特に僕が好きなのは、松重豊演ずるひたすら平凡なラーメンを作り続けるラーメン屋のオヤジ、村松利史演ずる実は凄腕ヒットマンの豆腐屋。
何も考えず、普通に楽しめる映画です。大ヒットは無理な映画だろうけれども、この映画が好きな人とは友達になれそうな気がする(笑)。