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第十九章 最後の決戦

 岩山の谷底に、シリウス人戦士達の歓声の咆哮が響き渡っていた。ほとんど全員が、寝ることなく丸一日喚き続けている。あっちの洞窟、こっちの洞窟、あらゆる洞窟から咆哮が上がり、谷の岩壁に声が反響した。洞窟の中では、岩山で最大のご馳走、渓谷に住む”山兎猫”と、岩山の中腹に巣を作る”岩穴鳶”を火の上に吊るしていた。どちらも、まだ狩ったばかりの新鮮な獲物だ。焼けた所から、彼等は切り取って食べた。
 一番大きな洞窟には、長老の”岩の上に立つ者”や大祭司の”見上げる者”、そして戦士長の”斧を振るう者”と二十名ほどの選ばれた戦士達が、集まっていた。壁の窪みと岩棚には、彼等が仕留めた獲物が飾られている。鈍く光る金属の体が中央に置かれ、腕や足がその下に置かれていた。そして頭が、最も高い岩棚に置かれていた。それらは、食べることはできなかったが、見たことの無いつるつるの表面は、比肩し得る物のない宝物としての価値を持って輝く。そして、何より敵への完全な勝利を意味していた。岩山の偉大な戦士たちは、”黒く深い森の種族”にも”広大なる荒地の種族”にも負けたことはないのだ。そして、新たな天空からの敵対者に対しても、完全なる勝利で報いてやったのだ。この岩山に入り、大神殿を汚そうとする者は、何人たりとも赦さない…それがここの掟だ。
 天空から降り立った敵は、確かに強く手強かった。奴等の体は滑らかで硬く、なかなか倒れなかった。彼等の大いなる岩の神殿も滑らかで硬いが、大神殿は傷付けることはできない。しかし、哀れな彼等は凹み傷つき、そして遂には死んだのだ。あのような不完全な者達が、大いなる岩の使者であるわけがない…そう納得して、”斧を振るう者”は内心ほくそ笑んだ。
 洞窟の中では、選ばれた戦士たちが”斧を振るう者”を称えて叫び、そして踊り狂っている。”斧を振るう者”は思った。”岩の上に立つ者”は、十分に年寄りだ。もう引退する潮時ではないか?今なら、俺がこの群れのリーダーになっても、誰も反対しないだろう。”斧を振るう者”は、今や岩山の種族の英雄なのだ。臆病者の”見上げる者”も、長老が死んでしまえば、すぐに翻って彼を支持するだろう。そんなことを考えていると、突然外から見張りの叫びが聞こえてきた。色々な歓声に混じって、何を言っているのかよく分からなかったが、騒いでいた戦士たちも次第に静かになって、見張りの声に耳を傾けた。
 見張りの戦士が、大声で告げる。
「敵、二つ、来る!」
“斧を振るう者”は、すかさず洞窟の外へ出た。見張りのいる岩棚へ駆け寄り、彼が指差す方向を見やった。頭上に留まる大きな星から二つの星が飛び出て、今それが赤々と燃えて地上に向かってくる。性懲りも無く、奴等はまたやってくるのか。何人来ようと、同じことだ。この岩山を、登らせはしない。二つの流星は次第に燃える事を止めて、鈍い輝きを伴ってこちらに向かってくる。今度の相手は、前より多いかもしれない。”斧を振るう者”は一度洞窟へ戻って、選りすぐりの十九人の戦士を伴って岩山を下り始めた。
 天空からやって来た二つの物体は、前とほぼ同じ場所に降下した。太陽が昇り始め、辺りが明るくなり始める。着陸からしばらくして、物体から全部で六人の敵が大地に降りてきた。”斧を振るう者”は、前回とは襲撃計画を変更した。前回は、岩の麓に近い所で攻撃してしまった結果、一人を取り逃がしてしまった。今度は一人も逃がさないように、登山道の中間地点で襲おう。岩山の外へ出るのは、とにかくまずい。岩山の外は、”広大な荒地の種族”や”黒く深い森の種族”のテリトリーだ。岩山では圧倒的な強さを誇る彼らも、岩山の外へ一歩出たら反対に圧倒的に不利な状況となる。すべて、岩山で勝負をつけよう。敵の数は六人…まあ、余裕で倒せるだろう。

