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「ア イ キ」    (記:2006年1月)

AIKI [DVD]

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 年の初めなので、希望のもてる映画を取り上げたいと思います。今回は、邦画を取り上げます。
 アニメーション以外の邦画を取り上げるのは、今回が初めてです。今さら小津監督の「東京物語」や黒澤監督の「七人の侍」のような有名な映画を取り上げるのでは、このコーナーの趣旨から外れるので-「ここ数年以内に公開され、かつあまり話題にならなかったけれど、秀作の映画」-を取り上げます。2002年の「アイキ(AIKI)」と言う映画。日活創立90年の記念作品です。邦画にはわざわざ劇場まで見に行って裏切られる事が多かったので、この作品も半信半疑で見ました。ところが、この作品は凄く良かった。ちょっと昔の芸術指向の邦画って、ストーリーがグダグダになってしまう作品が決して少なくなかったと思うのですが、この映画は一本きちんと筋が通っています。決してハリウッド映画のように巨費をかけた作品ではないでしょうが、脚本、演出、役者の演技等、すべてきちっとしていて高度にバランスが取れています。ちょっと売れた小説家やミュージシャンが、興味本位で撮った映画との違いがはっきり分かります。CG分野から来た映画監督などもそうですが、意外と映像の基本が分かっていなかったりします。この作品は、基本もしっかりしています。

 「アイキ」の監督と脚本を担当したのは、天願大介と言う人。この方の父親は、なんとあの今村昌平監督なのです。カンヌの栄冠に二度も輝き、今村映画学校の主催者である今村監督の息子さん。本作品の作りがきちっとしているのも、なるほど頷けます。役者の演技も良いですね。特に素晴らしいと思ったのは、合気柔術の平石先生を演じる石橋凌さん。この演技が本当に良くて、普通のサラリーマンでしかも武道の先生と言う難しい役どころを自然に見せています。ご存知ARBのボーカリストにして俳優の、石橋凌さん。ミュージシャンの傍ら・副業に、片手間に役者をしているわけではなさそうです。北野作品でのやくざの親分、そして本作のような一介のサラリーマンにして武道の先生役、いずれも自然に演じています。なかなかの力量なのではないでしょうか(やっぱり演技力が確かなのか、最近はハリウッド作品にも出てますね)。石橋凌さん以外の、脇を固める俳優達も良い味を出しています。姉役の原千晶、サマ子役のともさかりえ、常滑清役の火野正平、テキ屋の権水太郎役の桑名正博を初め、一人一人の演技が最終的に全体として調和し、大きなハーモニーを奏でています。もちろん、主役を演じる加藤晴彦もがんばっています。ほとんどバラエティ番組での彼しか知らなかったので、彼の演技に驚かされ新鮮さを感じました。これらの演技のハーモニーを醸し出したのも、やはり監督の基本に裏打ちされた実力あってこそと思えます。


アイキ Imaged by JOLLYBOY

 この映画の内容に入ってみよう。"アイキ"の主人公の芦原太一には実在のモデルが存在します。この映画は、天願監督が10年前に一人のデンマーク人に出会った事によりスタートしたと言います。そのデンマーク人とは、合気柔術の黒帯の車椅子戦士、オーレ・キングストン・イェンセン氏。この映画の加藤晴彦演じる主人公・芦原太一も、バイクの事故によって脊髄を損傷し、車椅子生活を余儀無くされる。元ボクサーの生意気なくらいに元気の良い太一が、まったく自由がきかない生活に陥る。美しい彼女も、太一の元を去る。彼をバイク事故に遭わせた車の運転手は、任意保険すら入っておらず警察署で自殺してしまう。自暴自棄になった太一は、周囲に悪態を付き、見舞いに来た(自殺した運転手の)家族の妻や子供を罵り、酒に溺れ、(ボクサー時代には考えられないくらい簡単に)街のチンピラにのされ、遂には自殺を考える。そんな彼を献身的に支えたのは、姉だった。
 太一は、その後様々な人々と出会う。彼以上の脊髄損傷を負っている男、巫女を勤める女性(彼女はヤクザとの因縁がある事がそれとなく示唆される)、テキ屋の男等、やはりある意味極限状況で生きている人々との出会い。そんな出会いの中の一つに、合気柔術の平石先生との出会いがあった。太一は、合気道と出会い、平石先生やサマ子や姉など周囲の人々に支えられ、次第に彼の中の何かが少しずつ変えられていく。まだ見ていない人が多いと思うので、ネタばれにならないように結末は書きません。

 うまくいかない"糞"のような極限状況の人生を、一人で生きることは辛いかもしれない。人は、一人では生きられない。しかし周囲の人々との関わりの中でこそ、そんな人生でも生きていける。題名の"アイキ"は、単に合気道の事を指し示しているだけではないと思います。人が他人と関わると言う事は、人の立場に立ち、人の気持ちを考える事、つまり相手の"気持ち"を理解し、その気持ちに"合わせて"それを共有する事だという事、そう言う想いがこの映画のタイトル"合気=アイキ"にこめられているように思います。こう言う硬派なメッセージ性もありますが、"アイキ"は基本的に娯楽映画です。ユーモアも所々に散りばめられていますが、ただ観客はそれを笑っていいのかどうか、戸惑ってしまう…そんな部分もある、色んな面を持っているのに、映画として一本筋を通している…そう言う映画だと思います。