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第十五章 突然の訪問

 晩秋の午後、初老の女性が一人、坂野の会社を訪ねてきた。聞けば、自分の父の姉だと言う。つまり、彼の叔母だ。名前は、小池由利子(こいけゆりこ)。女性は応接室に通され、坂野はそこで彼女に会った

小池と言う女は、坂野に言った。
「私の兄が出て行ってから、私達はずっとお前達の事を心配していたんだよ。私の父と母は、あっ、つまりお前の祖母と祖父と言う訳だけど、死ぬまで孫に会いたがっていたんだよ。ただ、あの女が、ああ、お前の母の事だけど、絶対に孫に会わせなかったんだよ。本当はあの女が亡くなった時、引き取って育てたいと思っていたのよ、ずっとね」。
彼は、その発言を不快に思った。会った事も無い女性に、"お前"なんて呼ばれる筋合いは無いし、母のことを"あの女"なんて呼ばれたくない。
「母の事を、悪く言わないでほしいですね。それにそう言う事は、もっと前に言って欲しかったです。姉と僕がどれほど苦労したかなんて、貴方には絶対に分からないでしょうね。で、今日の御用は何なのですか?私も、そうそう暇な身ではないので」。
女は、躊躇いがちに言った。
「いや、そのね。実は、夫の事業に資金がちょっと入り用でね。いや、そんなに大した金額じゃないんだよ。お前に取っちゃ、端金だと思うけど。ほんの一千万ほどね…貸してもらえればと思って…。一千万が無理なら、半分の五百万でも良いんだよ!もちろん、ちゃんと返すつもりだし…」。
坂野は、久々に腸(はらわた)が煮え繰り返った。
「小池さん。エステ・サカノは、金融機関ではありません。そう言ったご用件は、銀行に相談してください」。
女性は、憤慨して語気を強めた!
「なんだよ!偉そうに!親戚だと思って、せっかく訪ねてきてやったってのに!やっぱり、あの女の子供なんて、ろくなもんじゃなかったわ!」
坂野の怒りはピークに達していたが、彼は努めて冷静に対応した。
「すみません、小池さん。私には、家族も親戚もおりません。お引き取りください。これ以上お騒ぎになるのでしたら、警備の者を呼びます」。
「はん!言われなくたって、帰るよ!一人でくたばっちまえ!」
女は捨て台詞を残して、去った。

坂野は、静かに仕事に戻った。