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「華氏451」 (記:2004年10月)
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さて、秋も深まってまいりました。読書の秋…と言う分けからでもないのだけれど、今回取り上げるのは"華氏451"。本と、密接な関係にある映画です。1966年のアメリカ資本のイギリス映画で、監督(&脚本)はあのフランソワ・トリュフォー。トリュフォーとかゴダールなどの監督は、ある年齢以上の映画ファンにはとても印象深い人たちですが、"あのトリュフォー"と言ってピンと来ない若い世代の人には、「未知との遭遇で、タララピーポ~と言う音階に合わせて、手を動かしてた博士役の人だよ」と言えば、分かっていただけるだろうか?(えぇ?余計に分からなくなった?)
さて物語ですが、ブラッド・ベリ原作の近未来の社会のお話し。社会が高度に機械化され、情報はテレビで伝えられる(40年近く前の映画なので、壁掛け式の薄いテレビが最先端で描かれたりしている…。乗り物も、当時の先端(?)のモノレール。今見ると、どれもこれも全然未来の風景に見えない…笑)。思想は統制され、読書はすべて法律で禁止され、本を持っているだけでも違反者として捕まり、本はすべて焼かれてしまう。この本(つまり紙)が燃える温度が、華氏451度(※注)なのである。建築物は完全な防火構造となっていて、滅多に火事は起きない。消防隊の役目は火を消すことではなく、本を集めて焼く事になっていた。つまり"消防"隊ではなく、"焚書"隊なのであった。そんな焚書隊の一員であったモンターグは、本を愛して隠し持つ女性に出会い、自分も本の魅力に取り付かれてしまう…。さて、彼の運命は?と言うお話し。
映画自体はいたって真面目に作られているのだが、現代人の我々が見ると、なんだかモンティパイソンのコントを見ているような感じがする描写もないではない。狙ってそうしたとは、思わないけれど…。
Imaged by JOLLYBOY
この映画で扱われている焚書は、実際にナチスドイツで行われた野蛮な行為で、そういう全体主義、ファシズムへの警鐘がこの映画のテーマになっている。"1984"や"未来世紀ブラジル"と同じく、抑圧された思想統制社会・管理社会下での個人の抑圧を扱った映画である。今年のカンヌ映画祭で、マイケル・ムーア監督(※あのボーリング・フォー・コロンバインを撮った人)の"華氏911"が聴衆から満場の拍手喝采をもって向かい入れられ、パルムドールを受賞。題名は、もちろんこの"華氏451"から取られたもので、911ニューヨークテロに引っ掛けている。現代アメリカの病や中東石油利権のブッシュの影の部分等を扱ったドキュメント映画で、配給元のディズニーに配給を停止させられてしまった映画である(その後苦労の末に、全米公開されて大ヒットした)。この"華氏451"で取り締まられる"本"のように、ムーア監督の"映画"も暗黙の圧力で取り締まられてしまった(自由の国と言われるアメリカにも、実は恐怖の思想統制全体主義的傾向が度々見られる)。日本でも、政治家の情報をプライバシー情報として守ろうと言う嫌~な法案がチラホラ出たり、引っ込んだり。政治家の悪事ですら報道したら、名誉毀損で訴えられかねない変な世の中。世のため人のためと思って危ない所に奉仕に行って運悪く人質で捕まったら、"おまえはどうせ○○党だろう"みたいに言われる怖い世の中。"華氏451"の描く世界は、決して未来の絵空事でもないのである。
※注:華氏温度の計算方法 華氏温度=1.8×摂氏温度+32
つまり華氏451度は、摂氏約233度。