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メイトメア・ビフォア・ライジング   (2006年10月22日記載)

 僕は、夢をよく見る。しかも困った事に、見る夢の99%が悪夢なのである(※正確には、朝起きた時に覚えていた夢の"99%")。ヒーローになっている夢、美人が登場する夢、おいしいものを食べている夢、スーパーカーに乗っている夢、そんな夢はまず見ない。いつから悪夢ばかり見るようになったのか、自分ではその境界線の時期が今ひとつはっきりしないのだが、子供の頃や高校生、大学生の頃までは、楽しい夢も見れていたような気がするので、社会人になってから悪夢の割り合いが上昇していったのかもしれない。

 さて、どんな悪夢を見るか、簡潔に列挙したい。

 悪夢で徹底して多いのが、ゾンビや吸血鬼、得体の知れないモンスターや悪霊に追われている夢。とてもリアルで、とにかく命の限り必死に逃げまくるのみ。たいてい眠りから覚めるまで逃げ切るのだが、一度だけゾンビに追いつかれた事がある。ゾンビに噛まれてしまい、僕もゾンビになって、逆に逃げ惑う人々を追いかけるのである。ゾンビの気持ちを生まれて初めて経験したのだが、ゾンビの気持ちを経験した人はいないだろう。ゾンビの気持ち…それは徹底した虚無感…やるせなさであった。夢の中とは言え、自分がゾンビになってしまったと言うのは、悪夢の中でも最悪の経験だった。

 次に多い夢が、街中ないし誰もいない田舎道等で、たった一人で彷徨っている夢。地獄の責め苦で、最も苦しい責め苦は"孤独地獄である"と言う話しを子供の頃聞いた事があるが、一人で彷徨っているのは本当に孤独で寂しい。昔、夢でみた光景が時折登場する…夢の中では既知の場所なのである…が、現実には行った事の無い土地ばかりである。

 3番目に多い夢が、昔の学校、勤めていた銀行、前の会社などで、テストや営業成績ノルマ達成に追われている夢。登場人物が、大学時代、中学、高校時代、銀行時代、会社時代の人々が入り混じっていたり、僕自身の年齢もまちまちだったりする。大学を卒業したのにまた同じ教科を受講していたり、また銀行に戻って営業に出る準備をしていたり、状況設定はまちまち。

 上記の他にも、色んな悪夢がある。運転している車のブレーキが効かなかったり、パラグライダーのキャノピーが潰れて墜落したり、溺れそうになったり…と色んな悪夢を見る。

 これらの悪夢に共通しているのは、夢の中なのにとてもリアルである事。僕が映画好きだからかもしれないが、きれいな"総天然色"のフルカラーで、詳細まで現実感に溢れた3次元映像なのである。映像と言うのは正確じゃない。"映像"と言うよりは、"リアルな体験"と言った方が良い。そのリアリティは、ハリウッド特撮映画を遥かに凌駕しているのだ(^_^;;)。それともう一つ。脳が形作る想像の世界なのに、夢の内容を絶対に自分でコントロールできない束縛感があって、様々な物事が何もかも自分の意志と反対に移行していってしまうのである。現実世界もたいへんなのに、夢の中身さえ自由にならない…これでは、起きている時も寝ている時も、つまり一日中疲れる事になる。私の妻は、「昔、オカルト映画でも見すぎたせいじゃないの?」と言うが、それは絶対に違うと思う(笑)。

 社会人になって"悪夢が増えた"と言うのは、(誰もが…素人でも…そう判断するように)仕事のプレッシャーが第一要因かもしれない。営業成績や人間関係等々のプレッシャー、特に最近は自営業者として、事業計画、営業、制作、経理を一人でこなし、家族の生活もこの腕一本で支えなければならない、と言う大きなプレッシャー、これが大きいのかもしれない。
 実際、今春には数ヶ月胃腸の不調で苦しみ、初めて胃カメラを飲んだら十二指腸の炎症だと判明し、1ヶ月間薬を飲むことになった。また、最近は不眠症傾向にも苛まれていて、夜中に4度も5度も起きてしまう事もある。十数年に渡る大きなプレッシャーは、精神、体の両面に、具体的症状となって現れているようである。

 私も、悪夢にただ手をこまねいている訳ではない。ある時は、見たい夢を見る方法があると聞いては、その本を読んで実践したり。…まぁ、結果はまったく影響なく、相変わらずの悪夢の連続である。ある時は、セロトニンでも不足しているのか、と思ったり。で、毎日バナナを食べたり、牛乳を飲んだり。結果は、やはり影響なし。個人的には、「何らかの脳内物質が不足しているのかな~」と思っているのだが、悪夢への根本的な対策は、日々のプレッシャーを上手く払いのける事であると考えている。しかし、これがたいへん難しい。
 ①生きていく以上、仕事は続けねばならない→②楽に稼げる仕事は無い→③プレッシャーは必然…となるからである。適度のプレッシャーは、精神と体の双方に良い影響を与えると言われるが、過剰なプレッシャーの連続は、精神と体の両方に悪影響を与えると言われる。で、現在、私は精神的には"悪夢"、肉体的には"胃腸の不調"や"不眠症状"…なのである。頭の論理では、「明日の事を思い煩っても仕方ない」と言う事、「今日の苦労は今日だけで十分である」と言う事を、しっかり分かっている。しかし、私の仕事は(私に限らず多くの人の人生がそうだと思うのだが)、一年先、否、半年先すら、どうなっているか分からない。だから、(理性とは別の)潜在意識がプレッシャーで押し潰されそうなのかもしれない。"禁断の惑星"の"イドの怪物"が、僕の脳内に現れて暴れまわっていると言う事なのだろう。

 正直、今のところ、悪夢から逃れる方法は見つかっていない。トンネルの先に、光は見えていない。今夜もまた、モンスターに追われ、テストに追われ、仕事に追われ、ブレーキの効かない車に乗り、空から墜落し、海で溺れ、一人で田舎道を彷徨う夢を見るであろうし、その度に目を覚ますのだろう。とりあえず今は、それを優れたリアリティのあるハリウッド"実体験版"大作映画として楽しむしかないのである。そのサスペンス映画(ないしオカルト映画)が、いつしかコメディ映画、娯楽アドベンチャー映画、歴史ロマンス映画になる事を、心から願っているのであった。


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