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「古城の亡霊」   (記:2006年7月)

古城の亡霊 [VHS]

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 最初に断っておくと、この映画は物凄~く"つまらない"映画です。なのになんで取り上げるかと言うと、この映画がロジャー・コーマンの映画だからです。ロジャー・コーマンは、徹底的にB級のホラー映画ばかり撮っていた人です。この人の凄いところは、低予算と短期間で作品を取り上げてしまうことです。この「古城の亡霊(原題は"The Terror")」も、前に作った映画のセットを手直ししてたった二日間で作り上げたとの事。僕はこれ以上早く撮られた作品を他に知らない。以前このコーナーでも紹介した"至上最低の映画監督"と言われたエド・ウッドですら、撮影にもうちょっと時間がかかっている。邦画低迷時代、数百万円の低予算かつ短制作期間で知られた日活ロマンポルノですら、撮影にだいたい1週間ぐらいはかかっていたと言われる。たった二日間…これ以上早く撮るとなると、たった一日で撮らなければならないと言う事になる。いくらなんでも、それは不可能でしょう。世の映画製作は、早撮り世界記録に挑んでいるわけではないのですから。
 ロジャー・コーマンのプロダクションは小プロダクションだったから、大きな予算はかけられない。低予算かつ短期間でそこそこの作品を作って、スマッシュヒットを飛ばし、資金を回収していく。そう言うやり方で、ホラー映画等のB級映画を作っていく。現代のハリウッド映画は、数十億円~数百億円の費用を費やし、数年かけて制作される。ロジャー・コーマンの映画作りは、それとは対極にあった。

古城の亡霊Imaged by JOLLYBOY

 ロジャー・コーマンの才能は、低予算で映画を作る事だけではない。彼のもう一つの才能は、新人を発掘し、それを育て上げる事である。昔、映画を見る時は必ずパンフレットを買ってスタッフやキャストの経歴を読んでいたのだけど、大物の監督や俳優の中にもロジャー・コーマン門下生がけっこういるのには驚いた。彼らは、低予算のロジャー・コーマン映画で鍛えられて巣立っていった人々だ。逆に言うと、低予算映画ではお金のかかる大物俳優が使えないから、代わりに才能に満ち溢れた若い俳優を発掘して使う、と言う事だったのかもしれない。
 この「古城の亡霊」とて、例外では無い。この映画の主演を務めるのは、なんと若き日のジャック・ニコルソンである。まだ髪の毛がフサフサで、しかも正統的な二枚目役を演じているのである。ロジャー・コーマンが、若い彼の素質を見抜いて主役に抜擢したのだ。また、無名だったフランシス・フォード・コッポラも製作協力者として名を連ねている。「ゴッドファーザー」を監督する遥か以前のコッポラである。コッポラもまた、ロジャーコーマンに誘われて、彼の下で映画製作のノウハウを学んだ一人である。このように、ロジャー・コーマンの功績は映画製作そのものよりも、才能のある人を見い出し育てた点かもしれない。
 さて「古城の亡霊」は、古いお城、不気味な城の主人、亡霊、魔女伝説と言った、古典的なホラー映画の要素が詰まっている。若いジャック・ニコルソンが主演を務めているが、その演技のフォロー役と言うわけではないだろうが、ベテランのボリス・カーロフが城の主人を演じている。ご存知、ボリス・カーロフは、フランケンシュタインで一世を風靡し、ロイ・チェニー・Jr.らと共に、ホラー映画の黄金時代を築いた俳優です。

 で、物語。時は、世紀が変わって間もない19世紀初頭。馬に乗ったフランス軍の士官が、連隊とはぐれてフランスの地方の海岸線を彷徨っている。そこで、彼は不思議な若い女性と出会う。その後、老婆と出会うが、若い女性の正体を探るため絶壁の古城に向かう。そこで、彼は城の恐ろしい謎を探っていく。そう言う物語。
 最初に"つまらない"映画と言ったが、これが1963年の作品、40年以上もの前の作品である事を考えればやむを得ない事かもしれない。モンタージュ手法を確立した"戦艦ポチョムキン"だって、今見たら面白くない。一世を風靡した喜劇映画"チャップリン"だって、今見たらちょっと笑えない。"古城の城"は、エクソシストやサスペリア等のモダン・ホラー映画が登場するよりも10年以上前の映画で、ホラー映画といえば"幽霊や魔女や吸血鬼"と言うような時代だった。しかも今のように特撮技術が進んでいなかった時代だから、映画表現上の制約も多かった事だろう。逆に言うと、1963年当時であれば、このようシンプルなホラー映画でも十分に楽しめたのかもしれない。