 ロボット達は岩山の麓に辿り着き、慎重に登り始めた。道となっている谷底は暗くて、通常のアイ・カメラでは何も見えず、ロボット達は暗視モードに切り替えた。カスパール二号が先頭を務め、その後ろに五台のロボットが従う。谷は狭く、ロボット達が一列で通るのが精一杯の幅だった。
 静止軌道上のエンタープライズ号内のバルタザール一号から、地上のロボット小隊に連絡が入った。
「岩山の中腹に、シリウス猿人が集結している。赤外線カメラがとらえた点の数は、十八人から二十人ほど。岩陰に入っていてモニターできない者もいるので、確定が難しい。陽がもう少し昇って谷底も十分明るくなれば、高解像度カメラ観測でより詳しい情報を送れると思う。彼等は、麓から三キロの地点から動こうとしない。おそらく、待ち伏せだと思われる。」
「了解、バル。それでは、少なくとも最初の三キロでは、仲間を一人も失わずにすむわけだ。」と、カスパール一号が返答した。
一同は、一定の速度で岩山を進み続けた。一キロの地点を超える頃には、谷底も十分に明るくなり、ロボット達はアイ・カメラを暗視モードから通常モードに切り替えた。軌道上のメイン・モニターも、高解像度カメラにスイッチングされた。メルキオール一号が、待ち伏せしているシリウス猿人達を調べている。バルタザール一号が尋ねた。
「メル、人数は確定できたか?」
メルキオール一号が答える。
「ジャスト二十人だ。」
アメリカ産の軍用高解像度カメラの映像は、シリウス猿人の顔まで判別できるほどだった。猿人達は、全員手に武器と思われる石器を持っていた。バルタザール一号は、再び地表のロボット達に情報を送った。
「シリウス猿人の数は、ちょうど二十人。全員、手に武器を持っている。やはり、間違いなく攻撃を仕掛ける気らしい。」
「了解。他には、シリウス人はいないのか?」
カスパール一号の問いに対して、メルキオール一号が答えた。
「岩山の上の方で、洞窟から出入りする猿人がいくらか見える。彼等は、日中ほとんど洞窟内にいるようだ。シリウス猿人の総数の実体は、まったく把握できない。」
「了解。」
ロボット小隊は、その後しばらく黙ったまま前進を続けた。やがて彼等は、シリウス猿人達の五百メートル手前まで到達した。列の二番目にいるカスパール二号が言った。
「全員、マウス・スピーカーのボリュームを最大限にセット。シリウス猿人の攻撃が始まったら、私の合図で銃撃音、砲撃音、稲妻音、動物の咆哮、及びサイレンを一斉にスタートすること。」
「了解。」と、一同が答えた。
シリウス猿人まであと百メートルと迫った時、軌道上から連絡が入った。
「彼等の半数が、前と同じように岩棚をつたって、君たちの背後へ移動している。退路を絶つ気だ。」
「了解。」と、地上の一同。
あと三十メートルという所で、彼等は突如岩陰から飛び出してきた。斧や槍を振り上げ、大きな咆哮を上げて走ってきた。カスパール一号が言った。
「今だ!」
ロボット達は、一斉にそれぞれのマウス・スピーカーから大音量の音を発した。けたたましい銃撃音に砲撃音、空気を引き裂くような稲妻音やライオンの咆哮、そして非常に耳障りな百三十デシベルの高音のサイレン。シリウス猿人は、度肝を抜かれた。その場にへたりこむ者、その場に立ち止まる者、耳を塞ぐ者。それから一秒もしない内に、全員が岩山の上に逃げ出した。後方から襲おうとした猿人も、蜘蛛の子を散らすように一斉に視界から消えた。
音は谷の岩壁に反響し、けたたましい音の本流となって鳴り響いた。それから一キロ進む間に、シリウス猿人達が彼等一行の前に姿を現すことは、一度もなかった。カスパール一号は、軌道上に報告を送った。
