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第三十二章 手 術

 1月後半の土曜日、坂野は大船と二人で、大森の見舞いに行った。その時に、大森は坂野に言った。
「もう十分に体調が戻っているし、肺炎は十分に良くなったと思うんだけどなぁ。なんで退院できないんだろ?坂野さん、先生からなんか聞いている?」
「後で、先生に聞いてみるよ」。
坂野は、そう答えた。

 その帰り道、坂野と大船は歩きながら話した。
「大森さんに、本当の事を話した方が良いのかな?先生は、肺癌は治療が難しい癌の一つだけど、大森さんのは小細胞肺癌で局部的な癌だから、手術すれば完治の望みが高いって。術後の投薬治療は、必要だそうだけど」。
大船は言った。
「難しい問題ですね。でも、大森さんには、本当の事を言うべきじゃないでしょうか?これから、ずっと大森さんとはパートナーとしてやって行く訳ですし。私たちが、しっかり大森さんの心の支えになれば良いと思います。手術とか、これから続く長い入院の嘘の言い訳なんて、たぶん無理です。それに坂野社長は、嘘付くの凄く下手ですから…」。
「そっか。そうだな。明日、大森さんに話そう」。

 翌週、大森の担当医は、本人と坂野、そして大船を交えて、今後の治療の予定を話し合った。二月半ばまで各種検査をする。そして二月の第三週に手術。その後、投薬治療。そして予後の状況次第ではあるが、3月末には一応退院の予定。そう言う事になった。手術や治療に関わる3百万円に上る費用のことは、大森の心の負担にならないように「心配ない」とだけ告げた。

 2月に入り、検査も無事に済み、手術のための体力も十分と判断されて、予定通りに手術が行なわれた。

坂野は手術室の前で、手術の成功を祈った。再び、名も知らぬ神に祈った。手術が終わり、執刀医が手術室から出てきた。坂野は、声をかけた。
「あの手術は、どうでしたか?」
執刀医は答えた。
「成功ですよ。問題ありません」。
「ありがとうございます!」
坂野は執刀医に対してだけでなく、見えざる神にも感謝した。