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「黒いジャガー」 (記:2004年4月)
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SHAFT(シャフト)は、最近サミュエル・L・ジャクソン主演でリメイクされたので、御存知の方もいらっしゃると思う。今回ご紹介するのは、1971年のSHAFT(邦題:「黒いジャガー」)。黒人観客向けに黒人俳優が活躍するブラック・エクスプロイテーション・ムービー・ブームの先駆けとなった映画。スタッフや共演者にはもちろん白人もいるが、監督のゴードン・バークス、主演のリチャード・ラウンドツリー、その他主要なスタッフも黒人で固めた映画。
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さて映画の内容であるが、ニューヨーク警察も一目おく敏腕の黒人私立探偵シャフトの活躍劇。黒人街ハーレムのボスの愛娘が誘拐され、シャフトに救出の依頼が来る。黒人解放過激グループや警察などが絡み合いながら、話は二転三転していく…と言う物語。現代のハリウッド映画なら、もっと緻密な脚本や派手なアクションで物語を構成するのだろうが、30年以上前の映画としては及第点の映画。
しかし、この映画の見所はもう一つ、物語自体と別なところにある。今では信じがたい事だが、20世紀も後半になるまで民主主義国家たるアメリカ合衆国には黒人(※アフリカ系人種)に正当な公民権が認められていなかった。1960年代に、黒人の公民権運動が広がる。アラバマ州で起こった黒人によるバス・ボイコット事件は、その先駆けとなった(※ウーピー・ゴールドバーク主演の映画"ロング・ウォーク・ホーム"で描かれている)。キング牧師の暗殺や、黒人に対する様々な酷い仕打ちにも耐えつつ(映画"マルコムX"などでもその一端が分かる)、公民権運動は確実に進展し、法的な権利を勝ち取っていく。しかし、法律上の権利と、生活上の実際の差別は別問題である。白人だけのミシシッピー大学に一人の黒人学生が入学したことで起こったメレディス事件(※映画"フォレスト・ガンプ"でも少し触れられている)など、全米で黒人に対する差別、偏見が残っていた。
黒人と白人の高校を統合したことで起こった歴史的事実を扱った映画に、"タイタンズを忘れない"と言う映画があるが、当時いかに白人と黒人が一緒に仲良くやっていくと言うことが絵空事で、困難だったかが描かれている。この"黒いジャガー"と言う映画も、そう言う時代背景の中で作られた。現代だと、"マイアミ・バイス"や"リーサル・ウェポン"のような映画で白人と黒人の刑事が仲良くコンビを組むような表現は自然となっているが、少なくとも1970年代の時代の雰囲気はそう言うものではなかった。主人公の探偵シャフトは、ニューヨーク警察の白人刑事には"絶対に"協力しない。その白人刑事は決して悪人ではない(むしろシャフトの実力を認めている)のだが、どんなにピンチになってもシャフトは一切彼に助けを求めない(…ましてやコンビを組むなんて、絶対有り得ない)。映画のそこかしこにも、白人社会に対するシャフトの怒りが描かれる。黒人と言うだけで乗車を拒否するタクシー、黒人解放を目指す過激組織の昔の友人等々の描写。この映画は、正に当時の黒人の思いを投影し、黒人の鬱憤を晴らすべく作られた映画なのだ。アイザック・ヘイズの作った"黒いジャガー"のテーマ曲はヒットして、アカデミー賞の歌曲賞を獲得した。その後、シャフトのシリーズは"黒いジャガー・シャフト旋風"、"黒いジャガー・アフリカ大作戦"の2本が作られ、1973年にはテレビシリーズも作られた。
この映画は、正に時代の変わり目に作られた、時代が作った映画。ところで、原題は"シャフト"なのに邦題が"黒いジャガー"と言うタイトルになっているのは、やっぱり黒人解放運動組織の"ブラック・パンサー"を捻ったのかな?