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「ソイレント・グリーン」   (記:2000年9月)

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 SFの本来の意味は、"サイエンス・フィクション"であり、"空想的な世界を科学的仮想に基づいて描いた物語"である。同じSFでも、"スペース・ファンタジー"と呼ばれる"スター・ウォーズ"から、比較的近い将来を描いた"近未来SF"と呼ばれるジャンルまで色々なSF物語がある。私は、特に中学から高校にかけて、様々なSFを読み漁った。「ソイレント・グリーン」の原作であるハリー・ハリソンの"人間がいっぱい"もそんな一冊だ。これが、映画化されたのは1973年。当時、僕はまだ小学生で、この作品を見たのは10年も後のことだった。

 さて、この作品の監督はリチャード・フライシャーで、主演はチャールトン・ヘストン。チャールトン・ヘストンは、この時期ハリウッド大作には欠かせない俳優だったが、こんなうけない作品にも出ている。この作品は、日米ともに興行成績のトップ10にも入らず、アカデミー賞をはじめ賞取りレースとも無縁の映画だった。余程SF好きでもなければ、この作品の存在さえ知らない人がほとんどだろう。でも、私はこの作品が好きで何度も見てしまうのだ。


ソイレント・グリーンImaged by JOLLYBOY

 この作品は、西暦2022年のニューヨークを舞台にしている。近未来SFだと、映画 "ブレード・ランナー"の世界観が今や主流である。ブレード・ランナーが登場すると、雨後のたけのこのように似た世界観を持つ「映像」が次々と登場する(CGの仕事をしていても、未だに「ブレード・ランナーのような感じでお願い」という言葉を耳にする)。リック・ベッソンは、"フィフス・エレメント"でもっと後の世界を描いたが、明らかにブレード・ランナーの世界観を踏襲している。乗り物や工業製品のいくつかは新しいが、今の我々と似た生活様式や道具・家具も持っている(これは、全部未来風にしてしまうと現代との接点がなくなり、リアル観がなくなって、物語に共感できなくなってしまうのを防ぐためだ)。しかし、ソイレント・グリーンは違う。作られた1973年から50年後の世界(今から22年後の世界)を描いているにも関わらず、未来的な建物も乗り物もほとんど登場しない。むしろ現代より衰退している世界観で統一されている。2022年の世界は爆発的に人口が増え、食料不足と大気汚染に悩まされている。市民の食料や水は、週一回の供給制。通りも建物の階段も、汚い恰好をした人々で充満している。供給される食品は、ソイレント社の固形食品"ソイレント・グリーン"。海の養殖場で育てられたプランクトンから作られる緑色の食べ物。クロレラやスビルリナをクッキーにしたような食べ物である。チャールトン・ヘストン演じる主人公の刑事が、ある事件をきっかけにこのソイレント・グリーンの恐ろしい秘密を知るのである。実は、海など当の昔に汚染されていて、プランクトンを供給できる状態ではなく、ソイレント・グリーンはなんと人間の死体から製造されているのだ。それを知った主人公の叫びは、供給を争うしか能のない群衆に掻き消されてしまうという、ハリウッド映画にしてはアン・ハッピーエンドの救いのない映画である。

 この映画で、印象的なのは主人公の刑事が、上流階級の事件現場から生鮮食品やジャムをくすねてきて、老人と一緒に味わうシーンである。主人公は、本物の食材の味に感動する。老人から「私が子供の頃は、そういったものが満ち溢れていた」と聞く主人公。やがて、老人は死を選ぶことに決め、ソイレント社へ赴く。主人公刑事は老人を追うが、そこで死を選んだ者たちだけに与えられる特典を共に体験する。世界から絶滅してしまった自然や動物たちの大映像を見せられる。主人公の刑事は、かつて存在した自然の美しさを初めて目にし、驚嘆し感動する。その素晴らしい特典と引き換えに老人は死んで、固形食品を製造する "ソイレント・グリーン"工場へ送られてしまった。この映画は、水質汚染・大気汚染・土壌汚染など、ありとあらゆる公害による被害が先進諸国で巻き起こっていた時代を反映していて、まったく明るさがなかった。一般受けしないのも、当然である。今から約30年近くも前に、公害や環境問題を真正面から扱った稀有な超真面目SF映画である。