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第十二章 百合香!

 8月に入り、大船もエステ・サカノの仕事にだいぶ慣れてきた。今までは人見部長や山田部長の後を付いて廻っていただけだが、今日はいよいよ坂野社長との動向である。言わば、秘書見習いとしての実践だ。

 大船は、生まれて初めてメルセデスベンツに乗る。後席には、坂野社長と人見部長、山田部長が座り、大船は助手席に乗り込んだ。大船は、運転手に挨拶した。
「初めまして。大船百合香です。よろしくお願いいたします!」
「運転手の戸田秀夫です。よろしく、大船さん」。

 メルセデスは走り出し、関連会社や支店を廻った。そして、そろそろお昼の時間。社長の坂野が、後席から言った。
「おい、百合香!」
大船は、びっくりした。苗字じゃなくて、下の名前で呼ばれた。午前中に、何かミスをしたのだろうか?社長に怒られるのだろうか?
「は、はい!」
「今日は、百合香の外回りデビュー記念日だから、お昼は百合香の食べたいものを食べに行こう!何が、食べたい?」
「はい、お寿司が食べたいです!」
「そうか、寿司か!よし、今日は寿司にしよう!」
そう言って、メルセデスは寿司屋へ向かった。

 寿司屋でお昼を食べ終えると、運転手と坂野社長と人見部長は駐車場のメルセデスに戻っていった。山田部長は会計を済ませるためレジに並んでいたので、大船も一緒に並んでいた。並んでいる時に、山田部長が言った。
「車の中で、社長が大船さんの事を、"百合香"って呼び捨てにしただろ?」
「はい」。
「僕も人見も、今は下の名前で呼ばれているけど、昔は苗字で呼ばれていたんだ。社長は自分で心を許した者、自分が認めた人間に対してしか、下の名前で呼ばないんだ。つまり、大船さん。君も社長に認められたって事だよ」。

 山田は支払いを済ませると、暖簾を分けて店を出て行った。山田部長の言葉を聞いて、大船は寿司屋の入口でしばし呆然としていたが、山田に呼ばれて我に返り、車の方へ走った。