太陽と月のハーモニー入口 >トップメニュー >ネット小説 >ハーモニー >現ページ

第二十五章 グリーン&ピンク

 翌朝、すっきりした気持ちで坂野は目覚めた。ずっとモヤモヤしていた気分も、すべて吹き飛んでいた。そしてその日から、坂野の新たなホームレス生活がスタートした。金のない坂野は業者から荷車を借り受け、ダンボール集めを開始した。
 八月が終わり、九月に入った。まだ残暑が厳しかったが、彼も日中の暑さへの対処法を覚え、また夏の暑さそのものにも慣れてきた。ダンボール回収で少しずつお金を稼ぎ始めた。荷車のレンタル料支払いや食費で多少の支出があったものの、百円ショップで買った黄色い財布には、千円札紙幣が既に二枚入っている。防水処理の施された安いバックパックも買い、着替えやタオルなどを入れて背負った。
 食費の支出はなるべく抑えた。親切なパン屋のおかみさんからは、食パンの耳を無料で分けてもらえた。彼は瓶入りのジャムを買い、朝食や夕食にパンの耳にジャムを塗ってを食べた。収入が得られた日には、スーパーで安売りのカップ麺や真空パックご飯、レトルトカレー、量のあるお菓子などをまとめ買いした。

 坂野は街中を廻っているうちに、あることを思いついた。ゴミ捨て場には、まだ使えそうな家具や家電なども捨てられている。それを、何とかできないものだろうか?テレビやビデオデッキを修理する技術は彼にはないが、ちょっとした小物や家具なら彼にも何とかできるかもしれない。そこで、彼はまだ使えそうな物を集め、荷車に積んでいった。

 坂野は、街中の工具店で1,200円払って、水性ペンキの小缶を二色と刷毛を二本買った。荷車には、ゴミ集積場から集めてきた、収納ボックス、スリッパ立て、折りたたみテーブル、スツールが積んである。彼は、それを荷台から下ろし、ダンボールの上に並べた。

 黄緑とピンクのペンキ缶を空け、牛乳パックの上半分を切り取ってそこに水を入れ、真新しい刷毛を濡らし、そして家具のペンキ塗りを開始した。ただ塗るのでは面白くないので、どの家具も二色で塗った。収納ボックスの外側を黄緑で塗り、中の棚板はピンクで塗った。スリッパ立ては、外側のフレームを黄緑で塗り、スリッパを挿す棒と支柱をすべてピンクで塗った。折りたたみテーブルは、テーブル面を緑で塗り、脚をピンクで縫った。スツールも同じように、座面を緑で、脚をピンクで塗り分けた。
 塗装を終えた四つの家具を見ると、自分で言うのもなんだが、なかなか良い出来に思えた。さて、次はこれをどこで売るかが問題である。

 区の掲示板を見て、毎月フリーマーケットが開催されること、次回は一週間後の日曜日に区民会館の駐車場で行なわれることを知った。出店料には千円かかるものの、彼はフリーマーケットへの参加を決意した。道端に勝手に店を広げて、地元の"地回り"に因縁を吹っ掛けられるよりは増しだろう。

 一週間後のフリーマーケットの日がやって来た。彼はブルーシートを広げ、そこにテーブル、収納ボックス、スリッパ立て、スツール、その他この一週間で新たに見つけて塗装しまくった品々を並べた。穴の開いたジーパンを履いた若者が、彼の店の前で立ち止まった。
「おお、面白い!全部、グリーンとピンクなんて、センス良いじゃん!叔父さん、アーティストかなんか?」
坂野はどう答えようか迷ったが、ホームレスと言うのも躊躇われて、若者の問いに肯定で答えた。
「まあ、そんなもんですよ。ペインティング・アーティスト…一つどう?」
「今、千円しかないんだけど、そのボックス買える?」
「いいよ。どうぞ」。
坂野は若者に収納ボックスを渡し、若者は坂野に千円を支払った。リサイクル廃品の初売り上げ!

 みんなが、彼の店の前で立ち止まった。何せ、すべての品々がきれいに黄緑とピンクに塗り分けられているのだから、嫌が応でも人目を引いた。さながら、坂野ブランドとも言えそうなカラーリングである。
今度は、ある中年男性が立ち止まって、彼に話しかけた。
「きれいだね、これ。トータルカラーコーディネートの家具なんて、斬新なアイディアだな!フリーマーケットでやるなんて、あんた、面白いねぇ~」。
その中年男性は、トータルでカラーコーディネートされてないと意味ないからと言って、テーブルやスツールやスリッパ立てを含め、五点もまとめて買ってくれた。なんと一万円も支払ってくれたその男性は、帰り際に言った。
「この色で家具揃えるの楽しそうだから、気が向いたらまた出店してよ。こっちも気が向いたら、また買うよ」。
そう言って、男性は両手に家具を抱えて帰っていった。
予想に反して、午前中に彼の用意したものはほとんど売れてしまい、午後には最後の一点も売れてしまった。最後の品は、黄緑とピンクに塗り分けられた四角いゴミ箱だった。

売るものが無くなった彼は、早々に店を畳む事にしてブルーシートを片付けた。一日の売り上げを数えた彼は、その稼ぎを見て驚いた。なんと23,000円!ビギナーズラックか?

翌日、彼はダンボール集めの仕事を廃業し、彼自身の新たな仕事を始めた。