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過去との対峙:過去を人前で語る時に  (2017年4月18日記載)

 今朝、仕事の準備をしながら小学生の頃のことを想い出した。他人に初めて話す。

 とある夏、友達と地元の夏祭りに行った。細かいお金がなかったので、半年以上大事に取っておいたお年玉の1万円札と小銭をお財布に入れて、みんなで楽しみに出かけた。
 ある屋台で買おうとお財布を出したら、テキヤの若い兄ちゃんが
「その財布、貸してみ!」
と言って僕の手から財布を取り上げて、後ろを向いて一万円札をすぐに引き抜いてお財布を返した。お財布には、僕の一万円札はなかった。
「お兄さん、僕の一万円とった!」
と恐る恐る言うと、彼は言った。
「何言ってんだ!取ってねえよ!因縁つけんのか、てめえ!」
といきなりすごんできた。 僕も友人たちも、怖くて何も言えなかった。周りの大人達も見て見ぬふりをきめたようだ。
 しばらくして、テキヤにもう一人男が来た。先ほどの若いチンピラが、その男に言った。
「アニキ、見てください!もう、一万円稼ぎましたよ!」
と言って、僕の一万円札を伸ばして兄貴に見せた。 兄貴分は、何も言わなかった。そんな短時間で、1万円を稼げるはずはないと兄貴には分かっていたはずだ。現在のように、保護者の見回りもなく、警官の巡回も少なかった時代のことだ。 僕らは恐怖で何も言えず、祭りを楽しむどころでなくなり、すごすご帰途についた。友人たちは、「お父さんやお母さんに言った方がいいよ」と言ってくれたが、小学生には初めて体験するヤクザが怖すぎて、結局親にも言えなかった。夏の祭りは、それ以来怖くて行けなくなった。
(※注:誤解のないように書いておきますと、50年前のテキヤと今のテキヤは違います。現代は、ほとんどがまっとうな商人です)。
 以来、大人になった僕は、見て見ぬの振りのできない人間に成長した。電車内で暴れている男を羽交い絞めにして車外に放り出し、盗撮している男をつかまえてデータを破棄させ、電車内でタバコを吸っている高校生の集団に注意し、レストランで因縁をつけている客を諭す…そんな大人になった。それが良いことなのか、悪いことなのか、自分でも良く分からない。喧嘩なんて弱いし、僕が最も苦手とする行為なのに、刺されない事を願いつつ、毎回勇気を振り絞っている。

 時折、いろんな場面で、改心した人の話を聞く。男性なら誰でも言いがちな「昔、俺悪かったんだよ~」的な「昔悪かった自慢」な笑い話し程度の事ではない。
 暴走族や暴力団だった人が、心を入れ替えて更生したと言う類のお話しで、(時には語る本人の意思に反して)メディアで度々美談扱いとなる。
 改心したのは、それはそれで素晴らしいことである。今後も、まっすぐに生きてほしいと心より思う。
 だが、それを講演会や人の面前で語る時には、次のことも覚えていてほしい。あなたは、もうすっかり忘れてしまったかもしれないが、たくさんの苦しめられた人々がいたことを。
 暴走族の行為で、安眠を妨げられた人、事故にあった人、犯罪に巻き込まれた人がいたかもしれないことを。
 暴力団の行為で、今も恐怖に襲われている人々がいるかもしれないこと、家庭や人生を滅茶苦茶にされた人がいるかもしれないと言う事を。

 子どもの私からなけなしの1万円を奪った少年も、もう60歳くらいだろう。おそらく、私にした行為など覚えていないだろう。だが私は、50年後の今も悲しく切ない強烈な子ども時代の記憶として刻まれている。その時の男が、更生しているのか、そのままヤクザの道を邁進したのか知る由もないが、更生しているのであればまっすぐに進み、人様のために役立つことをしてほしいと切に願う。