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第三十七章 予期せぬ贈り物

 翌4月3日。坂野と大森が店内で準備をしていると、今日も朝早くから大竹が手伝いに来てくれた。その30分後、店の前に車が停車する音がして、大船が店内に入ってきた。
「おはようございます、坂野社長。おはようございます、大森さん、大竹さん」。
「おはよう、大船さん」。
4人は、挨拶を交わした。
「車の音がしたけれど、大船さんが運転してきたの?」
坂野がそう言うと、大船は満面の笑みを浮かべて言った。
「坂野社長、外に出てみて下さい!」
坂野は、言われるがまま店の外に出た。大森と大竹も、興味深そうに一緒に出てきた。坂野は、わが目を疑った。
「ミニ・クーパー?姉ちゃんの?」。
どう見ても、それは坂野のかつての愛車、ブリティッシュグリーンのミニのようである。ホイールも、フォグランプも、ルーフキャリアーも、彼が失った当時の姿のままだった。大船が、坂野にミニの鍵を渡しながら言った。
「昨日言っていたプレゼントです。大船百合香大学卒業記念の贈り物です!
競売の落札者を探し当てて、交渉しました。ものすごいミニのマニアで、ガレージにミニを3台も所有している方でした。このミニの事情を説明したら、競売価格と同額で、快く譲ってくれました。たいへん丁寧にメンテナンスをされていて、おかげでこんなにピカピカです!」
「信じられない…ホントにありがとう。もう二度と、乗れないかと思っていた」。
坂野は喜びで感極まって、三人の前で涙を抑えるのがたいへんだった。大船は、続けて言った。
「商売で車も必要ですよね。ルーフキャリアーに、ある程度の廃品も乗せて運べます。利益が出てトラックを買えるようになるまでは、ぜひこれでがんばってください!それに店の横にミニが置いてあったらすごくお洒落だし、きっと店のイメージアップにつながりますよ」。
坂野は、ミニを眺めながら言った。
「ちょっと、これで一回りして来ても良いかな?」
店の前の三人は、同時に頷いた。
坂野はミニに乗り込み、イグニッションにキーを差し込んだ。エンジンをスタート。懐かしい響き。坂野は、ゆっくりとアクセルを踏む。ミニは、三人に見送られて発車した。失った大切な物が、また一つ戻ってきた。