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第二章 大統領のメッセージ

 五月のサンタ・マリアでの極秘会議から、三ヶ月後。NASAの技術顧問管理官、リチャード・ロン博士が、日本行きのジェット機に乗っていた。同行するのは、ジョン・グッドマン上院議員と、国防省事務官のジェームズ・イングラム氏、そして宇宙長期開発計画委員会所属の事務担当者が一名、他にSPが三名。ロサンゼルス国際空港を出発したのは、十八時過ぎだった。既に十九時を回っている。
 あの会議以降、宇宙長期開発委員の責任分担が明確化された。シリウスへの恒星間飛行計画は、NDP(ニュー・ダイダロス・プロジェクト)と名付けられた。プロジェクトの総合責任者は、宇宙長期開発計画委員の委員長マイケル・コリンズがそのまま兼務することとなり、計画が総合的に滞りなく進むための交通整理役を果たす立場となった。実験船をシリウス航行船に改造するための技術的な責任者は、NASAの宇宙技術の専門家ジェニファー・ローランド博士。宇宙船開発情報全体を管理するのが、国防省の上級事務官マイケル・ドノバン。実験船改造の予算を適正に管理し、議会との連絡を行うのがケニー・マクギリス上院議員。
 一方のロボット開発の技術的な責任者には、リチャード・ロン博士が就いた。ロボット開発情報を管理するのが、国防省の上級事務官ジェームズ・イングラム。そして、ロボット開発の予算を適正に管理し議会との連絡を行うのが、ジョン・グッドマンの役目となった。
 あの会議以来、グッドマンの生活は激変した。この三ヶ月間、不眠・不休と言っても良いほどの働きである。大統領の正式発表があるまではシリウス関連情報は国家機密のままだったが、彼は許容範囲内で政治家や官僚たちとコンタクトを取り、水面下の根回しを続けていた。この間、政府もシリウス関連情報を全世界に発表した場合の経済市場や各国市民の反応のシュミレート、その後の恒星間飛行プロジェクトへの各国の参加の要請等について検討を続けていた。そしていよいよ、正に今日、ロンやグッドマンがジェット機で日本へ向かっているこの時間に、大統領から発表があるはずだった。
 機内アナウンスがあり、大統領の特別メッセージが放映される旨を乗客に伝えた。グッドマンも、ロン博士も、イングラム事務官も、リラックスしつつもその発表を神妙な面持ちで待った。機内が暗くなり、ハイビジョン・スクリーンがONになる。アメリカ合衆国大統領、チャー.ルズ・M・ヴァンペルトが画面に登場した。
「アメリカ合衆国市民の皆さん、そして全世界の皆さん。アメリカ合衆国第四十八代大統領のチャールズ・ヴァンペルトです。本日、私は皆さんに重大な発表をいたします。今回の発表に先立って、合衆国政府は各方面への影響を検討・考慮した上で、本日ようやく発表できる運びとなりました。」
 チャーリー大統領は、紺のスーツに身を包み、真っ赤なネクタイを締めていた。彼は、威厳を保った低い声で語る。発表されるショッキングな内容を考えた場合、こういった安心感を与える語り口調は特に大切で有用だ、とグッドマンは評価した。
「昨年二〇二〇年の七月、ニホンのアオキガハラと言われる場所で、異星人の遺跡が発見されました。我々はその後綿密な調査を重ね、その遺跡が八十万年前の物である事、異星人がシリウス星系から来た事、彼らが地球だけでなく付近の星々をも探査していた事などを解明しました。これらの重大な事実を知った今、我々はこれから何をすべきなのか?専門家の知識を結集して、我々は検討を重ねて参りました。その結果、シリウス星系への恒星間飛行計画が出来上がりました。残念ながら、現在の技術では有人宇宙船での恒星間飛行は不可能です。その代わりに、我々は最先端技術を結集したロボットを乗せて、シリウスへ送り出す計画を練りました。
 建造中の最新鋭の宇宙船は、光速の五十%以上の速度を出すことを目標に開発しており、地球とシリウスとの間を四十年かけて往復する予定です。もしシリウス人文明がまだ存在していたら、ロボットたちが彼らとのコンタクトを果たして、その後地球へ帰還するでしょう。もし彼らの文明が滅んでしまっていたら、彼らの遺跡を調査して地球へ帰還するでしょう。いずれにしても、この計画は人類始まって以来の最大のプロジェクトです。我々はこの計画を、かつて存在した恒星間飛行計画から名前をもらって、ニュー・ダイダロス・プロジェクト…NDPと名付けました。NDPは、人類の未来へ向けた壮大なプロジェクトなのです。我々は、未知のフロンティア領域への門口に立っています。この時代に生き、皆さんと共にこの大いなるチャレンジに挑めることを、アメリカ合衆国大統領として、たいへん感謝しております。地球市民の皆さんに、平和と祝福がありますように。」
 合衆国大統領の特別メッセージは終了し、その後NDPの統括責任者マイケル・コリンズが代わって壇上に立ち、記者達の質問の嵐を受けることとなった。グッドマンは、ホッと胸を撫で下ろした。大統領のメッセージは、上々だったと思う。今まで秘密裏に動いていたが、これからは堂々と活動できる。その第一歩が、日本企業との交渉であった。グッドマン達を乗せたジェット機は、日本へ向かって飛び続けた。