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アキバ考   (2006年6月18日記載)

 ここ数年で、随分と秋葉原が注目されだした。もはや秋葉原とは呼ばれず、アキバと呼ばれる昨今であり、そこに集う若者・趣味人はアキバ系と呼ばれる。秋葉原と言う地は、もちろん日本の一大電気街としての知名度はあった訳だが、それは渋谷や原宿のような若者が集まるイメージや、新宿や池袋のサラリーマンの勤務地としてのイメージとは、趣を異にしていたと思う。僕も15年もCG制作に関わり、その間パソコングッズや映像用品を買いに頻繁に秋葉原に通っていたので、"秋葉原"と言う地の変遷を事細かに目にしてきた。その間の移り変わりを、徒然なるままに書き記してみたい。

 さて、この"秋葉原"と言う地が、具体的にどこにあるか皆さんご存知だろうか?話しは過去に遡るが、私の事務所は以前千代田区の九段南と言う所にあった。周囲には領事館や大使館や名門の学校等が多数ある治安の良いところで、市ヶ谷駅から歩いて5分と言う絶好の場所だった。しかし事務所が手狭になったのと、お客さんからの利便性を考えて、3年前に同じ千代田区内の秋葉原駅近辺に引越しをした。
 さて、今"秋葉原駅近辺"と書いたが、JRの秋葉原駅は千代田区の神田佐久間町と外神田の狭間に位置する。"秋葉原駅"は、秋葉原と言う地にあるのではない。地図で駅の周辺を見回しても、千代田区内に秋葉原と言う地名は存在しない。地図で秋葉原の周辺を探ると、外神田、神田佐久間町、神田和泉町、神田岩本町、そして僕の事務所のある東神田…そう言う"神田"が付く地名しか見つからない(※ちなみに、JR秋葉原の隣の駅は神田である)。「なんでこの駅名、秋葉原駅なんだろう?」と疑問に思っていたが、ある日自転車で電気街の外れを走っていると「秋葉原」と書き記された標識を発見した。なんと、秋葉原は隣の台東区だったのである。そこは秋葉原駅から北に500メートルほど行った所で、しかもとても狭い区域なのである。これではいくら千代田区の地図を探しても、"秋葉原"が見つからないはずである。
 このように、駅が存在する場所と地名が一致しない例って、全国ではけっこうあるようだ。例えば、新幹線も停まる大きな"品川駅"も品川区ではなく、港区に存在する。秋葉原駅も、そんな駅の一つである。だから、僕は自分の事務所を「秋葉原にある事務所」とは決して言わない。「秋葉原近辺の事務所」ないし「秋葉原駅と浅草橋駅の間の事務所」…みたいなまどろっこしい言い方をしている。アキバ電気街の店にしても、本当は同様なのだ。厳密には、"秋葉原店"を称する大型家電店は一軒も秋葉原にはなく、うちの事務所と同様に"秋葉原近辺"にあるだけである。正確には、それらの店は"外神田店"なのである。

 秋葉原は台東区内の狭い区域を指し示す

 さて、地名においては、本当は"神田"名を冠すべき下町的なアキバだが、知名度はワールド・ワイドである。世界から、メイド・イン・ジャパンの家電を求めて人々がやって来る。いつ秋葉原の電気街へ行っても、外国からのツーリスト達がいる。時折、それらの人々にしばしば道を尋ねられる。彼等の目には、秋葉原の電気街はどう映っているのだろうか。Electric Cityと言っても、SF小説に出てくるような前衛的な造形のキラキラ輝くビルディングが立ち並んでいる訳でもなく、ただ家電店等がずらりと軒を並べているだけである。
 僕がまだ中学生の頃は、新宿と秋葉原はきっちりと棲み分けが為されていた。写真が趣味で、カメラや写真用品を買いに行く人は、新宿へ行く。ヨドバシカメラ、サクラヤ、カメラのドイ、etc.。無線やラジオが趣味で、ラジオや無線の部品等を買いに行く人は、秋葉原へ行く。家電を買いに行く人も秋葉原へ行く。石丸電気、サトウムセン、ラオックス、etc.。
 ところが多くの製品がデジタル化され、カメラもデジタル化されると、カメラを家電メーカーが作るようになった。そうなると、秋葉原でもカメラを扱う。一方、ヨドバシカメラ等の新宿の店でも、家電製品を扱うようになる。アナログのフィルム・カメラのシェアは落ち込み、デジタル・カメラのシェアが伸び続ける。パソコンは、新宿でも秋葉原でも販売の主力製品となる。なんと昨年には、巨大なヨドバシカメラの秋葉原店が誕生した。連日超満員で、オープンの頃はディズニーランドのアトラクション状態で、入場制限で入り口に並ばされた。店内に入れても、売り場があまりに大きくしかも人波が凄いので、欲しい商品に辿り着くまでたいへん苦労した(…今はかなり緩和されたが)。

 
オープン当時のヨドバシカメラ

 こうして、現在では新宿と秋葉原の垣根は、ほとんど無くなってしまった。極所的なプチ・グローバリゼーション…とでも言おうか。たいへん便利になった。写真用品を買いに新宿まで出る事もない。仕事のものでも個人の趣味のものでも、欲しい物はたいてい秋葉原で手に入る。こう言う流れは、やっぱり全国的な傾向かもしれない。
 確かに、便利にはなったかも知れない。しかし、地域自体の独自性は薄れてしまった。かつて、新宿と秋葉原は確実に相違があった。今その差は、相当薄まっている。独自性の薄れていないものがあるとしたら、集まってくる人々のマニアック性だろうか。秋葉原は、ラジオや無線を初めとする電気製品いじりが好きで、そのパーツを買いに来る人々が多かった。電車趣味の人も、多かった気がする(※もっとも電車撮影趣味の人は、写真用品を買いに来るので新宿にも多かったが)。今でもマニアックな人は秋葉原に良く来るが、無線趣味や電車趣味の人の比率は減っているような気がする。僕のようなスーパーカー世代が絶滅危惧種であるのと同様、無線趣味や電車趣味の人もレッドデータブックに載っているのかもしれない。
 現在秋葉原に集うマニアックな人々は、"アキバ系"と呼ばれる。彼等の興味の主な対象は、"萌え~"に象徴される美少女ゲーム、コミック、フィギュア等である。しかし現在の社会は趣味があまりに多様化しているので、興味の対象はもちろんそれだけに留まらない。秋葉原には、家電店以外の店がかなり増えた。メイドカフェが乱立した。昔は少なかった各種飲食店も増えた。ディスカウントショップもオープンした。大規模なアダルト・グッズショップも、何店も開かれた。
 とは言っても、やはり秋葉原は"電気の街"としての認知度がまだまだ高いようだ。秋葉原の再開発に関わる人は、秋葉原をジャパニメーション(※日本のアニメーションの俗称)の情報発信地としたいようだが、今後どうなるだろう。長年、秋葉原に通っているアキバウォッチャーとして、今後も秋葉原の変遷を見つめていきたいと思う。


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