「効果覿面だった。四キロ登った時点で、まだ一人の損傷もない。このまま行けば、全員でドームへ到達できるかもしれない。」
軌道上のバルタザール一号が、これに答えた。
「カメラで、すべて見させてもらったよ。なかなか、爽快な場面だった。彼等を一人も傷つけず、しかも進路を確保できた。あとたった二キロだ、がんばってくれ。」
岩山のロボット一同が答える。
「了解。」

 シリウス猿人達は、何が起こったかまったく理解できず、パニックを起こしながら我先にと必死に逃げた。戦士長の”斧を振るう者”も、あまりに突然の出来事で、恥も外聞もなく他の戦士達と一緒に逃げ出してしまった。六人の敵から遠ざかると、大音響が次第に小さくなり始めた。”斧を振るう者”は、次第に冷静さを取り戻し始め、走る速度を落とした。他の十九人の戦士達は、まだ岩山の上へ戻ろうと必死に駆けている。
”斧を振るう者”は、叫んだ。
「戦士、止まる!」
何人かの戦士達が、恐る恐る後方を振り返って立ち止まった。少しの間を置いて、戦士全員が停止した。”斧を振るう者”は、考えた。彼はついさっきまで英雄だったが、ここで尻尾を巻いて逃げれば”岩の種族”は皆、彼を蔑むだろう。種族の長老になるどころか、これから先、若者達の軽蔑の眼差しを受けながら生きなければならない。”斧を振るう者”は、振り返っている戦士達に言った。
「奴等、音、怖い、無い!奴等、音、強い、無い!大いなる岩、我等、一緒!」
その後、もう一度戦士達を見回して叫んだ。
「大いなる岩、我等、一緒!」
すると、十九名の戦士達が叫び返した。
「大いなる岩、我等、一緒!大いなる岩、我等、一緒!」
戦士二十名は、再び岩山の下方へ向き直り、戦闘態勢に入った。
 ロボット達は、ドームまで残り一キロと迫っていた。軌道上のバルタザール一号から、連絡が入った。
「五百メートルほど先に、猿人達が待ち構えている。そこから二百メートル進むと、ドーム入り口まで広場が広がっている。」
カスパール一号が答えた。
「了解。恐らく、彼等は我々を広場へ入らせないつもりだろう。」
相手はたかだか二十名、なんとかなるだろう。しかし音響の脅しの効果は、無くなったようだ。
「全員、マウス・スピーカー、オフ!」
谷の岩壁に反響していた音が、一瞬で止む。ロボット達は、黙々と岩山の谷を登り続けた。いよいよ最後の試練が迫る。

 ロボット達の前方で、体制を再び整えた岩山の戦士達が待ち構えている。彼等のすぐ後ろは、大いなる岩の神殿だ。絶対に、岩山の種族以外の者に触れさせてはならない。”斧を振るう者”は、戦士達の先頭に立って彼等を待ち構えた。
 やがて、ロボット達の姿が見えてきた。戦士の半数が、再び岩棚の上をつたって、ロボット達の後方へ回った。ロボット達がギリギリまで近づくのを待って、猿人達は一気に攻撃を仕掛けた。
 列の前方のカスパール二号と後方の同三号は、必死にシリウス猿人の攻撃に耐えつつ前進した。もう少しで、狭い谷から広場に出る。
 列の二番目で指揮を取っているカスパール一号が、軌道上のエンタープライズ号と交信した。
「そろそろ狭い谷を抜けて、広場へ出てしまう。広場だと、左右からも攻撃を受ける。防御する何か良い方法はないか?」
バルタザール一号も、メルキオール一号も、軌道上の観測機器のデータから地表の有効な情報を得られていなかった。
「残念ながら、良い手立ては無い。バラバラにならず、全員が固まっていた方が攻撃に耐えられると思う。」
カスパール一号は、答えた。
「了解、全員が固まって、前進する。」
ドームまで、あと数百メートル。ここまで、仲間を一人も失わずに来た。このまま、最後まで行き着きたい。
