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第四十章 約束の成就
その日の夜9時に、リバイバルショップに、大船百合香、山田正一郎、戸田秀夫、大竹信の四人が集まってきた。坂野強と大森臨の商売が、営業黒字を出したお祝いのために駆けつけたのである。坂野と大森は、急遽二階のダイニングに、簡単なパーティー会場をセッティングした。
大船は、この日のためにシャンパンとグラスを用意していた。用意したシャンパンは、大船の思い出のワイン、イエローラベルのブーブクリコ。大船は、シャンパングラスにブーブクリコを注いだ。一同がグラスを手に持つと、大森と大船が、坂野に乾杯の挨拶を求めた。坂野は、照れくさそうに乾杯の辞を述べ始めた。
「この数ヶ月、我武者羅に突っ走ってきました。この一年を振り返ると、色々とありました。街を彷徨っている時に大森さんに出会って救われ、大船さんには筆舌に尽くし難い支えをいただき、そしてここにいる皆さんには暖かい励ましと援助をいただき、この店をオープンする事ができました。当初、大船さんと『7月に利益を出す』と約束した時は正直不安でしたが、今月、遂に利益を出す事ができました。本当に、皆さんのおかげです。感謝を込めて、乾杯!」
「かんぱ~い!」
一同は乾杯した。
この6人はお互いの過去の苦労を、語らずともよく知っている。一同はその特別な感情を共有し、深い絆で結ばれていた。その夜、6人の会話は尽きる事無く続いた。日頃は無口な運転手の戸田も、珍しく皆の会話に加わっていた。
みんなの話しが盛り上がっている最中、大船百合香は坂野強の隣にそっとやって来て言った。
「坂野社長、覚えておられますよね。『坂野社長が独立して、商売で利益を出した暁には、私のお願いを一つ聞いてもらいます』って言う約束」。
「うん、もちろん覚えているよ、大船さん」。
そう坂野が答えると、大船は言った。
「それじゃ、私のお願いを聞いてくださいね。耳を貸してください」。
坂野が耳を大船の口に近づけると、彼女は皆に聞こえないように手で口を覆って、そっと坂野に囁いた。坂野は大船の言葉を聞くと驚いた表情をして、彼女の顔を見つめた。大船は、笑った。それを見て、坂野も笑みを返した。
大船が坂野に何をささやいたのかは、二人以外は誰も知らない。しかし、来年ニューミレニアムの桜の咲く頃には、きっと皆の知るところとなるだろう。