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第三十五章 桜の木の下で

 翌日、いよいよ大森の退院の日がやって来た。
 午前中の最終診療を終え、午後二時過ぎに大船と坂野に伴われて、大森は病院を出た。三人は、タクシーに乗った。大森は、とても嬉しそうにお礼を言う。
「坂野さん、大船さん。本当にありがとうございました。年金を受け取れるのは七月なのに、四月から屋根のある所で暮らせるなんて、夢のようです」。
坂野も、微笑んで言った。
「大森さん、実は僕もなんですよ。夢じゃないかと疑っているんです」。
それを聞いて、より一層大森の顔がほころんだ。大森は言った。
「あっ、そうだ。公園に寄ってもらえないかな、神田川そばの…」。
「えっ?何故ですか?」
と、大船が理由を尋ねた。大森が答える。
「坂野さん、覚えているかなぁ…昨年の約束なんだけど。春になったら公園で桜を見ようって言う約束。今、ちょうど咲いている頃だから。新しい我が家に行く前に、ぜひ桜を見たくて…」。
こうして一行は、公園に寄り道をする事になった。懐かしい公園に着くと、タクシーを待たせて三人は降りた。公園には、見事な桜が咲いている。午後三時を過ぎていて既にホームレスの人々の姿はなかったが、何人かの営業マンがベンチで休憩していた。
そのサラリーマン達に混じって、見慣れた人物が桜の木の下のベンチに座っていた。神田川のキリストこと、大竹信である。坂野は、大竹に駆け寄った。
「大竹さん!」
大竹は驚いたように頭を上げ、声の主の方に顔を向けた。
「坂野さんじゃないですか!久しぶりですね!」
坂野のすぐ後ろから、大森と大船もやって来た。
「あれ、大森さんも!よかった!二人とも、揃って年末頃に姿を消したので、凄く心配していたんですよ!」
坂野は、申し訳なさそうに答えた。
「すみません。入院とか、色々あって…。もっと早く来れば良かったですね」。
大竹は、言葉を継いだ。
「そちらの、美しい女性の方は?」
そう言われて、坂野は双方にそれぞれを紹介した。
「こちらは私の古くからの友人で、大船百合香さん。OLをやっています」。
「そしてこちらは、ここでホームレスの方々にお弁当と福音を届けている大竹信さん」。
二人は、挨拶を交わした。
「初めまして、大船さん」。
「初めまして、大竹さん」。

 坂野は、その時初めてある事に気がついた。他愛の無い、どうでも良い事だが。
「あれ?大竹さんに、大森さんに、大船さん…。三人とも、苗字に大の字がついているな!そうか、だからみんな心が大きいのかな!?」
それを聴いて、他の三人は顔を見合わせた。坂野の大切な友人である三人の良きサマリヤ人達が、桜の木の下で仲良く笑った。