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「最前線物語」 (記:2001年8月)
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8月と言うと、嫌でも過去の戦争と向き合わねばならない。先月に引き続き、戦争映画を取り上げる。有名な戦争映画と言うと、"史上最大の作戦"や、最近では"プラトーン"や"シン・レッドライン"、"プライベート・ライアン"など、大作やメジャーな作品がたくさんある。今回、取り上げるのは"最前線物語(原題:THE BIG RED ONE)"。1980年の作品だが、ロードショーでご覧になった方はあまりおられないのではないだろうか。事実、本国アメリカでも、日本でも、年間ベストテンには入っていない…。
監督は、サミュエル・フラー。1911年生まれのフラーは、16歳で記者になり、殺人事件や人種差別などアメリカ社会の矛盾と向き合う。第二次大戦では、陸軍歩兵として北アフリカからヨーロッパ戦線を転戦し、ノルマンディー上陸作戦を初め、数々の最前線の修羅場を生き残る。フラーは映画監督デビューから低予算映画ばかり20本近くこなしていたが、70歳を目前に「最前線物語」で正当な評価を得ることとなった。軍曹を演じるのは、名優リー・マービン、若い兵士の一人を演じるのは、スター・ウォーズのルーク役のマーク・ハミル。
映画の内容はというと、第二次大戦下、最前線の激戦地を転戦するベテラン軍曹と4人の若い兵士の物語。軍曹は、戦場でいかに生き残るかを若い兵士に叩き込む。ヒロイズムもロマンもない、完全な狂気の組織化である(それは、フラーが正に激戦の最前線で体験したものだった)。元ジャーナリスト、元兵士として、彼ほど戦場を冷徹に見れる監督はそういないだろう。
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彼が撮る映画はヒロイズムを徹底的に排除して、リアリズムを追及した結果、赤狩りマッカーシー旋風が吹き荒れた時代には、共産主義者呼ばわりされもした。だいたいお金のかかる大作の戦争映画となると、「自国の戦争を聖戦化・肯定化する映画」や「軍隊に入りましょう調宣伝映画」になってしまう。それは、洋の東西を問わずそうした傾向があり、物語の中に英雄を誕生させたり、ストーリーを感動的に仕上げようとする。フラーのように、戦場にはヒーローはいないし、敵を人と思わずただ殺して生き残るだけ、というリアティー描写をした監督はあまり多くない。彼は、本国アメリカより、ゴダールやトリフォー、ヴェンダースといったヨーロッパの才人からリスペクトされている。スコセッシ監督も、フラーのリアリズムに魅せられた一人だ。僕もこの映画が気に入って、DVDを買ってしまった。