 ロボット達は攻撃を受けながらも、広場へ出た。狭い谷間では、今ひとつ攻めあぐねていたシリウスの戦士達は、広場へ出ると左右からも攻撃を始めた。ある者は斧を振るい、ある者は短い槍を突き立てた。カスパール一号と、バルタザール二号が左右に展開して、菱形の陣形を取りながら、中のバルタザール三号とメルキオール二号を守りつつ前進を続ける。前後、左右からの猛烈な攻撃は、ロボット達のチタニウム合金のボディすら変形させてしまう。
 先ほどまで新品だったロボット達も、凸凹のカスパール一号と見分けが付かなくなってきた。先頭を守っていたカスパール二号の損傷がもっとも激しく、遂に左手が手首から切断された…彼等は、関節部分が弱いことを見抜いている。続いて、右舷を守っていたバルタザール二号のアイ・カメラが損傷した。カスパール一号が言う。
「あと、二百メートルだ!」
巨大なドームは、目の前に大きく横たわっていて、その全貌を視界に入れるのは不可能だった。カスパール一号は、前進しながらドームの入り口を探した。地球で発見された地下のドームにも、いくつかの入り口があった。この巨大ドームにもどこかに入り口があるはずだ。しかし軌道上の高解像度カメラでは、ドームの入り口を探ることができなかった。 「ここからでは、入り口が見えない。近づいて、岩陰になっている部分も探る必要がある。」
カスパール一号がそう送信した途端、鈍い金属音とロボットが倒れる音が響いた。右舷のバルタザール二号の右足が破壊されて、地面に倒れた。バルタザール二号は、五名のシリウス猿人に囲まれて、完膚なきまでに破壊された。
 バルタザール二号が守っていた右舷を、同三号が引き継いだ。菱形陣形の中にいるのは、メルキオール二号一人となった。軌道上から、追い討ちをかけるようなバッドニュースが入ってきた。バルタザール一号の声だった。
「いまカメラが、岩山の洞窟を出てくる数百人のシリウス猿人の姿を捉えた。広場へ向かっている!今来た道を引き返し、岩山を脱出した方が良い。」
カスパール一号は、シリウス猿人の攻撃に耐えながら答えた。
「いや、今引き返したら、二度とドームに辿り付く事は不可能になる。このまま、前進する。」
ドームまであと百メートルとなった時、先頭のカスパール二号の左腕が根本から破壊され、右腕を捕まれて列から連れ出された。次の瞬間、五名のシリウス猿人に引き倒され、完全に破壊されてしまった。メルキオール一号が、先頭に移動した。ロボット達は、残り四人。もはや全員が、攻撃に曝されている。
バルタザール二号とカスパール二号の破壊に没頭している十名のシリウス猿人が戦列から離れ、ロボット達を攻撃する数が減ったと思ったのも束の間、谷間や岩棚の上から大勢のシリウス猿人が駆けつけていた。広場には、どんどん猿人達の数が増え、溢れんばかりの数となった。それぞれが、手に石器の武器を持ち、ロボットに近づいてくる。
ドームまであと五十メートル。軌道上のバルタザール一号が、叫んだ。
「全員、全速力で引き返せ!」
「いや、もう不可能だ。広場は、猿人で埋め尽くされている。」
と、カスパール一号。多勢に無勢だった。何十もの手がロボット達に伸びてきて、パワーでもっとも劣るメルキオール二号を戦列から引き離した。そして数十の猿人達が、彼を押し倒し石器を打ち下ろす。メルキオール二号は、あっという間に廃品機材となった。あと三十メートル…その時には、バルタザール三号が列から引き離されて、同様に破壊された。あと二十メートル…残りは、カスパール一号と同三号の二人のみとなった。
 軌道上のバルタザール一号とメルキオール一号…否、同型のロボットはもはや彼等しか残っていないので号数は関係ない…は、その光景をなすすべもなく見ているしかなかった。シリウスの戦士達が、こんなに大勢いようとは!
