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「ロレンツォのオイル~命の詩」 (記:2005年1月)
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毎年、年の始めは希望の持てるような映画を取り上げたいと考えていて、今回は「ロレンツォのオイル/命の詩」を選択。今回はネタばれを承知で書くので、これからご覧になる方で、結末を知りたくない方は読まないで下さいませ。
この映画は1992年製作だけど、僕が見たのは2003年になってから。前からこの作品の存在は知っていたけれど、なかなか見る事ができなくてようやくDVDを買って見ました。ロードショー公開時に見てもおそらく感動したと思うのだけれど、子供の父親となってからこの作品を見たので、感動と共に考えさせられることも多かった一作。監督はあのジョージ・ミラー(マッド・マックスやベイブ等の監督)で、製作や脚本も担当する入れ込みようである。
現在うちには子供が二人いるのだけど、上の子が3ヶ月の時に突然39~40度の高熱が出た。風邪かなと思って夫婦で小児科に連れて行ったら、小児科の先生がうちの子を一目見るなり慌てて市立病院に連れて行くように指示した。紹介を受けて市立病院に行くと、様々な検査の嵐。腕に点滴の管を指したり、髄液を採取したり・・・しかもいきなり入院となってしまう。初めての子供の病気で、いきなりの入院。しかも高熱の原因が分からないと言う。正直、夫婦揃ってあせった。その後の精密検査で尿路感染症と言う事が判明した。乳幼児の尿管が短い(ないし捩れている)ことから来る、尿の逆流による細菌感染症だった。5日間の入院の末、無事退院(しかし、その後1年間毎日薬を飲み続けることになった)。
子供の病気と言うのは、親にとって気が気ではない。ましてや、自分の子がもし不治の病にかかったらどうだろうか、と考えずにはいられない。その体験をした(or今もしている)のが、この映画で描かれている家族である。この映画は実話に基づいており、オドーネ夫妻(ニック・ノルティとスーザン・サランドンと言う二人の名優が演じる)の5歳の息子ロレンツォ(ザック・オマリー・グリーンバーグが演じる)が不治の病に侵される。その病気とは、母親から男の子だけに遺伝する副腎白質ジストロフィーの一種ALDと言う病気。長い化学式を持つ脂肪酸が脳神経を取り囲むミエリンを破壊し、2年以内に確実な死をもたらす恐ろしい病気。稀な病気で、名前すらまだ付けられたばかり。医者や科学者にも治療法はおろか、原因すらまだ分かっていない。息子の死まで、タイムリミットは約2年。夫婦の壮絶な闘いが始まる。夫婦、友人、周囲の人々、医者・・・たくさんの人々が絡む凄まじい葛藤の中で、夫婦愛が試され、信ずる事の深さが極められていく。既存の医療の限界も試される。医者や学者達の努力も虚しく、時間だけが経過していく。我が子を救う為に、医者でも科学者でもない平凡な親が、難解な化学や生理学と格闘し、最新医学と格闘し、病気を食い止める方法を見つけるべく、人生のすべてを費やした闘いを続ける・・・。
Imaged by JOLLYBOY
この映画は、奇麗事だけを並べていない。追い詰められた夫婦のいがみ合い等の弱さ、心身の過労、医者や企業が抱える問題、色んなものを隠さずに画面に提示していく。それを、リアリティを持った映像で我々に訴えかける。病気の原因や治療方法を研究する為には、一家の家計ではどうにもならない・・・あらゆる方法を駆使して、資金獲得に奔走する夫婦。仕事そっちのけで、図書館にこもって研究をする父親。24時間子供に付き添い、唾液を吸い取り続ける母親や友人達。息子を人間扱いしない看護婦達を、何度も追い出す母親。同じ病気の子を持つ親達との、考え方の相違での衝突。どんなに良い方法が見つかっても、科学的理論の裏付け、臨床の裏付けがないと、医療行為として認められない。様々な苦しみや困難が、次々と夫妻を襲う。
そうした極限下の葛藤の末、病気の進行を止めるオイルが完成する。エンディングで、そのオイルで元気に生活をしている大勢の(実際の)子供達が画面に登場する。しかし、夫妻の闘いはこれで終わりではない。破壊されたミエリンは、自然と修復されることはなく破壊されたままである。病気の進行は食い止めたが、息子を病気から解放するにはミエリンを修復する事が必要なのである。夫妻は、今もこのミエリン修復のための研究プロジェクトを続けていると言う表示がエンディングで流れ、基金のための連絡先も表示される。闘いの道のりは、まだまだ長いのだ。親が子を思う気持ちと言うのは、かくも強い。この真実の物語を目の当たりにする時、誰もが心を揺さぶられるに違いない。
この映画でもう一つ感じたのは、真実を描くことの難しさだ。例えば、古代のトロイ戦争や、中世のジャンヌ・ダルクの物語等を描くなら、学者だって当時の事を全部知っているわけではないから、多少誇張してもあまり問題にならないだろう。関係者だって生存していないから、名誉毀損で訴えられる事もないだろう。しかし、現代の実話だとそうもいかない。数年前の事なら、マスコミは事実関係を調べられるし、関係者も多数生存している。しかし真実を伝えるためには、批判すべきところはしなくてはならない。(名前や団体名は変えるにしても)実在の人物等を登場させなくてはならないし、好ましい良い立場で描かれるのならともかく、そうした人物の中には好ましからざる表現で描かなければならない者も出てくる。また、映画に登場する科学的な知識もきちんと裏付けが取れていないといけない・・・荒唐無稽なSF物語ではないのだ。そう言った様々な調整をしないと、現代ノン・フィクション映画を製作するのは難しい。訴訟大国アメリカでは、尚更の事だ。製作スタッフには、様々な苦労があったと思う。そう言った意味でも、現在も進行中のこの物語を、世の中にこれほど力強く提示した「ロレンツォのオイル」に、単なる感動以上の敬意を表したいと思うのだ。