色んな国の言葉を学ぶ

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3.フランス語を学ぶ

良く知られた世界のジョークから。
豪華客船で火災が発生。船長は、各国の人々にスムーズに海へ飛び込んでもらいたい。
そこで、フランス人にはこう言った。
「飛び込まないでください!」

 英語の次は、フランス語を学ぶと決めた。目的は明確。ワインが大好きで、山梨やニュージーランドのワイナリーも巡ったが、やっぱりフランスの葡萄畑とシャトーに行きたい。ボルドー、ブルゴーニュ、シャンパーニュetc.…のワイナリーで働く人達と直接フランス語で会話したい。だから、フランス語を学ぶ事にした(※ついでにモン・サン・ミシェルも行きたい)。今は仕事と育児に追われているので、フランスへはいつ行けるかは分からないけれど、言葉は一朝一夕には学べない。だから、今から学ぶ。

 フランス語で、小さな想い出が一つある。僕の事務所がまだ市ヶ谷にあった頃、フランスから来たコテルニコフさんと言う若いCGクリエーターが、事務所を訪問してくれた事がある。日本で仕事のできる会社を探していたようだ。事務所で、彼の作品を見せていただいた後、日本におけるCG業界の概略やうちの業務の簡単な説明をした後、近くのフレンチ・レストランで一緒に食事した。ところが、僕はフランス語がまったく話せない。向こうは、日本語がまったく話せない。それで、お互い母国語ではない"英語"で意志疎通を図る事となった(※欧米人なら誰でも「英語が流暢」と思うのは、日本人の認識の大~きな間違い)。当然、それなりに言いたい事は分かるのだが、お互いすごくまどろっこしい会話となった。あの時ほど、「フランス語が話せたらなぁ…」と強く思った事は無い。ちなみに余談だが、その後いただいたメールによると、コテルニコフさんはアメリカのスタジオで仕事を見つけたらしい。

 話を元に戻すが、昨年の2007年2月から10月までかかって、一冊のフランス語文法テキストの勉強を終えた。36課あるテキストを半年以内で終わらせられるだろう…と高をくくっていたが、結局9ヶ月もかかってしまった。やはり学生ではないので、通勤時の勉強、だいたい一日30~45分が限度。
 このテキストには、音声のCDが付属していた。この音声をMP3プレーヤーに落として、歩行時にそれを聞きながら、ブツブツとその発音を声に出し、それを繰り返しながら歩く。便利な時代になったものだ。しかし、傍から見ていると、ブツブツ言いながら歩いている危ない男に見えるので、なるべく人通りの少ない道を歩くようにした

 そんな風にして学んだフランス語なんだけど、フランス語を学ぶ多くの人がそうであるように、僕も入口でいきなり挫折しそうになった。

 フランス人なら、当然子どもでも普通に数えられるであろう、フランスの"数字(数詞)"。1(un)、2(deux)、3(trois)…9(neuf)、10(dix)。ここまでは良い。2桁の入ってから、違和感が出てくる。11(onze)、12(douze)…16(seize)、ここまでも良い。突如、17から変わる。17(dix-sept)、つまり10+7と言う表現になる。以下、同様に18(dix-huit/10+8)、19(dix-neuf/10+9)。16までは独自の言い方をして、17から扱いが変わる。一貫性が無い。日本語は、11(※つまり10+1)以降、数え方はずっと一貫している。
 フランス語は、20以降で更に奇妙奇天烈になる。20(vingt)から60(soixante)までは納得できる。納得いかないのは、やはり"70"以降。70は、soixante-dix。これは60+10と言う考え方。80は、quatre-vingts。これは、4×20と言う考え方。何故、数の数え方に掛け算が出てくる!!更に90は、quatre-vingt-dix。これに至っては、(4×20)+10と言う考え方。なんじゃ、そりゃ。もう数学じゃないか…。なんでフランス人は、こんなひねくれた数の数え方をするのだ?
 一体全体、フランス人にとって、"6"と"7"の間にどんな深い溝が広がっているのだろう…不思議でならない。まあ、長い期間かかって形成されてきた"言語"である。他国の人間が何を言っても仕方無い、素直に受け入れよう…。

 たかが数の数え方一つでこんなだから、先が思いやられる。そして、いよいよ"誰もがぶち当たる壁"…そう、名詞の"性"である。

 英語にも、名詞に対する性の概念はある。しかし、フランス語ほど徹底してはいない。フランス語は、どんな物も原則として"女性"か"男性"かの性がある。おん鳥が"男性名詞"で、めん鳥が"女性名詞"と言うのはまだ分かり易い。しかし、レコードが"男性名詞"で、カセットが"女性名詞"と言うのに対し、「何故?」と問うても明確な解答はない。身の回りの物すべてに"性"がある。性によって、冠詞も形容詞も動詞も形が変わるから、性を知っておかなくてはならない。レコードが男性なら、CDやDVDも男性なのだろう…となんとなく推測できる。しかし、新たに登場したSDメモリーカードはどっちだ?USBはどうなんだ?…この世に存在するものは余りに多い。目まいすら覚える。名詞の性を覚える事は、外国人が日本の漢字を覚える困難さに匹敵するのかもしれない。小さい頃から、コツコツと生活の中で、日々獲得していくものなのだ、きっと…。
 そんな訳で、日本人のフランス語初心者にとって"フランス語を話すこと"は、方程式を解くような論理性と忍耐力が要求される。「僕は家族で一番背が高いんだ」と相手に伝えたいとする。日本語なら、1秒で言える簡単な台詞である。これをフランス語で伝えようとする。まず、"私は"は"Je suis"。"の中で最も大きい"は"le plus grand de"。"(私の)家族"は"mon famiile"。さて問題は、定冠詞"le"。"le"は、性や数によってに変化する。僕は男性なので、"le"(※もし僕が女性だったら"la"となる)。そして"私の家族"の"私"も、性や数によって変化する。私は男性なので"mon"となる(女性なら"ma")。"家族"は、複数なら"mes"となるが、この場合の"家族"は一塊としての扱いなので、単数の"mon"のまま。こうして、ようやく"Je suis le plus grand de ma famiile"と言う台詞が完成する。日本語なら1、2秒で言える簡単な台詞が、フランス語だと30秒もかかってしまう。これでは、日常会話なんて、夢のまた夢。

 取り合えず、この初期段階の"躓きの石"の"壁"を乗り超え、初歩文法編はなんとか終えた。しかし、スムーズな日常会話など、ずっと先な感じがする。どの国の言葉でもそうだが、最低限の日常会話をこなすには、1千時間程度のヒアリングと発音が必要と言われるが、僕はまだ昨年9ヶ月間の100時間程度のヒアリングと発音しかしていない…全然足りない。で、未だに"Je ne parle pas francais bien."なのである。文法編の次は、(少し冷却期間をおいて)日常会話編に挑みたい。そして、イヤホンを耳に差し、またブツブツ言いながら裏通りを歩く"怪しい奴"に変身するのである。

(2008年4月27日記載)


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