 ドーム面まで、あとたったの十メートル。後方を守っていたカスパール三号も彼等の手で引き離され、押し倒され、容赦なく破壊された。とうとう、カスパールの同型ロボットもいなくなってしまった。残りは、あと彼一人。そして、遂に彼はドームの壁面に辿り着いた。ドームに、手を触れる。入り口らしきものは、そこには無い。右を見る。入り口は、どこにも無い。左を見る。やはり、入り口は無い。
 彼は、雨霰と降り注ぐ石器の打撃の中、後ろを振り返った。百名、いや二百名以上のシリウス猿人達が、この広場に集まっている。ある者達は、仲間のロボットの残骸を未だに破壊していたが、残りの大勢はカスパール一号…もはや号数は関係なくなったが…に向かって叫び、近くの者が石器を彼に振り下ろしていた。気が付けば、カスパールの左腕ももはや無かった。右足も、かなりやられている。どうやら、もう動けそうも無い。彼は、足を投げ出しそこに座り込んだ。
 カスパールは、座りながら最後の抵抗を試みた。マウス・スピーカーから、大音量のマシンガンの銃撃音を発した。あっという間に、猿人達は彼の周りから飛びのき、半径十メートルの空間ができた。しかし、たった一匹逃げようとしない猿人がいた。その体の大きな猿人の手には、斧が握られていた。そして、彼はそれを大きく振り上げた。

 “斧を振るう者”は、勝利を確信していた。広場へ出てから二体の敵を倒し、残り四体。そして、洞窟から仲間の戦士三百名が駆け着けた時点で、勝利の確信は絶対的なものへと変わった。一体、また一体と敵を倒し、遂には残り二体となった。確かに丈夫な奴等ではあったが、しょせん岩山の戦士に敵うわけはないのだ。二体のうちの一体も倒し、残りは一体。奴は、ドームに触れると言う大罪を犯したから、より激しい攻撃を加えてやろう。次の瞬間、残りの敵は再びあの大音響を使った。仲間は、驚いて飛びのいた。しかし”斧を振るう者”は、二度と同じ手を食わなかった。あの大音響には、我々を傷つける殺傷力は「何一つ」無いのだ!仲間が、飛びのいて逃げようとする中、”斧を振るう者”だけが堂々としていた。これで、種族内での彼の株はもっと上がるだろう。もう、あの老いぼれ長老の出る幕はないのだ!そして、この憎む敵の命もこれで終りだ!彼は、全ての思いを込めて、斧を振り上げた。
 正にその時、地面を揺るがすような鬨の声が聞こえてきた。岩山の下から、何か大勢が登って来るような声と音だった。いつも斥候や見張りを務めている戦士が数人、”斧を振るう者”の所へ駆けて来た。
「荒地、奴等、来た!」
“斧を振るう者”は、その一言で全てを悟った。”広大なる荒地の種族”が、攻めて来たのだ!この”大いなる岩を汚す者”との戦闘に気を取られている隙に、荒地の種族が攻めて来たのだ。奴等もまた、天空の輝く星の異変を見ていたに違いない。また、今までの成り行きも、ずっと見ていたに違いない。そして、この混乱に乗じて岩山を登って来たのだ!狭い谷間でなら、なんなく彼等を追い払える。しかし、この広場となると話は別だ。平地で、”広大なる荒地の種族”に勝てる種族は、まずいないだろう。
 “斧を振るう者”は、目の前の獲物を始末するのは後回しにした。まずは、荒地の種族を谷間で阻止しなければならない。この動けなくなった獲物の料理は、その後でゆっくりとしてやろう。彼は、戦士達に指示すると、一斉に岩山を下りて谷の道へと向かった。