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第三十九章 開店!
三日間のプレオープンは、大成功の内に終了した。端材製の写真立てと再生ハガキの名画セットも、用意しておいた千セットをほぼ配り終え、倉庫内の売れそうなめぼしい回収品も底をついた。三日間の総売り上げは43万円。開店ご祝儀的な上出来の売上高ではあったが、それは不安を抱えていた坂野と大森にはたいへんな自信をもたらした。大船と大竹に対しては、ささやかながら小額のバイト料も支払う事ができた。
5月1日の本開店を目指し、翌日から坂野はまた営業回りに出た。本営業のためには、もっとたくさんの品を回収して、修理・保全し、ストックしなければならない。
リバイバルショップの噂は、主婦の口コミで広がっていった。単なる廃品回収販売業ではなく、お洒落なリサイクルショップとして認知されつつあった。捨てようと思っていた不要で邪魔な品を、イケメン社長がお洒落な車で回収しに来てくれ、しかもお金まで払ってくれる。主婦としては、願ったり叶ったりである。こうして良い評判が徐々に広まり、店の倉庫の棚はどんどん埋まっていった。しかし坂野は、納得がいく修繕や塗装がなされるまでは、決して商品を店内には陳列しないつもりだった。
坂野と大森の店の弱点は、家電製品であった。回収した中古の家電製品は経年劣化で壊れやすくなっているし、実際故障している物も多々あった。自店の商品の保証と修理には、家電に強い業者との連携が必要である。自分達でそう言った人間を雇えるようになるまでは、業者のバックアップが絶対的に必要不可欠であった。これらの製品を修理してくれる業者を、坂野は根気強く探した。
その努力の甲斐もあって、坂野は隣の区に家電に強いリサイクル業者を見つけた。交渉の結果、坂野達の営業方針に好感を持ってもらえて営業テリトリーも重ならない事から、快く協力してもらえることになった。特に冷蔵庫や洗濯機に強い業者で、坂野は一万の軍勢の味方を得た心境だった。
そして、いよいよ運命の開店日、5月1日を迎えた。この日は、再び大船と大竹が店の手伝いに来てくれた。初日は、プレオープンと同様に大成功を収めた。
プレオープン日や開店初日が例外的な盛況である事は、坂野も大森も十分に承知していた。5月も二週になると、来店客数は徐々に減っていった。5月の売り上げはそれなりにあったが、初期費用である大量の廃品回収に要した原価等が響いて、結果的に営業損益は完全に赤字だった。しかしその一ヶ月間で、坂野と大森は顧客の嗜好の傾向を把握し、またコンピューター操作にも慣れた。
6月は、店の存在自体が近隣に認められて売り上げは善戦したが、もう少しの所で営業黒字には届かず、残念ながら赤字であった。
そして7月を迎えた。本営業開始から、3ヶ月目に突入。坂野と大船が「営業利益を出す」と約束した月である。
坂野は大森と話し合い、季節に合わせた販売品目に次々変えていく戦略を立てた。お客様に飽きられないように、いつ来店しても何かしら新しいワクワク感を感じられる店舗演出をしたいと考えたからである。夏本番を目前にした7月は、扇風機の販売を前面に押し出すことに決めた。
より繊細な商品の塗装のためエアーブラシの機械を一セット購入し、倉庫の隅にカーテンで覆った塗装ブースを作った。日中の営業を終えると、坂野は扇風機の本体やカバーを丁寧に塗り始める。色合いで涼しさを演出するため、下部を新緑のグリーン、上部をスカイブルーに塗り分ける。どの扇風機もとても中古品とは思えないほどの、なかなかに美しいカラーリングに仕上がっていった。
7月は、この工夫が効を奏した。扇風機の売れ行きは好調で、在庫を確保してかつ塗装するのが追いつかないほどだった。そこで、空き時間を使って大森も塗装の練習を始めた。
7月31日の夜。営業時間を終えると、坂野と大森は協力してパソコンに未入力分の伝票データの入力を始めた。収入と支出を、一つずつ入力していく。すべてのデータ入力を完了すると、胸の高鳴りを抑えながら、損益計算表の結果を見る。売上金額から、仕入れ原価額、家電修理等の外注費、そして人件費、家賃、水道光熱費、通信費や事務費等の一般管理販売費等を差し引いた営業利益の項目に、坂野と大森は視線を注いだ。
「やったぁ!」
坂野と大森は、ほぼ同時に叫んだ。二人は、目を合わせて喜んだ。
営業利益は、85,000円!決して多い利益ではなかったが、確かに黒字である。リバイバルショップは、本開業から僅か三ヶ月で営業黒字を叩き出した。プリンターで損益計算表をプリントアウトし、二人はもう一度その数字をじっくりと眺めた。
坂野はその表を眺めながら、すぐさま仕事中の大船百合香に電話をかけた。
「大船さん、やりましたよ!7月の営業損益は、黒字です!」
大船も電話の向こうで喜んだ。
「おめでとうございます、坂野社長!」
ちょうど一年前の夏、坂野強はホームレス生活を送っていた。しかし、半年前に大船百合香と再会してから、彼の人生は再び輝き始めた。月は、太陽の光を反射することでしか輝くことができない。この半年間、坂野は大船の輝きに照らされ、自らも輝く事ができた。しかし、月は今、自らの光で輝こうとしていた。