入口 >トップメニュー >隠れた名映画 >現ページ
「アトミック・カフェ」 (記:2003年7月)
中古価格
¥3,800から
(2014/11/16 17:29時点)
今回、初めてドキュメンタリー映画を取り上げる。今年の春、"ボーリング・フォー・コロンバイン"と言う映画を見た。アメリカの戦争や銃による犯罪と言う題材を中心に、アメリカが抱える社会的問題を取り扱った優れたドキュメンタリー映画である。監督のマイケル・ムーアは、ホワイトハウスから公式に危険人物と認定されたそうだが、日本人の僕が見る限り間違っているようなことを言っているようには思えない。
アメリカと言う国のある種の度量の広さと言うか、反政府的であっても、時折優れた面白いドキュメンタリー映画を世に送り出してくる。ここら辺りが、アメリカ合衆国が他の独裁国家よりは多少は自由であることの証明にもなっているようだ。で、今回取り上げるのは、"アトミック・カフェ"。1982年のアメリカ映画である。監督は、ケヴィン・ラファティ、ジェーン・ローダー、ピアーズ・ラファティの三人(…すみません。三人とも知りません)。題名の"原子爆弾喫茶店"が示す通り、核兵器に関するドキュメンタリー映画である。
Imaged by JOLLYBOY
ドキュメンタリー映画とは言っても、1940~60年代の核兵器の正当性を訴えた政府広報CMや、ニュースフィルム、軍隊の教育フィルムなどを、当時のアトミックソングのヒットナンバーに載せて、並べただけの異色の映画である。演出側の解説は、まったく無い。無いのだが、現代の我々がこの映画を見ると、その馬鹿馬鹿しさに開いた口が塞がらないのだ。監督は一切の説明をしないが、当時の映像がすべてを物語っているのである。
一例を挙げると、アメリカがビキニ諸島で水爆実験を行う時の記録フィルムが写される。そのフィルムでは、米軍が島民に「いかに核実験が人類のためになるか」を力説し、疎開をする意義を述べ立てる。島民は水爆のことなんて知っているわけがないからただ聞いているだけ…そして、その結末は皆が周知の通り、ドッカーン!!…その時の日本の第五福竜丸の悲劇も、この映画は触れている。
その他の政府広報も、もうただただ"?(クエスチョンマーク)"の嵐。原爆の危険性について、政府広報官は物凄い嘘を吹きまくっているのだ。今ほど原爆の正しい知識が浸透していないから、国民はそれを信じきってしまう。国民向けの教育映像も、凄い。「原爆が落ちたら、すぐ伏せましょう」、「原爆が落ちたら、頭を低くしてテーブルの下に隠れましょう」など、次々と訴えつづける…地震じゃないんだからさぁ…。子供に、頭からつま先までを覆う鉛入りの重~い放射能防護服を着させて遊びに行かせる親は、もう見ていて絶句。
更にこの映画は、当時の思想体系にまで言及する。当時、対ソ連、対共産主義の冷戦時代を背景に、徹底した反共主義が国民に植えつけられる。マッカーシズムの吹き荒れる中、多くの人がアカのレッテルを貼られていく。アイゼンハワー大統領は、こう語る。「アメリカは、神が地上に造られた最強の国だ!」って、これって今のブッシュ大統領の姿勢と大して変ってない。アメリカって、昔から傲慢な国だったんだね~、と言うことがよく分かってしまう映画なのでした。